7強時代到来か=07-08シーズン リーガ・エスパニョーラ展望
ここでは、移籍市場でのフロントの動きや強化ビジョンを見た上で、今シーズンの展望、そしてタイトル争いの鍵を握るテーマについて考えてみたい。
R・マドリー「リスキーな監督交代と未知数な補強」
優勝監督カペッロを解任し、シュスターを招へいしたR・マドリー。これはかなりリスキーな策といえるだろう 【(C)BPI】
デュデク、メツェルダー、ペペ、ドレンテ、スナイデル、ソルダード、バチスタ、サビオラ、ロベン、エインセ
【主な放出・退団した選手】
ディエゴ・ロペス、ロベルト・カルロス、エルゲラ、パボン、ラウル・ブラボ、パブロ・ガルシア、ベッカム、レジェス、カッサーノ、エメルソン
【フロント評価:50点】
銀河系軍団の最後の象徴ベッカムが去ったR・マドリーは、優勝監督のカペッロを解任し、結果と内容の両立を宣言するシュスター監督を招へい。フロントが銀河系軍団の終焉(しゅうえん)とチームの若返りを目指して補強を行い、その目的自体は達成できたものの先行きは不安だ。
監督交代劇については、カペッロのサッカーがスペクタクルなものでなかったのは事実。就任会見でシュスター監督が「タイトル獲得のみならずファンを楽しませるサッカーをする」と宣言した通り、今季のR・マドリーは“良いサッカー”がテーマとなる。結果だけでなく内容も求めるスタンスは、興行的な意味合いのみならず、ボール支配やゴールチャンスの数字を上げ、勝利の可能性を高めるという意味でも歓迎すべきなのかもしれない。ただ、勝利やタイトルが一朝一夕には手に入らないものであることは、監督としていまだ無冠のシュスター監督が一番よく理解しているはず。タイトルを取る術を知るカペッロの2年目に結果と内容の両立を求める方が、両方を実現できる可能性が高かっただろう。シュスター監督の手腕には期待したいが、監督交代は非常にリスキーなものに映る。
補強選手ではデュデク、メツェルダー、サビオラの3名を移籍金なしで獲得し、ペペ、ドレンテ、スナイデルの3名に合計7100万ユーロ(約111億円)を投じている。さらにチェルシーからロベンをクラブ史上4番目と言われる高額移籍金で獲得したが、いまさらながらレジェス獲得に1000万ユーロ(約15億7000万円)前後を出し惜しみし、A・マドリーに横取りされたのが惜しまれる。ロベンに3600万ユーロ(約57億円)を投じるくらいなら、その3分の1以下の値段でレジェスを獲得すべきだった。
新監督の下で1からチーム作りをしている以上、補強がどれだけチーム力に生かされるかは未知数なのが現状で、この状況はリーガ開幕後もしばらくは続くだろう。ただ、仕事ぶりに対しはっきり評価を下せるのがミヤトビッチSD(スポーツ・ディレクター)体制のフロントだ。今夏の移籍市場では一貫性のない補強を見せ、昨年冬に合計4000万ユーロ(約63億円)を投じ、「カンテラ(下部組織)に良い若手がいるのに」という声を押し切って獲得した若手のガゴ、イグアイン、マルセロは今季、シュスター監督のスタメン構想に入っていない。マルセロに至っては既に放出のうわささえあり、これを見るだけでフロントには落第点を付けられる。ロベルト・カルロスの抜けた穴を埋めているのは、マルセロではなく、カンテラ育ちのミゲル・トーレス。それで落ち着いたかと思えば、突然マンチェスター・ユナイテッドのエインセを獲得するなど、とにかく昨日と今日で考え方、動きが全く違う。ファン・ニステルローイの控えとして、カンテラ出身のソルダードを呼び戻して契約延長を済ませたにもかかわらず、ディエゴ・ミリート獲得にも動いている。年間の補強予算が1億ユーロ(約157億円)もあり、お金の心配をせず選手を取れるとはいえ、もう少し在籍選手やカンテラ選手の価値を認識して計画的な補強をすべきだろう。
バルセロナ「守備面は万全も、アンリ獲得で崩れた戦力バランス」
アンリ獲得は、前線の戦力余剰を生んだ。ライカールト監督の手腕次第では選手から不満が出てくる可能性もある 【 (C)Getty Images/AFLO】
アビダル、ガブリエル・ミリート、ヤヤ・トゥーレ、アンリ、ドス・サントス(昇格)
【主な放出・退団した選手】
ファン・ブロンクホルスト、ジウリー、サビオラ、マキシ・ロペス、ベレッチ
【構想外】
モッタ、エスケーロ、グジョンセン
【フロント評価:70点】
バルセロナは、このオフに6400万ユーロ(約100億円)を投じて、アンリらビッグネーム4選手の獲得という派手な補強を素早く実行した。中でもヤヤ・トゥーレの獲得は高く評価したい。プレシーズンマッチを見る限り、昨季の泣き所であった守備的ボランチは彼が入ることで問題解決となりそうだ。身体能力のみならず技術もしっかりしているため、ボール奪取に加え球さばきも抜群で、今のバルセロナに必要な守備的ボランチとして機能するだろう。また、ガブリエル・ミリート、アビダルの加入で守備の安定感も増し、プジョルが復帰すればディフェンスラインはリーガのみならず世界でも屈指の陣容となりそうだ。
不安が残るのは、アンリ獲得によってタレント余剰となる前線。ファンやマスコミからはREM(ロナウジーニョ、エトー、メッシ)トリオにアンリも含めた4人の同時起用を期待する声が挙がっているが、守備やシステム上のバランスから考えて緊急事態以外に同時起用は不可能と思われる。とはいえ、昨年の3−4−3システム同様に、攻撃サッカーを求める周囲からの強いプレッシャーに負けたライカールト監督が4人を同時起用する危険性もある。戦力バランスの均衡を崩したという意味で、アンリの獲得には疑問符が付く。
また、プレシーズンマッチの起用法からして、デコ、マルケス、エジミウソンが控えとなることは確実。彼らは公の場ではっきり自分の意見を表明するタイプの選手で、既にデコからは自身の状況をけん制する意味合いのコメントが出ており、移籍のうわさも絶えない。ライカールト監督が相当うまい選手起用法やローテーションを使わなければ、選手から不満が出てくるのは避けられないだろう。
大型補強を敢行したことでフロントの評価が高まるかに見えたが、相変わらずチキ・ベギリスタインSDの地元での評価は低い。構想外や退団となったエスケーロ、マキシ・ロペス、グジョンセンらはすべて彼が選んで連れてきた選手たちだ。チキSDのスカウティングや交渉下手をクラブも察知したのか、最近の移籍交渉では財務担当のソリアーノ副会長の名前をよく聞くようになってきた。