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チャンピオンの貫禄に屈す
J1第2節 東京V 0−2 鹿島

健闘と評される試合だが……

 インタビュールームに現れた東京ヴェルディ(以下、東京V)の柱谷哲二監督は、さばさばした口調でゲームを振り返った。

「ホームの開幕戦ということで、前半から積極的に行くつもりでした。そうすることによって自分たちのリズムが出る。実際、選手たちはスタートから果敢に戦い、最後まであきらめずにやってくれたと思います。残り30分が勝負だと考えていて、それも予測した通り。ただ、その時間帯に何度かあったチャンスを決められなかった。ほんの少しの差に見えるが、その違いが非常に大きいと感じました」


 ドローに持ち込んだ第1節の川崎フロンターレ戦に引き続き、この鹿島アントラーズ(以下、鹿島)戦もまた、東京Vの健闘と評される試合だろう。60分、柱谷監督は最初の交代カードを切り、勝負を懸ける。ドリブルによって戦況を変えられる河野広貴を投入し、点を取りに行く姿勢を明確に示した。鹿島は4日前にアジア・チャンピオンズリーグでタイへ遠征した影響か、疲れの見える時間帯だった。そして69分、最大のチャンスが訪れる。ディエゴが支点となり、レアンドロや廣山望とダイレクトパスを交換。相手のミスではなく、電光石火のパスワークで完全に崩した。ところがフィニッシュの場面、ディエゴの狙いすましたシュートはポストを直撃。あのボールが跳ね返った時の乾いた音は、しばらく忘れられそうにない。

重厚で、柔軟性に富む鹿島のサッカー

 現在、鹿島のサッカーがいかに重厚で、なおかつ柔軟性に富むかは、オズワルド・オリヴェイラ監督の分析を聞けばよく分かる。先手を打たずとも、相手の出方を見極めてから対処することで十分に間に合うという余裕を感じさせるものだった。


「前半は相手にどう対応するか、読み取るまで少し時間がかかってしまいました。30分か35分あたりにようやく見えてきて、本山選手と野沢選手に『相手は4枚のDFとダブルボランチで中央を固めている。どちらかがサイドに流れて起点を作りなさい。そうすれば中の選手が引き出され、中央からも崩すことができる』という指示を出しています。後半、東京Vが攻撃的に出てきて、選手交代によってさらにその意図を伝えてきました。そこで私が読みを働かせている最中に、ボールが行ったり来たりして、両チームとも間延びしてしまいましたね。あの時間帯、互いに3回ずつくらいカウンターを仕掛けています。間延びすれば、自然とスペースが空くものです。そこで、ダニーロのようなボールキープをしながらリズムを作れる選手を入れれば生きるだろうと考えました。相手のシュートがポストに当たるなど、多少の運も味方しましたが、描いた通りに崩せたのは良かったです」


 70分、ダニーロがピッチに立ってから生まれた得点シーンは鮮やかだった。74分、ダニーロが服部年宏のマークを柳のように受け流し、反転。ペナルティーエリアにトップスピードで突入するマルキーニョスへスルーパスを通す。東京Vは和田拓三がシュートコースに身体を投げ出し、GK土肥洋一も前に飛び出すが、マルキーニョスは難なくかわして先制点を決めた。86分、追加点のチャンスメークもまたダニーロだった。服部と福西崇史をギリギリまで引き付け、フリーの内田篤人にパス。そこからファーサイドを走るマルキーニョスへと渡り、東京Vにとどめを刺した。これらの得点シーンで、おとりとなった選手の動きも見逃せない。1点目は田代有三が、2点目は伊野波雅彦がニアサイドを走り抜け、相手の意識を引くことで中央のスペースを作り出している。


 それにしても、ダニーロは一体何者だ。ゆったりボールを運び、蚊の止まりそうなシザースフェイント。プレーのテンポが明らかに異質だった。簡単に捕まえられそうに見えて、ひょいと急所にパスを通す。百戦錬磨の服部が一度のみならず、二度までも止められなかった。スピード全盛の現代サッカーにおいて、80年代から抜け出てきたゲームメーカーを思わせるスタイル。その希少性は、まるでシーラカンスのような趣がある。加えて、決定機につながった場面を除けば、まるっきり存在感を消しているのも不気味だ。この試合のダニーロについて、私は前述した以上のことを何一つ覚えていない。彼は、毎度こんな調子なのだろうか。

海江田哲朗

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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