センバツ出場のドラフト候補診断 株を上げた選手、課題を残した選手は?

西尾典文
 連日熱戦が続いている選抜高校野球。ドラフト戦線という意味でもシーズンの開幕を告げる大会であり、特に序盤は例年通り各球団のスカウト陣が有力選手の視察に訪れていた。既に甲子園を去った候補も多いが、そんな中でも今大会で目に付いたドラフト候補たちのプレーぶりを紹介したい。

星稜・奥川はドラ1候補の実力を披露

奥川は初戦で3安打17奪三振の快投を披露した 【写真は共同】

 大会前から最も注目を集めていた奥川恭伸(星稜)だが、前評判通りの見事なピッチングを披露した。初戦の履正社戦では全国でも屈指の強力打線を全く寄せ付けず、被安打3、17奪三振、1四球で完封勝利。スピードも自己最速となる151キロをマークした。

 初回から9回までの間で、ストレートの最速が145キロを下回ったイニングは7回(144キロ)のみ。いかにコンスタントに速いボールを投げられるかがよく分かるだろう。そして奥川の良さは、そのストレートと変化球が見事なコンビネーションになっているところ。右打者にはスライダー、左打者にはチェンジアップと外に逃げる変化球を操り、時折速いボールで内角を突くことも忘れない。さらにストレートと同じ軌道から鋭く落ちるフォークも一級品で、全てのボールを勝負球として使うことができるのだ。

 課題を挙げるとすれば、昨年から言われている下半身の使い方になる。ステップの幅が狭く、上半身の力が強いフォームのため、どうしても高めに浮くボールが多くなり、敗れた習志野戦ではシュート回転も目立った。ただそれでも試合を作る能力は高校生離れしており、大きな故障がなければ、1位指名の可能性は極めて高い。

小柄ながら完成度の高い広陵・河野

河野は150キロをマークしたが、スピードに頼らない投球ができるのが持ち味だ 【写真は共同】

 奥川以外の投手で今大会大きく評価を上げた投手といえば、河野佳(広陵)になる。

 昨年秋の明治神宮大会ではリリーフで数イニングの登板に終わり、奥川擁する星稜にコールド負けを喫したが、今大会は初戦で秋の東北覇者・八戸学院光星を相手に3安打完封。174センチと投手としては小柄な部類に入るが、ストレートの最速は150キロをマークした。

 河野も奥川と同様にスピードに頼らないのが長所だ。初回に速いボールを見せた後は変化球の割合を多くし、勝負どころで力を入れるという大人のピッチングができていた。体格的なスケールのなさを指摘する声もあるが、これだけのスピードと完成度を併せ持つ高校生投手は希少であり、本人がプロ志望であれば指名される可能性は高い。

 奥川、河野以外では岩本大地(石岡一)、前佑囲斗(津田学園)、大畑蓮(明豊)などが目についた。岩本はたくましい下半身と安定したフォーム、前は長いリーチを生かした腕の振り、大畑は癖のないフォームとボールの角度が持ち味。現時点では即プロ入りというよりも大学、社会人経由という印象だが、夏までの成長次第では評価が変わってくることも十分に考えられる。

横浜・及川は投球スタイルの確立を

及川には今後、投球スタイルを確立していくことが求められる 【写真は共同】

 一方で上位指名候補と見られていた及川雅貴(横浜)は、初戦で3回途中降板(その後8回途中から再度登板)と、ほろ苦い春となった。

 ストレートの最速は146キロをマークしたものの、初回の投球練習から制球が定まらず、リズムも単調になったため、決め球のスライダーも完璧に狙い打たれていた。長いリーチと柔らかい腕の振りは一級品で、運動能力の高さも申し分ないが、まだそれがピッチングに生かしきれていないように見える。現時点でもドラフトにかかる可能性は高いが、上位指名を確実なものにするためには、まずフォームをしっかりと固めて自分のピッチングスタイルを確立させることが必要だろう。

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著者プロフィール

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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