技巧派投手が語り合う変化球の過去と未来〜小宮山悟×武田一浩 対談〜

週刊ベースボールONLINE

現役時代に技巧派として活躍した小宮山氏(左)と武田氏に変化球の過去と未来をテーマに語り合ってもらった 【写真=BBM】

 日々進化を続ける奥深き変化球の世界。カットボールを日本球界に浸透させた武田一浩氏と、七色の球種を自由自在に操った小宮山悟氏。5つのテーマから、変化球の過去と未来を探る。

コツコツ来る打者は奥行きでOK

武田 俺はカットボールしかないよ。これで生きたから。

小宮山 あなたは基本的に、すべてが真っすぐに見える変化球だから。打者からすれば出始めは真っすぐなんだけど、結果的には曲がっている。真っすぐもちょっと速さを変えて変化球のように見せていた。

武田 そうだね。全部変化球。

小宮山 僕はちゃんと真っすぐを放ってたよ。

武田 俺も若いころは放っていたよ。でも、必要ないという結論に達した。

小宮山 僕は球種にこだわるというよりも、空振りを取れる打者には空振りを取りにいっていた。空振りを取れない打者にはバットの芯を外して打たせて取るように球種を使い分けていたね。

武田 俺は、空振りを狙っていたのはランナー三塁のときくらいかな。先発になってからはフォークを投げていたからね。それ以外は空振りは必要ないと思っていた。むしろ「打て」というくらい。

小宮山 バットに当たらなければ点を取られることはないから、僕は空振りが取れるならそっちのほうがいいと考えていたけどね。

武田 近鉄の武藤(孝司)なんかは全然空振りしてくれなかった。「ファウル打つんじゃねえよ」って思っていた(笑)。

小宮山 ホームランのない打者はどうしてもコツコツ当ててくるよね。でも、打ちにきてくれるから抑えるのはむしろ楽だった。

武田 コツコツくるタイプは奥行きを使えばOKなんだよね。横の変化だとファウルで粘られてしまうから。

小宮山 投手にとって一番いけないのはホームラン。フェンスを越せない人たちに神経質になって投げることはなかった。ゴロを打たせにかかって、結果的にゴロになればそれでいい。それがヒットになったとしても、たまたま内野の間を抜けてしまったという認識だったね。

新球種はキャッチボールで試す

緩急をつけた七色の変化球と精密なコントロールが光った小宮山氏。「ストライクを取るのに苦労したことはなかった」と語るほど 【写真=BBM】

武田 俺はだいたいの球は投げていたな。カットボール、スライダー、フォーク、シュート、チェンジアップ……。

小宮山 僕はスライダー、カーブ、シュート、フォーク、カットボール、チェンジアップ……それに球速差をつけて使い分けていたな。

武田 みんな独学だったよね。いろいろな握りを試しながら、一番しっくりくる方法で投げていた。

小宮山 武田はスライダーの名手だったけど、同じスライダーでも武田の握りと僕の握りは違う。手の感覚は人それぞれだから、ボールのどこを握って、どういうふうに力を加えるかもそれぞれ。キャッチボールで、これくらい力を入れるとこれくらいの回転数になるというのを把握しながら、自分のモノにしていくしかない。自分にとって投げやすい握りが理想の握りということだからね。理屈さえ分かっていればいい。投げたい方向に対して回転軸がこうで、こういう回転を加えたいという理屈さえ分かれば、それになぞらえてどうやって曲げるかを考えればいい。

武田 しっくりくる握りを探すまでに時間がかかるよな。試合でいざ使っても、最初に投げるときは必ず打たれてしまう。そこでやめちゃう人が大半だよ。でも、多くの球種を使わないと生きていけない人はそれでも投げ続ける。俺なんかもカットボールを投げ始めたころは曲がりが早いし、変化が大きいしということで、2年くらいかかった。(川上)憲伸(元中日ほか)に言われて教えたけど、あいつも2年くらいかかっていた。俺は、打者が自分で何を打ったのか分からないような変化球が有効だと分かっていた。ストレートでもまったく縫い目に指をかけないで投げたりね。そうすると結構沈むんだよ。下位打線で普段はカモにしていた打者には初球に投げて、内野ゴロにしてた。キャッチャーとのサインなんか存在しなかったけどね。

小宮山 ひどい投手だよ。

武田 ははは(笑)。俺はイニング間のキャッチボールもやっていなかったよ。そうすると終盤には肩が冷えてきて、腕を振ってもボールがいかない。そうするとバットの先っぽに当たったりね。

小宮山 場数を踏まないと分からないことって結構あるからね。キャリアを積めば積むほど、いろいろなことができる。

武田 若いころなんかビュンビュンキャッチボールをしていたよね(笑)。歳を取ってからだよ。ちなみに、練習したけど投げられないボールはあった?

小宮山 僕はナックルだけ。

武田 ナックル投げてたじゃん。

小宮山 あれは挟んで投げていたから。指を立てて投げるナックルボールだけはムリだった。本当に指が痛くて。

武田 俺は潮崎(哲也/現西武二軍監督)のシンカーを投げたくて教えてもらったけど、無理だったね。フォームの構造上の問題もあったんだろうけど、あの指関節の柔らかさは半端じゃなかった。

小宮山 細かく分類していけばキリがないけど、体の使い方は大きく分ければ何パターンかに分かれる。その投げ方で理にかなった変化球はこれだよ、というのはあるよね。中にはカーブが投げられない投手もいる。

武田 俺、俺(笑)。

小宮山 でも、カーブが投げられる投手もいるし、それは体の使い方によるよね。普段の練習から自分がどういう投げ方をしているんだろうと意識して理解できれば、変化球はいくらでもうまくなる。

武田 コミ(小宮山)のカーブなんか俺には絶対に投げられない。スライダーみたいに横に曲がるのは投げられるけど、タテに抜けるのはダメだったんだよ。

速球を160キロに見せる工夫

ストレートとほぼ同じ速度の変化球を駆使して打者を翻ろうした武田氏。特にカットボールに関しては、NPBでは第一人者と言える 【写真=BBM】

小宮山 基本的に、バッターがいてこそのピッチングだと思っていた。逆の人もいるよね。自分のボールを投げる、というタイプ。

武田 今の若い投手には結構多いよね。

小宮山 いやいや、それは違うでしょ、という話。打者がいて、その打者をアウトに取るために、一番いい方法は何、というところからアプローチしていかないといけない。「ブルペンでアウトコースにいい球を投げました!」みたいなことを言っていても、試合でそのボールを打たれたらどうしようもないでしょ。僕は性格がゆがんでいるから、そう考えるのかもしれないけどね(笑)。

武田 分かってんじゃん(笑)。

小宮山 いいボールを投げられたら違っていたかもね。人がうらやむような、分かっていても打たれないボールを。それならそのボールありきで、「このボールを打てるもんなら打ってみろよ」というノリでずっとやっていたと思う。でも、実際には通用しないから。何とかしないといけないと考えたときに、やれることをすべてやってアウトを取るという意識でプレーした。

武田 俺も発想はまったく同じだよ。160キロを投げられるのなら、それしか投げない(笑)。投げられないからこそ、生き残るために工夫をしないと。

小宮山 160キロの足元にも及ばないようなボールしか投げられないから、160キロに近いボールに見せる技術を習得することができた。

武田 じゃあ、このボールで打ち取るのが快感だった、という球種は?

小宮山 一番楽しんで投げていたのは、カーブで空振りを取ったときだね。ドンぴしゃのタイミングで空振りを取ったときはなおさら。バッターは「来た!」という感じで打ちにきたのに、ボールの上を思いっ切り振ったり。そういうときには、顔は笑ってはいないけど、心の中では大爆笑だったよ。

武田 コミはボールを速く見せるのが上手だったけど、俺は緩い変化球がなかったから、打者が何を打ったのか分からないように投げていた。打者は真っすぐを捕まえたつもりでも、詰まっていたり、バットの先だったりするように。

小宮山 球速もあまり変わらないし、横から見ていたらほとんど全部が同じボールにしか見えなかったからね。フォークだけは落ちたから分かったけど。

武田 俺も緩急を使いたかったけどやっぱりカーブがなかったから。そこはコミと違うところ。でも、ピッチングのコンセプトは同じだね。

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