内田雅之会長に聞く“新生ノア”の未来「戻るべき場所は日本武道館」
“新生ノア”の舵取りを任された内田雅之会長にインタビュー 【スポーツナビ】
昨年11月、運営会社が「ノア・グローバル・エンタテインメント株式会社」に変更され、新しい船出を始めたノア。今回の横浜文体大会は“新生ノア”として最初のビッグマッチで、4大GHC王座戦のほか注目の試合が並ぶ。
横浜文体大会を前に、新しいノアの舵取りを任された内田雅之会長に、今後のノアの展望などを聞いた。
内部の群雄割拠が「ノア・ザ・リボーン」の第一歩
一番遠いと言いますか、オポジション感が強い団体でした。私自身も認めていますし、周りも認めていますが、一番近づきたくないのがノアでしたし、近づくことがないだろうなとも思っていました。
ただ、もともとプロレスは好きですし、所属選手は見て知っていたので、ポテンシャルの高さは認めていましたね。
――当時から丸藤正道選手らを知っていた。
そうですね。杉浦(貴)とか、(モハメド)ヨネあたりもです。やはり一時は「新日本、全日本、ノアがメジャー」と言われていた通り、選手のリング上でのポテンシャルの高さは保障されていましたし、その意識もありました。ですので、それぐらいの知識はありました。
――そして今回、会長に就任されましたが、実際にノアを内側から見てどうだったのでしょうか?
プロレス団体というのは、何十年も続く看板はありますが、どれだけ長くても中身が伴わなければただの箱でしかありません。中身がなかったら全然ダメですけど、やはり丸藤を筆頭に、杉浦とか小川(良成)とかいたことが大きいです。プロレスビジネスをやる上で、お客さんにお金を払って見て頂くリング上の素材が、しっかりあったということが大事です。またそういう選手のほかにもマサ北宮、小峠(篤司)といった若い選手もいて、現GHCヘビー級王者の(中嶋)勝彦が28歳ですよ。そういう若い素材がいて、選手が育っているという部分が魅力でしたね。
――ただ現状として、この2年間は鈴木軍との対抗戦が続き、集客という面では今は落ちている部分もあります。そういう点で課題はどんなところでしょうか?
要は情報発信量ですよね。やっている選手たちは、実際に観戦されたら「すげえな」と思わせる試合をしています。そこに対して、どれだけやっていることを見せられるか。試合が終わってから、「試合は良いけど、お客が入らない」と思われるのは、やはり反省しなきゃいけない部分で、これから改善しないといけないところ。そこは今の時代に適した情報発信力が必要だと思います。
ただそれは結局、答えはないんです。何が正しくて、何が正しくないかというのはないので。まずはそれをやる土壌を作らないといけない。
昨年、力を尽くして鈴木軍を追い払うことで、中嶋も頑張り、丸藤も頑張りました。この2年間というのは、一定期間なら良かったかも知れないですけど、それが2年間も続いたら、やはりノアのファンも、選手もスタッフも、精神的に疲弊してしまいました。ずっと蹂躙(じゅうりん)された状態でしたから。ノア側からしたら、選手の意識はまずは「対鈴木軍」になってしまい、本当は別にやることがたくさんあるのに、そこまで目が向けられません。そしてやっと追い払ったことで、今は新しいノアがどうするんだということで、『ノア・ザ・リボーン』、“ノア再生”という掛け声とともに、すべての選手にチャンスを与えたのが、今回のスタートだと思っています。
――明確な敵がいることで、そこにしか目がいかない閉塞感があったけれど、それを脱して今があると。
ベクトルがそっちに向いていましたからね。それでも取り除かれてからは、内部の中で「俺が、俺が」というのがどんどん出てきました。小峠や拳王がヘビーに転向したり、自己主張ができる環境になって、ここからが群雄割拠、内部の戦国時代が始まり、それが固まってきたら未来が見えてくると思います。
「中嶋vs.潮崎」が未来のノアの象徴
横浜文体のメーンを戦う中嶋(左)と潮崎。この2人の戦いが、ノアの未来になる 【写真:SHUHEI YOKOTA】
そうですね。若い選手がさらに成長していき、磐石な状態を作っていく。ビジネスとしたら“飛び道具”も欲しいですけど、今はせっかくモチベーションが上がっているところなので、水を差すのも変な話です。
ただ横浜文体大会では、米国の「Impact Wrestling」も参戦します。こちらは飛び道具というよりも継続参戦するメンバーで、業務提携もしているわけですから、いわゆるビッグマッチにありがちな特別なものではありません。それに丸藤が呼びかけた武藤(敬司)さんも、もちろんスペシャルな選手ですが、武藤さんの対外国人に対するプロレスは、やはり若い選手が見習うべき点もたくさんあります。今後、海外で試合をする機会があるときに、そういうプロレススタイルを見ておくのは参考にしやすいんじゃないかと思います。
――3.12の横浜文体大会は内田会長が就任されてからだと一番大きな会場での大会となります。今回の大会が新生ノアの道しるべにもなる大会だと?
今回のメイン、中嶋vs.潮崎(豪)というのが「ザ・ノア」、これが未来の象徴になります。どっちがベルトをとってもおかしくないし、ノアとして未来に継承されていく試合になると思います。ただもちろん、丸藤だってヨネだって、虎視眈々(こしたんたん)と狙うところはあるんです。「若い選手が育ってよかったな」と思うのはうわべだけで、現役である限りは、常に(GHCのベルトを)狙っていると思いますよ。それでもその中で、中嶋と潮崎が「こんな試合、俺たちには無理だ」と思わせるような試合ができるかどうか、そういう試合を見せて欲しいと思っています。
――試合以外の部分では、先ほど情報発信力が必要とお話されましたが、今後は選手やスタッフ含め、どのような施策を考えていますか?
もちろん今もやっていますが、SNSをフルに使い、いろいろな情報を配信していますし、動画のオフィシャルチャンネルもあります。会見の模様をライブ配信したりなど、インターネットを使ったものをどう確立させていくか、またほかの発信の仕方もこれから考えていく予定です。まあ選手のキャラクターもありますからね。
――やはり選手にはキャラクターをアピールしてほしい?
意外にうちの選手はリングから出ると地味なので(笑)。ただ、今はどんどん出していると思います。清宮(海斗)でさえ、強くなりたいから、杉浦と組んだり、拳王が急に裏切ったりと、自己主張をいろいろしていると思います。後はそれをわれわれスタッフがどう出していくか。それこそ私が就任してから、記者会見の頻度も増えているし、調印式やイベントも頻度を上げているので、それがどこにフックするかですよね。
――いろいろな仕掛けをする中で、どうファンに届かせるか。ファンというより、どれぐらい世間に届くかというところですね。
そうですね。コアなファンは、おかげ様でノアにはたくさんいますね。それこそ鈴木軍がいなくなり、純血なノアになって、もともとのノアファンが戻ってきたという感覚もあります。「ノアらしい」という言葉も、耳にするようになりましたから。
――新生ノアになって、会場の雰囲気も変わってきたと。
業界の人たちにも言われているのですが、選手もスタッフも、前より活き活きしているという話を聞きますね。独自のスタイルでやれていることもありますし、また他団体の選手が新たに上がってきていて、そういう選手の意識も高いと。もちろんチャンピオンに挑戦するにはハードルが低いわけではないですが、1カ月ぐらいでそこまで到達している選手もいます。
もちろんどこの団体もプライドがありますし、四六時中練習をしています。特にノアのプロレスは単純明快で、どつきあうプロレス。基本的にシングルだし、そういう試合をツアーで行っているので、体力も使うと思いますし、大変なものです。私は最初の頃、何かを仕掛けて、ほかと差別化しなきゃと思っていました。ですが、この無骨なプロレスはほかになく、守っていった方がいいと思っています。「ノア・ザ・リボーン」で“再生”とは言っていますが、実際は“温故知新”だと思っています。
この文化を創ったのは三沢光晴さんであり、ジャイアント馬場さんの時代から流れているもの。一番、練習を積んでいる団体はここだと思いますし、この戦いを残しつつも新しいチャレンジをしていきたいと思っています。それが新生ノア、新しいノアのスタイルになっていくのだと思います。
――今までのノアは、やはり創設者の三沢さんの団体という印象が非常に強かったと思います。この印象というのは、今後どうしていきたいというのはありますか?
私個人としては、三沢さんとそれほど親しくなかったですし、同世代ということはありますが、むしろ武藤さんとの仲と比べると気薄ではあります。ただ、三沢さんの教えというのは、小川や丸藤、杉浦らが、しっかりそのDNAを引き継いでいると思っています。ですからあえてそこを強調しなくても、今リングで見られる戦いが創設者のスタイルなんだなというのは分かります。彼らがいる限り、三沢さんの血は受け継いでいくわけです。そこに現代の知識とかとマッチしたところに、進化が生まれるんじゃないかと。
――ゼロベースで新生ノアを作り出すのではなく、今まであったものを進化させていくと?
イメージ的には震災にあった熊本城と一緒かもしれません。地震が理由で、石垣が崩れたり、破損があったかもしれません。でもしっかりと残った部分があるので、城は崩れず、また修復していけばいいと。そこに新しい職人が入って、修復の石が加わるだけで、本体は何も変わらないんです。それはつまり、小川がいて、丸藤がいて、杉浦がいたからノアはノアであり、崩れることがなかったんだと思っています。