複合エース渡部暁斗、弟と日本初メダル 絶対的信頼感に応える飽くなき探究心
メダルが遠のきかけた悪条件下のジャンプ
団体スプリントでのメダル獲得という日本勢初の快挙を達成した渡部暁斗(左)、善斗兄弟 【写真:ロイター/アフロ】
渡部暁斗・善斗兄弟(ともに北野建設)のチームで挑んだ日本。ジャンプで先陣を任された弟の善斗は117.5メートル止まりだったトライアルから一変するようなジャンプで123メートルを飛び、14チーム中4位に付ける。2番手の兄・暁斗はトライアルでは弱い向かい風の中で最長の130.5メートルのジャンプを見せており、メダルを狙える好位置に付けられるのではという期待が膨らんだ。
だが2番手が飛び始める頃から降り出してきた雪は暁斗の頃から急激に強くなり、風もほぼ無風に。その中で123メートルに留まった暁斗は「トライアルはいいジャンプだったのでその感覚で飛べれば良かったが……まだ安定感がないのでしょうがない、という感じです」と振り返る。
その後のノルウェーやオーストリア、ドイツも雪の中でそれほど飛距離を伸ばせない展開になり、結果はまだ条件が良いうちに飛べたフランスがトップ、16秒差でドイツが続き、日本は18秒差の3位。だが距離の強いノルウェーが日本に6秒差、総合力の高いオーストリアが10秒差で続くという状況に。他の国の走力を考えれば、メダルは難しそうな雰囲気にもなってしまったのだ。
弟・善斗の健闘でつかんだ表彰台
「いつもだったら(2位でドイツの)エリックと2秒差あったら追いつこうとは思わない。けど、それを何も考えずに追いつけたのはスキーが滑ったということもあるし、昨季『走力がないと勝負にならない』と感じて夏から走りをかなり意識してやってきて、徐々に進化している手応えもあったからだと思う」
善斗は2秒前にスタートしたソチ五輪複合ノーマルヒル王者で今季ワールドカップ(以下W杯)総合2位のエリック・フレンツェル(ドイツ)にすぐに追いつき、そのままトップ集団に食らいつく粘りを見せた。ノルウェーとオーストリアも追いつき5チームの集団になった中で暁斗が転倒し、3.7秒差を付けられて引き継いだ3周目も、焦ることなくしっかり集団に戻る強さを見せた。
そして「前のドイツとノルウェーが他チームにダメージを与える走りをしていたので、それに食らいついていけば勝負になると考えて必死だった」という4周目には、前を追いかけながらフランスとオーストリアに少し差をつけて、相手に余分な力を使わせる滑り。ノルウェーとドイツが飛び出した5周目こそ着いていけなかったが、他の2チームをわずかに引き離して暁斗の最終周回につないだのだ。
「スキーが抜群に滑っていたというのもありますが、善斗がしっかり集団で帰って来てくれたことが良かったですね。しかもいつも集団後方でのタッチだったから、僕が集団を引っ張る必要のない後ろでぬくぬくでき、最後まで力を温存できました。善斗が途中でオーストリアとフランスにダメージを与えながら走ってくれたのも、最後に利いてきたと思います」
こう話す暁斗は5周目に入ると3位集団の先頭に立って積極的に引っ張り、序盤の追い上げから疲れもあったオーストリアのグローバーを突き放して、フランスのブロウにも競り勝つ強さを見せる。最後は再び追い上げてきたグローバーを振り切って首位ドイツから10.2秒差の3位と、この種目で日本初のメダル獲得を果たした。
それでも2人から出てきたのは反省の弁。暁斗は「前の2人と一緒に5周目に入ったなら自分のスプリント力がどこまで上がっているかを確かめることもできたと思うが、疲れているようだったグルーバーとブロウとの争いではそれができなかったというのが正直なところ。もっと走れても良かったかな」と冷静に振り返り、善斗は「僕が5周目で前の2チームに着いていけたら、暁斗に違う色のメダルで勝負させてあげられたと思う。そこがまだ課題です」。日本ノルディック複合チームの、意識の高さを感じる。