複合エース渡部暁斗、弟と日本初メダル 絶対的信頼感に応える飽くなき探究心

折山淑美

チームでのメダルに喜び爆発

メダルセレモニーでは、個人での銀メダル獲得時よりも喜びを爆発させた渡部暁斗(左) 【写真は共同】

 競技終了後のフラワーセレモニーで暁斗は、控え目だったラージヒル個人(銀メダル)の時とは違って喜びを爆発させた。「個人戦は『もうちょっとこうできたかな』といった感情があるのでああいう喜び方になったけど、チームの場合は僕個人の感情よりチーム一丸となってやったという感情のほうが大きいので」と照れ笑いを浮かべる。

「個人ラージヒルと同じようにいろんなキッカケが良い方向に重なって取れたメダル。目指すのはスキーが滑っていなかったり他のチームと同じくらいでも勝負できるところです。

 欲を言えば、今回はノーマルヒル団体でメダルを取りたいという気持ちが強かったので……(※結果は4位)。今日は善斗と2人でメダルをもらったけど、これくらいスキーが滑れば、最後に僕がもっと頑張れば、永井秀昭(岐阜日野自動車)さんと渡部剛弘(ガリウム)もメダルをもらえていたかもしれない。そこは僕の力不足だったと思いますね。

 だから平昌五輪へ向けて、もっと強くなりたいんです。自分のためにというのもありますが、その付加価値として、団体でアンカーを任されたら『最後はしっかり勝ってくれる』と安心して見ていてもらえるような選手になるのもありかな」

「兄弟だから」は邪念

 兄弟でのメダル獲得についても暁斗は、「善斗だからというのは全くなく、誰とでもああいう喜び方になったと思う」と言う。さらには「僕の中では兄弟というのは関係ないし、それは雑念。『兄弟だから頑張ろう』と考えた時点でもう競技に集中していないということだから、僕からしたらそれは邪念です」と言い切る。それが彼の競技への基本姿勢だ。

 善斗も「そこは暁斗のいう通りで間違いないですね。両親は喜んでくれるでしょうが、僕も『チームメートと取った』ということに、ちょっとだけ『兄弟で』というのが付くだけですから」と笑う。

 そんな暁斗だからこそ、ソチ五輪で銀メダルを獲得した時には「これで競技に対して自由になれる」と口にした。そして今は「本当にその自由を謳歌していますね。W杯に集中できるし、何か新しいことを試してみようと思う時も、『これで失敗して成績が落ちたらどうしよう』というような引け目を感じることなくやれていますから」と明るい表情で言う。その探究心の高さが、彼をソチ以降もトップ選手にしている所以(ゆえん)だ。

 日本チームの山田和由コーチは「今回はメダルを目指したノーマルヒル団体でうまくいかなかっただけに、我々が苦手としているチームスプリントでメダルを取れたのは大きな意味があると思います。今日出られなかった3人に加え、代表になれなかった選手たちもそう遠いところにいるのではない。平昌の団体戦へ向けて自信を持って夏のトレーニングに取り組めると思います」と言う。

 競り合う形で最後の暁斗につなげば、絶対に勝ってくれるはずだというチームの信頼感と、その期待を裏切らない選手になろうとする暁斗の飽くなき探究心。今回の個人の銀メダルとチームスプリントの銅メダル獲得は、「次はメダルを3個持って帰ります」(暁斗)という野望を実現させるための大きな弾みになるものだ。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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