小林祐希に芽生え始めた余裕と自信 PSVとの熱戦を終え、高揚感は鎮まらず

中田徹

王者PSV相手にドロー

王者PSVをホームに迎えた一戦、ヘーレンフェーンは1−1で引き分けた。小林祐希は攻守に健闘 【Getty Images】

 オランダリーグが開幕した8月、ヘーレンフェーンの戦績は1勝2分け1敗だったが、小林祐希が試合に出始めた9月は3戦全勝とチーム状態が上向き、4位に浮上した。10月1日にはディフェンディングチャンピオンのPSVをホーム、アベ・レンストラスタディオンに迎え、息詰まる攻防の末、1−1で引き分けた。

 アディショナルタイムに入ってからベンチに下がるまで、90分以上にわたりセントラルMFのポジションで攻守に健闘した小林は「見ていて面白かったと思いますよ。これがハイクオリティーの試合。日本ではちょっと感じられない激しさだった」と語った。

 先制点を奪ったのはヘーレンフェーンだった。後半27分、ハーフウェーラインから自陣寄りの位置でルーズボールをさばいた小林が、素早く右にいたペレ・ファン・アメルスフォールトへパス。さらにパスは右に流れていたセンターFWレザ・グーチャンネジャードへ渡り、グーチャンネジャードがクロスを送ると、中でアルベル・ゼネリが詰めてゴールを決めた。つまり、小林はファン・アメルスフォールトの“プレ・アシスト”をアシストしたことになる。

「(自分の役割が)ボランチだから、ああいうプレーが評価されるとうれしい。オランダでは、そういうのを見てくれている。オランダはアシストの前のパスとか、(ゲームの)作りでこういうプレーをした――というのを結構見てくれる国だと思いますので。あの場面で、慌ててヘディングでクリアとか、あるいはキーパーまで下げるといったプレーもいいけれど、それでは俺の持っているテクニックの意味がない。あそこであのプレーを冷静にできるというのは、(カップ戦も含めて)公式戦5試合目の余裕と自信。全てが前向きなんで、何回ミスをしても前へ前へという気持ちでやれていることにつながっていると思いますね」

スハールスから学んでいる「戦う姿勢」

スハールス(右)から、小林は「どんな時にも戦う姿勢」を学んでいるという 【Getty Images】

 ゴールを喜ぶ選手が輪を作り、スタンドが爆発する。そんな中、小林は自陣へ素早く戻り、中盤で素晴らしいコンビを組むスタイン・スハールスと身振り手振りを交えて状況を確認し合い、さらに左サイドバックのルーカス・バイカーに「落ち着いてやろう」というサインを送る。先制ゴールを決めたからといって、チームが浮ついてはいけないのだ。しかし、ヘーレンフェーンはバイカーのサイドを崩され、後半30分に追いつかれてしまった。

「勝てたなあ。(チームに)ちょっと若さが出たなあ。点を取って逆にバタついた。もっと(チームを)引き締めるタイミングがあったという後悔が残る。点を取った後、ちょっと守りに入ってしまったところが、俺の中での後悔。でも、他は悔いが残るプレーはしていない。PSVに点を取られて、もう1回ゴールを取りにいこうと前に出られたから、最後まで良い試合になった。全部、100%でやったので、自分にとってはプラスになることが多かった。ミスは多かったけれど、それは判断のミスであって、修正しやすい試合だったと思います」

 ヘーレンフェーンのスハールスは、技術、戦況判断、戦う姿勢、経験、リーダーシップに秀でた素晴らしいMFだ。この夏、PSVからヘーレンフェーンに移籍してきた彼にとって、この夜の古巣との対戦は格別なものだったに違いない。そんなスハールスがテレビ局のインタビューに応えているのを横目で見ながら、小林はこう語る。

「彼(スハールス)が今日は一番、感極まっていたと思います。どんな時にも戦う姿勢――それを彼の横で学ばせてもらってます。俺はラッキーですよね。このタイミングで、何で彼がここにいるんだって。もっといいチームに行けたはずなのに、ヘーレンフェーンを選んだ。そんな彼にここで会えたのも、俺はすごく……。その彼をも(コーチングで)動かしちゃおうと思っている自分も成長している。そう自分では感じますけれど」

「チームが成長している」

後半アディショナルタイムまでプレーし、「すごい楽しいし、すごい充実感、やりきった感が今日はありますね」と小林 【Getty Images】

 スハールスと小林が相手の攻撃の芽を摘み、安定したパスをデリバリーすることによって、グーチャンネジャード、ゼネリ、サム・ラーションの3トップは攻撃に力を注ぐことができ、ジェレミア・サン・ジュストら最終ラインの選手たちも落ち着いたディフェンスをすることができる。

「チームが成長している」。そう小林は実感している。

「こうやってチームがいい状態で、若い選手が活躍してしまうと、逆に冬(の移籍市場)で出ていってしまうんじゃないかという不安がある。そういう不安との戦いでもありますけれど(苦笑)。いいチームになった時に誰かが抜ける。それはサッカー界の仕方がないところなんですけれど、このチームで俺は最後までやりたいなとあらためて思いました。すごい楽しいし、すごい充実感、やりきった感が今日はありますね」

 PSVとの息詰まる熱戦を終えた小林の高揚感は鎮まることをしらなかった。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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