ジダンの監督としての“見えざる手腕” 遠ざかっているリーガ優勝へ好発進
賢く思慮深い、だが控えめで寡黙な男
ジダンは賢く思慮深い、だが控えめで寡黙な男だ。監督となった今も現役時代と変わっていない 【写真:ロイター/アフロ】
「ルーレット」に代表される上品なプレー。センセーショナルなボレーシュートを決めて、レバークーゼンとの決勝を制した2002年のチャンピオンズリーグ(CL)制覇への貢献。これまでジネディーヌ・ジダンは、ユベントスからレアル・マドリーへの大型移籍で話題を独占し、選手生活の晩年まで人々を魅了した“クラック”(名手)として、マドリディスタ(レアル・マドリーのファン)たちからリスペクトされてきた。
だが、現役時代の華やかさとは裏腹に、指導者としての彼はカルロ・アンチェロッティのアシスタントコーチ、後にカスティージャ(Bチーム)の監督として経験を積みながら、然るべきチャンスがおのずとやってくるのを静かに待ち続けた。そして実際にトップチームの監督就任のチャンスが訪れると、やはり静かに大役を引き受けた。
ジダンは賢く思慮深い、だが控えめで寡黙な男だ。それはむやみに走り回ることなく、フットボールのような競技に求められる動きの質、いわゆる考えてプレーするために必要な「タメ」を作り出す術(すべ)を心得ていた現役時代から変わっていない。
必要最低限の言葉を用いて選手たちをモチベート
シーズン途中で監督交代したレアル・マドリーだが、落ち着きを取り戻し、CL制覇を成し遂げた 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】
ベニテスの早期解任に伴い、昨シーズン途中で後任に抜てきされて間もなく、ジダンはそのようなやり方でいち早く選手たちの信頼をつかんだ。彼の指揮下で落ち着きを取り戻したチームは、これといったプレー戦術を確立することもなく、時折集中力を切らせる不安定さを露呈しながらも、CL決勝まで勝ち進んだ。そして遂には自分たちより長い時間と練習量を重ね、鍛え上げられたアトレティコ・マドリーとの決勝まで、接戦の末に制してしまった。
昨季のCL制覇が偶然の産物だと考える人は少ないだろうが、ジダンがふさわしい評価を得られなかったことも事実だ。それは恐らく彼が戦術的に大きな変化をもたらしたわけではなく、ただ選手たちに自分たちのプレーをするよう伝えただけだったからだろう。しかし、そうやって彼はバロンドール(世界年間最優秀選手)候補にも挙げられるようになったギャレス・ベイルやルカ・モドリッチらキーマンのパフォーマンスを引き出していったのだ。
レアル・マドリーの監督に就任してすぐに、ジダンは議論をもたらす決断を下した。ワールドカップ・ブラジル大会で際立った活躍を見せたハメス・ロドリゲスを、イスコとともにベンチに座らせたのだ。同時に彼は2人の代わりに起用したカゼミーロを中盤の底に据え、トニ・クロースを本職のインサイドハーフに移し、3トップの“BBC”(カリム・ベンゼマ、ベイル、クリスティアーノ・ロナウド)は維持した。その傍ら、多くのプレー時間を与えたルーカス・バスケスはスペイン代表に名を連ねるまでに成長した。