ジダンの監督としての“見えざる手腕” 遠ざかっているリーガ優勝へ好発進

リーガ開幕から3戦3勝で首位に立つ

マルコ・アセンシオ(写真)、アルバロ・モラタら最小限の補強にとどまったレアル・マドリー。チームの成熟度は増している 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 それでも昨季のCL制覇は、対戦相手に恵まれた幸運のたまものだと多くの人々に考えられていた。だが新シーズンを迎えた現在も、レアル・マドリーは昨季の流れを踏襲し、シンプルなフットボールで結果を出し続けている。

 アルバロ・モラタとマルコ・アセンシオが加わったことで攻撃のバリエーションが増したことは確かだ。ただ今季は21世紀を迎えて以降のレアル・マドリーとしては異例と言えるほど、新戦力の補強が少なかった。その分チームはメンバーとスタイルを継続することで安定感を増し、開幕当初から危機に瀕していた1年前とは裏腹に、肉体的、精神的にも充実した状態で開幕を迎えることができた。

 開幕から3節を終え、3勝で首位に立っているレアル・マドリーの選手たちは、今季最大の目標がリーガ・エスパニョーラのタイトル奪回であると繰り返し主張している。レアル・マドリーの選手たちがクラブの総意としてそのような意向を口にするのはめずらしいことながら、それはもっともな考えである。過去8シーズンで1度しか優勝できておらず、2011−12シーズンを最後にタイトルから遠ざかっている現状は、レアル・マドリーの歴史においては非常にまれなことだからだ。

 リーガはシーズンを通して最も安定したパフォーマンスを維持したチームが手にするタイトルであり、近年レアル・マドリーが批判されてきた最大の要因こそ、安定感の欠如だった。それはシーズン半ばにジダンが就任した昨季も含まれる。

 ジダンはベンチ前で派手なジェスチャーを行うことも、攻守が入れ替わるたびにテクニカルエリアを右往左往することもない。ほとんど動くことなく、必要最低限の指示を与えるだけだ。それはチームを成功に導くにあたって、必ずしも大声を張り上げる必要はないことを示している。

 それが必要な者もいれば、そうでない者もいる。ジダンのようなシンプルな指導者は、ほとんど知覚不可能な、しかし必要な際には必ず表れる“見えざる手腕”によって選手たちの信頼を勝ち取り、チームのパフォーマンスを引き出し、タイトルへと導くのだ。

 レアル・マドリーが現時点で首位に立っているのは、決して偶然ではないのである。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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