アルバレスが戦慄のKO劇で初防衛 ゴロフキンとのミドル級頂上決戦が実現か?

杉浦大介

16,540人の観客が熱狂

アルバレスの右がカーンをとらえ、そのまま背中から崩れ落ちKO勝利となった 【Getty Images】

 TKOタイムは6ラウンド2分37秒――。

 現地時間5月7日、米国・ラスベガスのT−モバイルアリーナで行われたボクシングのWBC世界ミドル級タイトルマッチは、リングサイドで観ていたものが背筋に寒さを感じるほどの一撃で幕を閉じた。

 王者サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)の、右オーバーハンドがカウンターでヒット。挑戦者アミア・カーン(イギリス)は立ったまま意識を失い、背中から崩れ落ちる。即座に熱狂するファンをよそに、カネロが寝そべったままのカーンの元に思わず歩みよったほどの戦慄のノックアウト劇だった。

「(カーンは)スピードはあるから、序盤は難しくなると分かっていた。その一方で、試合が進むにつれて自分が有利になることも分かっていた。みんな僕のパワーばかり認識するけど、他にも武器はあって、それを見せられたと思う」

 試合後、カネロはそう語り、4月7日にオープンしたばかりの新アリーナに集まった16,540人の観客を大喜びさせた。

勝利自体は大方の予想通り

飛び級でのミドル級挑戦は難しいと思われたカーンだが、スピードでこそ上回ったが、大方の予想通りの結末となってしまった 【Getty Images】

 もっとも、カネロの中盤KO勝利自体は、戦前に大方のファン、関係者が予想された結果ではあった。29歳のカーンは過去にライト、スーパー・ライト級で活躍してきた実力者だが、ウェルター級以上での実績は皆無。155パウンドの契約ウェイトとはいえ、飛び級でのミドル級挑戦は荷が重いと思われた。

 前半はスピードを生かしてカーンがポイントを稼げても、ひと回り大きく、より若いカネロが中盤には捉えるのではないか……。終わってみれば、大半のメディアのそんな見方通りの結末になった。

 倒されたカーンが重大なケガでも負っていれば、“階級を超えたファイト”を強引に作り上げたプロモーター、テレビ局の責任を問う声も挙がっていただろう。試合後の混乱の中で、イギリスの雄が無事に立ち上がった姿を見て、思わず安堵したのは筆者だけではなかったはずだ。

早ければ9月にゴロフキン戦?

 ともあれ、キャリアのハイライトとして記憶されるであろうKOの後、リング上で興味深いシーンが展開された。リングサイドで試合を見ていたWBA、WBC(暫定)、IBF世界ミドル級王者ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)に、カネロがリングに上がるように呼びかけたのである。

「僕は誰も恐れることはない。(ゴロフキンと)今すぐにだって戦ってやるよ」

 カネロが試合後のリング上でのインタビュー時にそう語ると、KO直後と同等と感じるほどの大きな歓声が送られた。

 カネロ対カーン戦の勝者には、ゴロフキンとの指名戦が義務付けられるている。ここでメキシコの人気者が勝ち抜いたことで、もう前哨戦は必要ない。今後の世界ボクシング界は、カネロ対ゴロフキンという“ミドル級頂上決戦”実現に向けて動くことになる。早ければ、スーパーファイトは9月のメキシコ独立記念日ウィークに開催される可能性もある。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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