バルサとレアルが苦しむ勝負の連戦 リーガとCLの両立が生む不安と希望

クラシコで光ったジダン采配

選手のタレント性に頼るのみだったエンリケ(右)とは対照的に、ジダン(左)の戦略がはまりレアルはクラシコを制した 【写真:ロイター/アフロ】

 4月2日(現地時間、以下同)に行われたエル・クラシコでは、それまで39戦も不敗記録を保ってきた絶好調のバルセロナが、昨年11月に敵地で4−0と大勝しているレアル・マドリーにホームで1−2で敗れるという、予想外の結果に終わった。

 今回のクラシコでレアル・マドリーの勝利に賭けるのは簡単なことではなかった。この日のカンプノウは数日前に亡くなったヨハン・クライフへの追悼ムードに満ちた特別な雰囲気に包まれていただけでなく、ライバルに勝ち点10差をつけていたバルセロナは引き分けでも十分な余裕があったからだ。

 しかし、レアル・マドリーのジネディーヌ・ジダン監督は90分間を通してうまく時間を操り、思い通りの試合展開に持ち込むことに成功した。後半20分前後までは相手の攻撃を待ち受ける守備に徹しながら、相手のミスを突くことに専念。ファウルで試合の流れを途切れさせることで、バルセロナが連係プレーで攻撃を構築するのを防いだ。

 そしてラスト25分前後は、バルセロナがジェラール・ピケのヘディングシュートで先制(後半11分)したこともあり、アクセルを踏み込んでゲームのテンポを速めた。とりわけ後半17分にカリム・ベンゼマが同点ゴールを決めた後は鋭いカウンターから何度も敵陣へ侵入し、チャンスを量産。決勝点となったクリスティアーノ・ロナウドのゴール以外にも、取り消された理由がいまだに分からないギャレス・ベイルのゴールもあった。

 ここ数試合に続き、イスコやハメス・ロドリゲスを先発から外してカゼミロを中盤の底に起用したジダンの人選も的確だった。クラシコではカゼミロがいつも以上に低めの位置取りでディフェンスラインと近い距離感を保ち、ルカ・モドリッチとトニ・クロースのサポートを受けながらリオネル・メッシのプレースペースを消していた。そのためクラシコでのキャリア通算500ゴール到達を狙っていたメッシは、よく整備されたレアル・マドリーの守備組織に低い位置でのプレーを強いられ、ペナルティーエリア外からのシュートや直接フリーキックでしか脅威を与えることができなかった。

 ジダンの戦略がはまったレアル・マドリーとは対照的に、バルセロナのルイス・エンリケ監督はシステムの多様性やライバルを出し抜く奇策を見せることなく、ただ選手個々のタレントの輝きに頼るのみだった。それは今回のクラシコに限らず、他の試合でも見られてきたことだ。

 今回のクラシコでは、レアル・マドリーのBBC(ベイル、ベンゼマ、C・ロナウド)とバルセロナのMSN(メッシ、ルイス・スアレス、ネイマール)に大きな差は見られなかった。それはレアル・マドリーと同様に、バルセロナの強さもエンリケの采配以上に、前線に擁する並外れた3人のアタッカーに依存していることをよく表していた。

バルセロナが迎えるターニングポイント

アトレティコとのCL準々決勝ファーストレグでは、スアレスの2ゴールで逆転勝利を収めたバルサだが、不安の残る試合展開を見せていた 【写真:ロイター/アフロ】

 選手たちはすぐに気持ちを切り替え、今季多くの試合で見せてきたプレーを取り戻すことができるのか。ここまで2季連続の3冠獲得に向けて順調に歩んできたバルセロナは、クラシコの敗戦によって突如生じた不安を抱えたまま、アトレティコ・マドリーとのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝ファーストレグを迎えなければならなかった。

 直前のレアル・ベティス戦で5−1と大勝し、ゴール欠乏症を克服してきたアトレティコ・マドリーに対し、バルセロナは前半25分にアウェーゴールを与える苦しい展開を強いられた。最終的にスアレスの2ゴールで逆転することができたものの、フェルナンド・トーレスの退場(前半35分)によって数的優位を得なければ、ライバルに主導権を握られ続けていた可能性がある。頼みのメッシもクラシコに続いて動きが重いままだった。

 いずれにせよ、CLでは手遅れになる前にリアクションを起こすことができた。翻ってリーガ・エスパニョーラではまだ2位アトレティコ・マドリーに勝ち点6差をつけているものの、9日に行われるレアル・ソシエダ戦は今も自分たちが揺るぎなき優勝候補なのか、それともトランプを積み重ねて作った城のように、脆くも崩壊してしまう危険があるのかを証明する一戦となる。

 この試合では長らく累積警告のリーチがかかっていたスアレスが出場停止となることもあり、ファンの頭には昨季の恐怖がよぎっているはずだ。昨年1月のアウェー戦では0−1で敗れただけでなく、試合直後にロッカールームでエンリケとメッシが激しい口論を繰り広げる事件も生じた。結果的にはこの一件をきっかけに快進撃が始まったとはいえ、くしくも再び重要なタイミングで迎えたアノエタ(レアル・ソシエダのホームスタジアム)での一戦は、バルセロナにとって昨季とは異なる意味でターニングポイントとなる可能性を秘めている。

 不敗記録が途切れるとともに一抹の不安が生じたバルセロナとは対照的に、レアル・マドリーはクラシコの勝利によって自信を取り戻し、目指すCL優勝へ向けて精神的な後押しを得たはずだった。だが、4日後に行われた準々決勝ファーストレグでは明らかな格下と見られていたヴォルフスブルクに0−2で敗れ、クラシコで得たばかりの勢いは台無しになってしまった。

 リーガの逆転優勝が難しいという状況は変わらず、レアル・マドリーに残された今季の希望はCLのみである。サンティアゴ・ベルナベウのセカンドレグで大逆転を実現できなければ、彼らにとっての今季が終わってしまうだけでなく、就任間もないジダンの続投も危うくなるかもしれない。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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