大躍進を遂げた白井健三の衝撃 風雲急を告げるリオ五輪体操代表争い

椎名桂子

さすがの9連覇も内村「自分に怒りを感じる」

内村の9連覇で幕を閉じた全日本体操だったが、スペシャリスト白井の2位は関係者を驚かせた 【写真:アフロ】

 今年の全日本体操(体操の全日本選手権)は、いつもの年とは違う。リオデジャネイロ五輪代表2次選考会を兼ねているからだ。その独特の緊張からか、決勝の行われた4月3日は、第1ローテーションから少し様子が違っていた。

 4月1日の予選上位5選手と、リオ五輪代表に内定し予選免除となっていた内村航平(コナミスポーツ)の6人による1班は、ゆかから演技をスタートしたが、5番目に登場した内村は、良いときの着地とは違い、ところどころ着地が動いた。それでも得点は、15.700と高かったが、内村自身、競技終了後の会見で「最初のゆかで着地がバシバシ決まっていたら違っていたかも」と振り返ったように、やや不本意なゆかの出来が、この日を象徴していた。あん馬、つり輪では大きなミスはなかったが、4種目目の跳馬の着地で前のめりになり手をつくという、めったにない大過失を犯し、続く平行棒でもミス。結果的には9連覇という偉業を達成したものの、表彰式後の会場インタビューでは「応援してくれた人に申し訳ない。代表内定をもらっているのにこの内容では。ミスをしてしまった自分に怒りを感じる」と悔しさをにじませた。

 それでも、6種目合計点は91.300と多くの選手の目標となる90点を軽々と超えてくるところはさすが。しかし、たしかにこの日の内村は「いつも通り」ではなかった。五輪本番にこういう日がめぐってこないという保証はない。そうなると、重要になってくるのが、内村に続く「個人総合の2番手選手」の存在だ。

白井、「ゆかと跳馬だけ」からの脱皮

最終種目のゆかで加藤らオールラウンダーを逆転。非凡な才能を見せつけた白井 【末永裕樹】

 今大会の決勝得点と5月4〜5日に行われるNHK杯の得点の合計で、内村を除いて最上位の選手がリオ五輪の日本代表選手の2人目に決まる。その座を獲得するためには、今回の全日本選手権で少しでも上位に入っておきたい。それが田中佑典や加藤凌平(ともにコナミスポーツ)らオールラウンダーたちに共通する思いだったはずだ。

 ところが、6種目目の試技を全員が終えたときに、電光掲示板の内村の名前の下に表示されたのは「白井健三(日本体育大)」の名前だった。

 白井はすでに世界選手権で2度、ゆかの金メダリストになっている。若いながらも実績のある選手だ。リオ五輪の日本代表にも当確と目されている。

 しかし、毎年毎年、世界一し烈な代表決定戦を繰り広げている日本の体操界で「個人総合2位」に入ってくる選手ではまだない、と思われていた。現に予選のときは、第1種目のあん馬で落下があり、総合9位に終わっている。もともとは、ゆかと跳馬のスペシャリストである白井は、個人総合では良くてもその程度の選手と思われていた。

 ところが、この日の白井は違った。

 予選と同じあん馬スタートだったが、予選でのミスをしっかり修正しノーミスで通し、14.150、続くつり輪も14.100と大きくへこむところなく、得意種目の跳馬につなぐと、跳馬では15.500と齊藤優佑(徳洲会体操クラブ)と並び、全出場者中トップのハイスコアをたたきだす。さらに、昨秋から下り技をレベルアップした平行棒を落ち着いてこなし15.100と15点台にのせると、次の鉄棒では14.350と我慢の演技。5種目終了時点での順位は内村、齊藤、加藤、神本雄也(日本体育大)、今林開人(セントラルスポーツ)に次ぐ6位にいた。

 そして迎えた最終種目は、計ったように「ゆか」だった。白井最大の得点源であるゆかはまったく付け入る隙のない完璧さを見せつけ、16.500をたたきだした。最終種目として迎えたゆかで、個人総合では初となる上位がうかがえる位置。いくら得意種目とはいえ、いつも通りの演技ができる、やはりそれは非凡としか言いようがない。

 結果、数年前まで「ゆかと跳馬だけ」の選手だった白井は、体操ニッポンの誇る並み居るオールラウンダーたちを抜き去り、個人総合2位となった。

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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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