目標が明確なマクラーレン・ホンダ、シーズン序盤で勢いに乗れるか!?

田口浩次

昨年は苦戦したマクラーレン・ホンダ。新車「MP4−31」で巻き返しを狙う 【Getty Images】

 F1復帰2年目を迎えたホンダ。彼らが初年度に供給したPU(パワーユニット)、「RA615H」のコンセプトは“サイズゼロ”と呼ばれ、限りなくコンパクトにまとめることで、現代のF1マシンにとって最重視されているエアロダイナミクスと呼ばれる空力性能をより引き出すため、デザインに自由度を持たせた。その設計思想で作られたのが、昨年のマクラーレン・ホンダのマシン「MP4−30」だった。

 しかし、見た目には走りそうなマシンだったが、実際にはコンパクトさを追い求めすぎたため、ターボサイズやMGU−Hと呼ばれる熱エネルギー回生部分の容量が小さい設計となりパワー不足が深刻化。さらにERSと呼ばれるエネルギー回生システム自体の働きも悪く、ライバルたちは問題なくサーキット1周分の電気エネルギーをマシンに供給していたが、「MP4−30」だけは、1周走りきる前に回生エネルギーを使い果たしてしまい、タイムをロスするサーキットがいくつもあった。決してマクラーレンが設計した車体も優れていたわけではないが、ホンダのPUがあまりにもトラブル続きでパワー不足もハッキリしていたため、批判はホンダに集中したと言っていい。

 そして、今年のマシンは“サイズゼロ”コンセプトを踏襲した「MP4−31」である。悔しい一年を過ごしたホンダが今年持ち込んだPU、「RA616H」は、開幕前に行われた8日間のテストにおいて、少々のトラブルはあったが、テストプログラムは充分こなしている。問題だったMGU−H部分もターボの大型化など新設計が施された。なによりも信頼性が格段に高まったことで、走行距離が伸び、多くのデータを手にすることができたことが大きい。ようやく普通の状態まで上がってきたといえるだろう。

流行を押さえた車体デザイン

カーナンバーの上部のダクトから走行中に空気が噴出する 【写真:マクラーレン】

 さて、大きく進歩した「MP4−31」。マクラーレンが設計した車体に目を向けてみると、エアロダイナミクスにおける流行はキッチリと押さえている。

 具体的に何が流行かと言うと、まずマクラーレンがライバルに先んじて昨年から採用していたSダクトと呼ばれている空力アイデア。上の写真でフロントノーズに描かれたカーナンバーの上部に、2口のダクト(穴)が開いていることがわかるだろう。このダクトからは走行中に空気が噴出している。それによって、フロントノーズ前方からドライバーのヘルメットにかけて、空気が車体に沿ってスムーズに流れることを助け、空力性能が向上する。

 そして、このSダクトがどこから空気を取り入れているのかというと、じつはフロントノーズの下側部分。普段見ることはできないが、下側には空気取り入れ口があり、そこの空気が隙間掃除用の掃除機ノズルのように、細く狭まった管を通って、フロントノーズの上部に噴出している。なぜSダクトと呼ばれているかというと、マシンを横から見たとき、この細くなった管の形状がS字のように曲がっているので、Sダクトと呼んでいるのだ。

フロントタイヤのホイール中心にある穴から空気を流すことで空力性能を高める 【写真:マクラーレン】

 他にも、フロントタイヤのホイールを見ると、中心の車軸部分に穴が開いていることがわかる。これはフロントタイヤ内側にあるブレーキなどを冷やすためのダクトから取り込んだ空気を車軸部分から噴出することによって、棒状に空気が後ろに流れていき、それがフロントタイヤが回転することで生じる乱気流を抑える。マシンの車体周辺を流れる空気の乱れを少なくして、空力性能を高めるアイデアを採用している。

リヤタイヤ前方のギザギザ加工も空気の乱れを抑える効果がある 【写真:マクラーレン】

 また、リヤタイヤ前方部分を見ると、車体の下側が板状になっていて、そこにギザギザに見える形状の加工が施されていることがわかる。これはフロアスリット(切れ込み)と呼ばれていて、リヤタイヤが回転することによって生じる空気の乱れを、少しでも抑えるためのアイデアだ。

 このように、マクラーレンが設計した車体デザインを見る限り、ライバルに引けを取る部分は見当たらない。では、その速さがいかほどのものか、オーストラリアGPの予選が終わるまで、その真価は見えていないが、正直なところ、「格段に進歩はした」ものの……、ライバルたちも同じように昨年と比較して進化したため、現時点では11チーム中、6番手か7番手といったところだろう。実は開幕前に行われた8日間のテストにおいても、それはタイムに現れていた。

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