村田、世界に向けての“リスタート”で圧勝KO 2戦ぶりに拳で味わった“倒すという感触”

船橋真二郎

勝負の16年初戦を2回2分23秒でKO勝ち

「リスタート」と位置づけて臨んだ16年初戦を2回KO勝ちで飾った村田諒太 【写真は共同】

 ロンドン五輪金メダリストで、現在はWBCとIBFの5位を最上位に主要4団体で世界ランク入りしている村田諒太(帝拳)が1月30日、中国・上海オリエンタルスポーツセンターのリングに上がり、ガストン・アレハンドロ・ベガ(アルゼンチン)に2ラウンド2分23秒KO勝ち。自ら「リスタート」と位置づけて臨んだ2016年の初戦を圧勝で飾った。

 スタートから村田の動きにはキレがあり、好調をうかがわせた。鋭いジャブを飛ばし、ベガに圧力を与えた。ラウンド中盤、ロープ際にベガを詰めると、自分より7センチ身長の低い相手の側頭部付近に右ストレートを打ち下ろし、早くも先制のダウンを奪う。
 ここは詰めを欠き、ゴングに逃れられるが、村田は次の2ラウンド、同じパンチで試合を終わらせた。ジャブの連打でけん制し、続く右ストレートで動きを止め、すかさず右を打ち下ろす。再びキャンバスに這ったベガが一度は起き上がろうとして、また転がる痛烈なダウン。そのまま仰向けになったベガは、しばらく起き上がることができなかった。

鋭いジャブが呼び込んだ“体重の乗った右”

課題であった“体重の乗った右”を打ち込み2度のダウンを奪取 【写真は共同】

 体重の乗った右を打ち抜くことは、今回のテーマのひとつだった。見せ場をつくれないまま判定に終わった昨年11月のラスベガスデビュー戦について、村田は「重心が後ろに残っていて、これでは強いパンチを打てるわけがないと感じた。自分の金メダリストとしての立場、ここまでの全勝のキャリアを守りたいという意識があったのかもしれない」と振り返っていた。どこかで守りに入っていた自分に気づかされたという村田が掲げたのが「リスタート」だったのである。

「しっかり前に体重を乗せて、当たれば倒れるというパンチを打ち込むことを前より意識している」と話していた村田が、その成果を本番のリングで示せたのは、パンチを打ち込む際の重心を改善したこと、「少々のリスクを冒してでも倒しにいく」という気持ちを新たにしたのはもちろんのこと、体重の乗ったパンチを打ち込む距離を意識し続けたことが大きかったのではないか。

 まず、ポイントになったのはジャブだ。前回のガナー・ジャクソン(ニュージーランド)戦ではジャブと攻めにいく場面が分離し、ジャブでつくった距離を生かしきれていない印象が残った。今回のベガ戦ではジャブで距離をつくると、そのスペースを突いて右を打ち込む姿勢が随所に見られ、ジャブと攻撃が連動していた。もうひとつはバックステップ。単に前への意識を働かせるだけではなく、要所に微妙なスペースをつくっていたことも右が生きた要因だったように感じられた。

 そういう意味では1ラウンドに奪ったダウン後、力が入ったのか、前に前に攻めが単調になり、右が何度も身長の低いベガの頭の上を通過した場面は本人が試合後、反省点として挙げているとおりである。それでも続く2ラウンドですぐに修正し、もたつくことなくフィニッシュに結びつけた点は評価できる。最も村田に敗れるまでのベガは10敗のうちの7つがKO負けで、期待どおりの結果という以上のものではない。

 ただ、勝負の年になりそうな重要な年のスタートで、求めてきたことを表現し、2戦ぶりに倒す感触を拳で味わったことは「ここ数試合は自分が成長しているな、強くなっているな、ということを自分自身で感じ取れていなかったのが問題」と試合前に話していた村田にとっては、何より大きかったのではないだろうか。

ターゲットはWBO王者ビリー・ジョー・サンダースか

 報道によれば、本田明彦・帝拳ジム会長は年内にも村田の世界挑戦の機会をうかがう方針を示しており、ターゲットとしてWBO王者のビリー・ジョー・サンダース(イギリス)の名前を挙げている。サンダースは北京五輪代表から翌年2009年2月にプロに転向。昨年12月、マンチェスターでアンディ・リー(アイルランド)に挑み、2度のダウンを奪う判定勝ちでサウスポー対決を制して23戦全勝12KOで新王者となったばかりの26歳だ。年明けには群雄割拠のミドル級の中心人物、WBAスーパー、WBC暫定、IBF王者のゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)から統一戦をオファーされ、4月にアメリカ開催などの条件が合わず、断ったとされる。

 この日は村田の海外試合をプロモートしているアメリカ・トップランク社のボブ・アラムプロモーターも、同社が中国本土で初めて仕掛けた興行をリングサイドで見守った。アラム氏も村田のパフォーマンスには一定の評価を示したようだが、もちろん挑戦を実現するためにはまだステップが必要。今秋には、ゴロフキンがWBC王者のサウル・アルバレス(メキシコ)とのビッグマッチが実現する予定。昨年12月にはWBAレギュラー王者のダニエル・ジェイコブス(米国)が元WBO王者で無敗のピーター・クイリン(キューバ)を1ラウンドTKOで退けて、王者としてのグレードを上げた。つまり、現在のミドル級はビッグマネーを巡って、ますます動きが活発になる機運が高まっており、この中に割って入るためには、それ相応のアピールが求められることになるのである。

 本田会長は村田の次戦を5月頃に計画。3月からスパーリング中心のロサンゼルス合宿でさらなる成長を促し、状況によっては対戦相手に世界ランカーを抜てきする可能性もあるという。上々の滑り出しを見せた村田だが、真の勝負はまだこれからである。
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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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