21歳の際がドルトレヒトの主軸で活躍 成長の先に見据える五輪代表の夢

中田徹

対戦相手の日本人フィジオもプレーを評価

対戦後、笑顔で握手を交わす際(右)と中田 【中田徹】

 相手を押し込むサッカーをしているものの、なかなかドルトレヒトは勝ち切れない。オランダ2部リーグ12節を終えた時点で、ドルトレヒトの成績は5勝2分け5敗で8位だ。

 10月30日(現地時間)の試合でも、優位に進めていたのはドルトレヒトだったが、2−1で勝ったのはデン・ボスだった。デン・ボスのフィジオとしてベンチ入りした中田貴央は「監督(レネ・ファン・エック)は『どんな内容でも試合は勝てばいい』って勝利を喜んでいました」と語った後、「ドルトレヒトで一番安定していたのは際でしたね」と言った。際とは、ドルトレヒトの右サイドバック(SB)、ファン・ウェルメスケルケン・際のことである。

 中田と話す脇を、ドルトレヒトの選手が更衣室へ向かって引き上げていく。「僕も選手のケアがあるので、それでは」と中田も更衣室へ引き上げていったが、際の姿はもうない。とっくのとうにピッチから去ってしまったのかな……と諦めかけていると、ずいぶんたってから際が更衣室の方へ歩いてきた。聞くとサポーターに呼ばれ、ずっとお互いにエール交換のようなものをしていたらしい。

「みんな、結構僕に愛着を持ってくれている。毎試合サポーターから呼ばれますね。“寿司コール”だったり“侍コール”だったり。そういうことが増えてきてありがたいです。本当に何回も呼んでもらって、やっている僕としては楽しいです。うれしいですね。そういう関係ができてきたというのは」

 際にとっても、サポーターにとっても、負けて気分が良かろうはずもない。それでも、ピッチの上と観客席の垣根を越えて、お互いに戦い合ったことを認め、両者はエールを贈り合っているのであった。

SBとしての安定感が増す

 開幕戦を振り出しに、数週間おきに際のパフォーマンスを追っているが、その成長曲線はなだらかながらも明らかに右上へと上昇している。まだGKへのバックパスは多いし、時おりプレーに集中を欠くこともあるが、右SBとしての安定感は確実に増している。際は「最近、自分のスタイルが変わってきたんです」と言う。

「前は、僕はずっと下がっていたじゃないですか。それが、最近は前の方へ上がっていることが多くなってきた。今日のデン・ボス戦で言うと、前半に自陣からずっとドリブルして敵陣深いところまで行ったりとか、後半何本かクロスを入れたりとか。クロスの本数自体は本当に多い。その質が前は悪かったんですけれど、練習することによって少しずつ良くなってきています」

 また、以前に比べると慌てることが少なくなったこともプラスだと言う。

 今季開幕戦で際を先発に抜てきしたヤン・エーフェルスは、首脳陣との不仲もあってクラブを去った。現監督、ハリー・ファン・デン・ハムは2季ぶりにドルトレヒトに戻ってきた。「今の監督は、僕にとってちょっとしたトラウマがあるんです」と際は話す。

「ファン・デン・ハム監督は、僕が2年前、ドルトレヒトに来た時のトップチームの監督でした。あの時、僕はまったくオランダ語が喋れず、監督の言っていることも理解できなかった。それで、練習も僕のせいで少し止まってしまうことがありました。そういう面も含めて評価されず、僕はリザーブチームに落ちました。当時、もう一人スペイン人の選手がいたんですけれど、言葉がしゃべれず冬にチームを去って行きました。そういう面で、ファン・デン・ハム監督にとって、オランダ語の重要性は高いんだなと思いました」

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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