初黒星の亀田和毅、米国での評価は!?=タイトル奪取失敗で見えた課題と期待

杉浦大介

軽量級らしいスピーディーな展開

WBA世界バンタム級タイトルマッチでスピーディーな好ファイトを展開した王者マクドネルと挑戦者・亀田和毅。試合は僅差の判定でマクドネルに軍配が上がった 【写真は共同】

「トモキ・“エル・メキシカニート”・カメダは私のお気に入りのボクサーの1人になった。彼は最高のニックネームの持ち主でもある」
 第10〜11ラウンドの間に、Showtimeのスポーツ部責任者であるステファン・エスピノーザがそうツイートしていた。

 そんなコメントを読めば、現地時間5月9日に米国テキサス州のヒダルゴで行われたWBA世界バンタム級タイトルマッチ、ジェイミー・マクドネルvs.亀田和毅が好内容のファイトだったことが伝わってくるだろう。

 前半はスピードに勝る亀田が優勢で、第3ラウンドには強烈なオーバーハンドの右でこれまでダウン経験がなかった王者をキャンバスに送り込む。しかし、身長で3インチ、リーチで6インチ上回る31歳のマクドネルも徐々に手数を増やし、後半は一進一退の攻防で魅せる。タイプの違う2人の実力者は上手く噛み合い、軽量級らしいスピーディーな好打戦を展開し続けた。

マクドネルの手数と有効打を評価

 特に中盤以降はポイントの振り分けが難しいラウンドが続いたが、最終ラウンドはマクドネルが明白に奪って終了。筆者は今回は会場には行かず、テレビ観戦だが、“ダウンの分だけ亀田の勝ちかな”という印象だった。ネット上で見る限り、ルー・ディベラ(有力プロモーター)、エリック・ラスキン(リング誌記者)らも筆者同様に1ポイント差で亀田の勝利を支持していたようである。

 しかし、発表された採点はすべて114−113の3−0でマクドネルがタイトル防衛に成功。亀田が今回の興行をコントロールするアル・ヘイモン傘下であることまで考慮すれば、この採点は少々意外ではあった。ジャッジはマクドネルの手数と終盤の有効打を評価したということなのだろう。

 亀田側は判定への不服を申し立てたようだが、“不当”とまで呼べる裁定ではない。ともに持ち味を出したフェアな攻防だっただけに、際どいポイント勝負でも、少なくとも見ている側に後味の良さを感じさせる一戦ではあった。

米4大ネットワークの一つに登場

 現在のアメリカ・ボクシング界では、強力アドバイザー、アル・ヘイモンが陣頭指揮を執っての地上波テレビ復帰が進行中だ。これまでビッグファイトはHBO、Showtimeといった別途の加入料が必要なプレミア・ケーブル局でしか見れなかったのが、今春から多くの人が無料で視聴できる方向に進みつつある。

 マクドネルvs.亀田戦も、米4大ネットワークの1つであるCBSが米東部時間16時から生中継した興行のセミファイナル。HBOの契約件数は約3000万世帯なのに対し、米国内で1億1600万世帯が視聴できる地上波に登場することの影響は大きい。好内容で勝てば全国区に躍り出ることができ、逆に凡戦をやらかせば風当たりは余計に強くなる。タイトル云々以上に、マクドネル戦は亀田にとっても商品価値を左右する一戦だと言って良かった。その試合で惜敗し、“チャンスを逃した”という想いは本人、陣営の中にもあるに違いない。

手数の少なさと的中率の低さに課題

 WBO王者時代の昨年7月にラスベガスで指名挑戦者にKO勝ち、11月にはシカゴで暫定王者相手に防衛成功し、今回は地上波放送にも抜擢され……23歳の若さで階段を上って来た亀田のイメージは、アウトボクシングも評価する米国内では決して悪くなかった。しかし、マクドネル戦では課題も少なからずあぶり出された感がある。

 軽量級としては手数が少ない傾向はテレビの放送席にも指摘され、この日はパンチの的中率ももうひとつだった。ダウンを奪って以降は右オーバーハンドが明らかに警戒され、マクドネルはひざをうまく使って避けていたにもかかわらず、亀田側は適応できぬまま空振りを続けるシーンが目立った。試合中の機転で後半にもうひとヤマ作れていれば、判定結果も変わっていたはずだ。

流暢なスペイン語にファンも驚嘆

 ただ……32戦目にしての初黒星の後でも、好ファイトの後だけに、商品価値はそれほど下がっていない風ではある。試合後には流暢なスペイン語でインタビューを受ける姿が地上波に映し出され、これまで馴染みのなかったファンを驚かせることにもなった。冒頭で挙げたShowtimeの重役のツイートが示す通り、キャラ的にもアメリカ受けするボクシング兄弟の3男は依然として好印象を抱かれているはずだ。

 マクドネルとのリマッチの可能性は現時点で不明だが、いずれにしても遠からず再びチャンスはもらえるだろう。ポイントとなるのは、初めての挫折を味わった後でさらに成長できるかどうか。課題として指摘された部分を、的確に改善するだけの度量と能力があるか。そして、正念場となるであろう次のビッグチャンスにおいて、今度は結果も出せるかどうか。

 必要以上の先入観を持たず、アメリカでのキャリアを公平に観るように務めている筆者にとって、若いうちから海外を主戦場にする亀田は興味深い日本人ボクサーではある。トップで生き残っていくために、あと1、2段はレベルを上げる必要があるのも事実。それを成し遂げられるかどうか、今後1〜2年の進境具合を楽しみに見ていきたいところだ。
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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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