STVVに完全移籍した小野裕二の決意 歓喜の中で取り戻したサッカーの本質

中田徹

あっという間に決まったSTVVへの移籍

STVVへの移籍理由を「コンスタントに試合に出るチャンスをもらえるから」と語った小野 【Getty Images Sport】

 2010年夏、川島永嗣がリールセの一員としてベルギーリーグでのキャリアをスタートさせたのが、STVV(シント・トロイデン)のホームスタジアム、スタイエンだった。当時もホテルの建物とゴール裏が直接つながっている斬新なスタジアムだったのだが、5年たった今、さらにスタジアムは多目的化されていた。メインスタンドは巨大な駐車場付きのショッピングモール、フィットネスクラブ、オフィスとなっており、外観はとてもサッカー場とは思えなかった。

 スタイエンを訪れた7月23日は、ベルギーリーグ開幕戦、STVV対クラブ・ブルージュの試合前日練習の日だった。ホテル2階にある食堂従業員が、「今日は非公開練習の日なんだ。だけど、練習後の食事はここの隣の部屋だから、ここにいれば選手に会えるよ」と教えてくれた。お昼時になると、わずか6ユーロ(約810円)のビュッフェランチを目当てに、多くのお客さんが集まってきた。持ち帰りのお客さんも多い。サッカーの試合がない日も、スタイエンは複合施設として市民が集う場になっていた。やがてチームメートとともに小野裕二も食堂に姿を表した。
 
 7月10日、ベルギー・メディアが「小野、リカルド・ファティを含む5選手は、スタンダールのオーストリア合宿に参加しない」と報じた。ファティの場合はフロントが放出を決めたものの、小野に関してはスラボリュブ・ムスリン新監督が彼の身体能力の高さを評価し、短期間で中心選手として復活を遂げた。しかし、それまでの練習試合の起用法を見ても、スタンダールでの未来は乏しいように思われた。その3日後、ベルギー・メディアは「小野、STVVへ」と報じ、17日には「小野がSTVVとサインするのは時間の問題。契約は2年」という記事も出た。19日のSTVVのファン感謝デーの写真を見ると、ゼッケン25を付けた小野が子どもたちとボールを蹴って楽しむ写真もウェブに載り、すでにチームの一員として活動していた。20日、小野はSTVVと契約したことを自身のツイッターで報告し、あっという間にベルギー・メディアを通じて拡散された。

 食事を終えた小野に確かめると、おおむねベルギー・メディアの報道通りに移籍話は進捗したようだった。

「昨シーズンが終わる頃から、スタンダールと新シーズンのことを話していました。(ローランド・)ドゥシャテレ会長(前スタンダール会長、前STVV会長)から『STVVが1部リーグに昇格したら期限付き移籍で来るか、考えておいて』と言われたんです。高いレベルでサッカーをするならスタンダールの方がいいけれど、毎年選手の入れ替わりがすごくて、監督も代わるし、その中で自分がどこで使われるのか分からない。去年はけが明けだったし、監督が2度も代わってチームとして勝つことが第一で、自分はあまりチャンスをもらえず難しいシーズンでした。今の自分には試合に出続けることが必要なことです。STVVならコンスタントに試合に出るチャンスをもらえるから移籍しました。最初は期限付き移籍という話だったけれど、両クラブと話をして、『行くのだったら完全で』ということで2年契約をしました」

「チャンスがあるならベルギーでやり続けたい」

 ヤニック・フェレイラ監督自身が、小野のことをFWもMFもできる選手として評価していたこともあって、すぐに獲得に乗り出した。そのため、話はトントン拍子に進んだが、Jリーグに戻る選択肢はなかったのだろうか。

「自分としてはこっちでまだ何もやり遂げてないし、チャンスがあるならベルギーでやり続けたいという気持ちがある。日本に帰ることはまったく考えていなかった。選択肢がそれ(日本に復帰)しかないとか、自分が日本代表として試合に出ていて、ワールドカップのためにすぐに自分の試合を見てもらわないといけないとか、そういうシチュエーションだったら分からないけれど、自分はまだそんなレベルではない。まずはこっちでしっかり結果を残すことが大事です。そのためにも試合に出続けることが一番大事だと思います」

 翌日がホームゲームということでこの日の練習はスタイエンで行ったが、実際にはきれいな練習場もあるという。またチームも1部に上がったばかりではあるものの、もっと上位を狙うために補強しており、クラブは小野のことを熱心に誘ってくれたという。チャールトン(イングランド2部)相手に4−0で勝った試合も見た上で、小野は「この環境で再出発しようと思った」という。

「もちろんスタンダールと比べたらレベルが落ちると言われるかもしれないけれど、ピッチに入ったらスタンダールだろうがアンデルレヒトだろうが関係ない。とにかく今シーズンはこのチームで試合に出続けたい。このチームは若い選手が多いから、自分がJで経験したことや、スタンダールの一員としてベルギーリーグで(実働)1年半やったこととか、なにかそういうことを伝え、若い選手にどんどん成長してほしい。自分もそれに負けないようにしたい。スタンダールにいるときはいろんな国で活躍した選手が入って来たが、このチームは若い選手がいる。自分が中心になってどんどんチームを引っ張って行きたいです」

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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