世界3位、日本のリレーはなぜ強い? 陸連・苅部部長に聞く新バトンパスの秘密

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メンバーを入れ替えても結果を残せる理由

世界リレーのアンカー・谷口(中央)は、初めてのアンダーハンドパスも難なくこなし、銅メダルに貢献した 【Getty Images】

――世界リレー決勝における日本のバトンパスは、本当に完成形のように見えました。

 今回は本当に良かったですよ。理想に近い感じです。実はアンカーの谷口(耕太郎)選手は、アンダーハンドをやったことがなかったんです。(代表に)選んでから気づいて、「え!」となって。2日間合宿をしたのですが、そこでみっちりやって、あの結果です。ですからある程度ノウハウはありますよ。例えばサニブラウン(・ハキーム)選手も1回もやったことがありません。その不安はコーチもこの間電話で言っていましたが、「われわれはアンダーハンドだけれども、ノウハウがあるのでちゃんと教えて、そこまでちゃんと使えるような形でやることはできるから大丈夫だよ」というような話はしています。だから、アンダーハンドの習得は、実はそんなに難しくありません。

――いろんな選手が走る順番を変えても、ある程度高いレベルの結果を残してきているのは、そういったノウハウの蓄積が大きい?

 それはありますね。塚原(直貴)選手や朝原(宣治)君がいた時代は、07年の大阪世界選手権あたりからずっと固定メンバーでやってきて、一つの形を作ったわけです。08年の北京五輪で銅メダルを取った後、翌年のベルリン世界選手権では2人メンバーが替わって、藤光(謙司)選手と江里口(匡史)選手が入った。そこで結果が出るか出ないかは、われわれの課題だったのですが、4番だったんです。朝原君たちがつくってきたことがちゃんと次に伝えられて、それを再現できるんだという自信につながった大会でした。以来、メンバーがぐるぐる変わっていっても、ある程度の結果を残しています。そういうチームはあまりありません。

――実際に昨年のアジア大会と5月の世界リレーでは、メンバーが全員入れ替わっています。

 でも、それにちょっと限界を感じてきているところも実はあって、やはりエースがほしいなというのはあります。だから桐生選手や高瀬(慧)選手が(100メートルで)9秒台に入ってくるような世界的な選手になってくれば、もっと上を目指せるようになると思います。それだけ、リレーのバトンパスは確立されてきたというのが、日本の状態です。

「日本のバトンパスが一番緻密」

さらに上のレベルを目指すには「走力を上げていくしかない」と表情を引き締めた苅部氏 【スポーツナビ】

――走力となると米国、ジャマイカなどはやはり地力が違います。日本がその差をバトンパスだけで埋めていくのは相当難しいと思いますが

 難しいと思いますよ。米国やジャマイカは本当にうまくいったらものすごく速いと思います。でも、オーバーハンドでもちゃんと腕を伸ばせている時は少ない。そうすると、今日本がやっている利得距離とあまり変わりません。むしろ日本の方がスムーズなときもあります。特に米国はバトンパスを練習しないし、彼らが少しでも失敗すれば、もうわれわれの方が強いというようなところまでは来ています。そこまで来たら、後は走力を上げていくしかありません。

 でも、今やれる最大限のことはやっていて、バトンパスだけで言ったら、かなり精度の高い、多分世界的にも類を見ないようなことをやっていると思います。(各自の)タイムを見ても日本は絶対に劣っているじゃないですか。それにもかかわらず世界で3番になれる。本当にもっと世界で注目されて、「教えてくれ」と言われてもいいくらいですね(笑)。

――海外でもブラジルをはじめ、リレーに力を入れる国が出てきました。しっかり取り組めばメダルを取れると、他の国も気づき始めたということでしょうか?

 そういうことだと思います。でもアンダーハンドのノウハウはないので、オーバーハンドで、ただ単に精度を高めていって、練習に練習を重ねて、(腕を伸ばした)ギリギリのところで渡せるようにしているのではないでしょうか。手を上げ続けたら減速してしまうということもあまり考慮されているようには見えないし、おそらくバトンパスのタイムを取ったりもしていない。日本が一番緻密だと思います。

――その努力がメダルにもつながっているんですね。

「失敗を期待してやっているんじゃないか」と言われたりすることもあります。でも、そうではなくて。例えばフィギュアスケートで、ライバルが3回転で転んで減点され優勝した時、それを非難されるかといえばそうでもない。日本は確実で速いバトンパスを緻密にやってきているから勝てる。他が失敗するからラッキーなのではなくて、他国は技術がないから失敗する。そういうのをちゃんと考えてほしいなといつも思っています。「棚ぼた銅」などと言われますけれど(苦笑)、棚ぼたではありません。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

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