夢を実現したチリ、初の南米王者に 黄金世代から漂うさらなる躍進の予感

8年前から活躍を期待されていた

8年前U−20W杯を戦った選手たちを中心に、チリが初の南米王者に輝いた 【写真:ロイター/アフロ】

 マルセロ・ビエルサの就任以降、チリ代表のフットボールは大きく進歩してきた。だが今回のコパ・アメリカで手にした同国史上初のタイトルは、この国のフットボールを今まで以上に飛躍的に発展させることになるだろう。

 現在チリ代表の中核を担う選手たちは、2007年のU−20ワールドカップ(W杯)カナダ大会から既に、同国フットボール界における黄金世代として期待されてきた。だがホセ・スランタイ監督率いる当時のチームは、今回のコパ・アメリカ決勝でも対戦したセルヒオ・アグエロ、エベル・バネガ、セルヒオ・ロメロらを擁するアルゼンチンに準決勝で敗れた(結果は3位)。当時の選手たちはまだ精神的に未熟で、代表合宿中に規律違反を犯したことでも度々話題になっていた。

 あれから8年。今や彼らは南米王者に相応しい堅固なチームとなり、オープンかつ攻撃的なフットボールを提唱する中で、多数のクラック(名選手)が成長してきた。

 コパ・アメリカではアルトゥロ・ビダルやアレクシス・サンチェスが期待されていたほどの活躍を見せられなかったが、所属クラブで厳しいシーズンを戦い抜いた直後であることを考えれば理解できる。それはチリに限ったことではなく、ネイマール以外に際立ったタレントが見られなかったブラジルも(そのネイマールもコロンビア戦で受けた出場停止処分により大会から去った)、アルゼンチンも同様だった。この点はCONMEBOL(南米サッカー連盟)が今後見直すべき問題であるが、現在は多くの役員が関与し、既にインターポールに逮捕されているケースもあるFIFA(国際サッカー連盟)の汚職問題の解決を優先しなければならない。

バルディビアを生かしたサンパオリ監督

中盤で“タメ”を作ったバルディビア(左) 【写真:ロイター/アフロ】

 ビダルやサンチェスのプレーは本来のレベルになかったものの、際立ったパフォーマンスを見せた選手はいた。決勝でリオネル・メッシを完全に抑え込んだガリー・メデルは、今大会を通して絶対的なアイドルとしての地位を固めた。大会を通して最も輝きを放ったホルヘ・バルディビアは、高精度のパスでチーム全体を操るクラシカルな10番が持つ価値をあらためて証明してみせた。

 現在のチリがビエルサによって作られたと言ってしまうのは簡単だが、それだけでは十分な分析とは言えない。12年12月から代表を指揮するホルヘ・サンパオリはビエルサと同じサンタフェ出身ながら、先達とまったく同じ路線を辿ってきたわけではない。彼はより緻密で芸術性が高いプレーを志向し、バルディビアが作る“タメ”も否定しなかった。

 コパ・アメリカの開幕前、チリの地元メディアはサンパオリが行おうとしていた戦術的変更に不安を抱いていた。昨年のW杯でブラジルを追いつめながらも敗退した後(1−1からのPK2−3)、彼はあの経験から「盲目なまでに攻め続けるべきではないという教訓を得た」と話していた。

 W杯の経験を経て、彼はフットボールにおいても人生と同様に、時に二歩前進するためには一歩後退すべき時があることを学んだのだ。攻め続けるという哲学を放棄するわけではなく、アクションを起こし、相手に剣を突き出す前に状況を把握し、考え、正しい判断を行うための一瞬の“間”。それを作り出したのがバルディビアだ。好不調の波が激しく、けがも多いことから常に疑問の目にさらされてきた彼は、クラウディオ・ボルギ前監督の下では規律違反を犯し、謹慎処分を受けたこともあった。

チリの人々は幸福感で満たされている

トロフィーを掲げたクラウディオ・ブラボ(左)。今年はいくつタイトルを獲得するのか 【写真:ロイター/アフロ】

 GKクラウディオ・ブラボの好守に救われた面もあった。彼は15年を通して最もたくさんのタイトルを獲得している選手だ。バルセロナでのトリプレッテ(3冠)実現に続き、コパ・アメリカではキャプテンとしてトロフィーを掲げた彼には、さらにバルセロナで2つのスーパーカップと日本で行われるクラブW杯を勝ち獲る可能性が残されている。

 チリの弱点は守備にあったが、それはある意味仕方のないことだ。チリには遺伝的に長身選手が少ないため、空中戦に持ち込まれると脆かった。また前へ前へと攻め続ける癖があるため、マウリシオ・イスラ、エウヘニオ・メナら両サイドバックの背後を突かれやすいという問題もあった。

 しかもウルグアイとの準々決勝でエディンソン・カバーニに行った挑発行為が問題視され、準決勝以降はゴンサロ・ハラを出場停止で失った。相応しい代役がおらず、決勝ではシステム変更を施したが、完全に彼の穴埋めができたわけではなかった。

 チリが組み込まれたグループAのライバルはエクアドル、メキシコのBチーム(主力をゴールドカップへ向けて温存)、ボリビアと格下ぞろいだったことも触れておくべきだろう。ペルーとの準決勝(2−1)もカルロス・サンブラーノの早い段階での退場により優位に試合を進められた。それでも準々決勝では難敵ウルグアイを破り(1−0)、決勝では大本命のアルゼンチンと対戦している。

 決勝は非常に拮抗(きっこう)した試合だったものの、チリは高い位置からプレスと厳しく忠実なマーキングによってアルゼンチンの攻撃を阻み続けた。一方で攻撃陣はアルゼンチンの守備に抑え込まれたため、最後はスコアレスのままPK戦(4−1)での決着となった。

 コパ・アメリカ優勝とともに17年のコンフェデレーションズカップへの出場権を得たチリは、最終的な目標である18年W杯ロシア大会へ向けて今後さらに成長していくことだろう。チームとして何を目指し、今自分が何をすべきか常に明確なイメージを持ってピッチに立っている彼らは、間違いなく同国史上最も重要な世代だ。

 チリは今、この時を100年以上も待ち続けてきた人々に相応しい幸福感でいっぱいに満たされている。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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