ビダルのスキャンダルを乗り越えたチリ ボリビアに大勝し、首位でグループ突破
試合翌日に起こったスキャンダル
チリにとってボリビア戦は、プレッシャーからの解放劇だった。4日前のメキシコ戦は3−3の引き分けに終わったが、この試合をスペクタクルな試合としてたたえていいのか、それとも勝つべき相手に取りこぼしたことを憂いていいのか、分からないまま4万5000人の観衆は試合後に静まり返っていた。その翌日、ビダルがスキャンダルを起こした。
16日、午後から23時まで選手たちにオフが与えられた。22時頃、ビダルはカジノからの帰り道、前方のシェボレー・ソニックHB202を追い越そうとした。しかし、愛車フェラーリ485のハンドル操作を誤って接触。両車ともコントロールを失い、ビダルのフェラーリは砂利の側道に乗り上げ、衝突現場から70メートル先で止まった。ビダルの車は左前方部が完全に大破。これで本人は首の軽い打撲、同乗した妻が腕の脱臼で済んだのだから奇跡だった。
17日、記者会見でビダルは「すべて自分の過ちだ」と涙を流し、チームメートと国民に謝罪したが、モラルに反したその行為に当然のことながら大きな批判が起こった。それでも、ホルヘ・サンパオリ監督はビダルをチームから追放しなかった。
ビダルは可もなく不可もない出来
しかし、ナショナルスアジアムまで足を運ぶファンは温かかった。結局、ボリビア戦でビダルが先発することになっても、非難の口笛は聞こえなかった。今回の件で「チームが2つに分かれた」といううわさも飛び交っていたが、むしろ一つにまとまったかのようなハーモニーがチリに戻った。3分にはガリー・メデルのロングフィードをエドゥアルド・バルガスがきれいに落とし、チャールズ・アランギスが先制ゴールを蹴り込むと、チリが今大会好調だったボリビアを完全に凌駕した。37分にはエースのアレクシス・サンチェスが待望の初ゴールを奪い、2−0で前半を終えた。やっと、チリがワールドカップのレベルまで戻った前半の45分間だった。
ここ2試合、3バックで試合を開始していたチリだったが、ボリビア戦ではメキシコ戦の後半に引き続き4バックでスタートした。試合が始まれば、チリは最終ラインだけでも3バック(本来のDF3人、もしくはDF2人+MF1人)、2バックなど、どんどんシステムを変更していく。2トップ(サンチェス、バルガス)1シャドーの前線もホルヘ・バルディビアが“偽のストライカー”となって3トップになったり、サンチェスがMFに加わったりして、非常にシステムが流動的だ。それでも“その日の基本形”というものはあるもの。これまでの試合では左サイドが攻守に安定しなかったこと、4バックで臨んだメキシコ戦の後半がまずまずだったことから、MFジャン・ボセジュールを左サイドバックのポジションに置き、ボリビア戦は4バックにした。このシステムが今大会のチリの基本形になっていくかもしれない。
バルディビアの復活も、チームにポジティブな化学反応を生んだ。今年に入ってからけがの影響もあってパルメイラスでの出場機会をなくしていたバルディビアは、コパ・アメリカが始まってもコンディション不良に悩まされており、初戦のエクアドル戦ではガス切れを起こしていた。2戦目のメキシコ戦でサンパオリ監督は我慢してバルディビアを最後まで使い続け、やっとボリビア戦で90分間ゲームに関与し続けるところまでレベルが戻った。しかし、体とプレーのキレが戻ると、今度は敵のファウルに遭う。前半終わり頃、バルディビアは相手のチャージで右足を痛めていたが、何とか我慢しながらクロスを上げてサンチェスのゴールをアシストした。
ビダルは可もなく不可もなくといった出来の45分間だったか。サンパオリ監督は後半からビダルとサンチェスを温存したが、代わりに入ったマティアス・フェルナンデスとアンゲロ・エンリケスが独自のテンポでチームを活性化させた。
サンティアゴの夜空に響いた凱歌
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