MLB球宴ファン投票で異変のワケ デジタル化進む米球界、その恩恵と弊害
ロイヤルズ選手が上位独占の異常事態
MLBオールスターのファン投票で、ロイヤルズの選手が上位独占という異変が起きている。不正投票か、組織投票の影響か…… 【Getty Images】
6月15日の第4回中間発表では、何と指名打者を含めた7部門すべてでロイヤルズの選手がトップに立った。上位3人が出場する外野手部門では、上位4人にロイヤルズの3選手と昨年MVPのマイク・トラウト(ロサンゼルス・エンゼルス)がひしめくという状況。29日の第6回中間発表ではロイヤルズ勢のトップは3部門になったが、それでもこのまま7月2日の投票締切を迎えると、ア・リーグのスターティング・ラインアップのうち、5人をロイヤルズの選手が占めることになる。その中には、今季打率2割台前半、本塁打ゼロながら二塁手部門のトップに立っているオマー・インファンテなど、オールスター出場に見合った成績を残しているとは言えない選手も含まれる。
各リーグ15球団あるMLBのファン投票で、特定のチームがここまで露骨に“一人勝ち”している状況は前例がない。
確かにロイヤルズは今年も好成績を残しているし(6月30日現在、ア・リーグ中地区1位)、何より昨年の29年ぶりリーグ優勝の熱狂は記憶に新しい。しかし、ロイヤルズの本拠地カンザスシティは都市のマーケットサイズが30球団中29番目に過ぎず、2000年以来ファン投票でオールスターに出場した選手は1人もいない。そんなチームが今年、他球団の本拠地で行われる夢舞台をジャックしようとしているのだ。
今年からオンライン一本化、投票数倍の謎
今年のオールスターはレッズの本拠地シンシナティで開催される。赤い球場を青のロイヤルズがジャックする!? 【Getty Images】
MLBの発表によると、昨年のオールスターのファン投票総数は約3億票。そのうち約8割(約2億4000万票)がオンラインでの投票だったという。年々オンライン比率が高まる中でMLBは、今年から球場での投票用紙の配布を廃止した。
オンライン投票に一本化された今年、有効票は22日時点で3億9000万票を超え、間もなく5億票を超える見込みだという。つまり、オンライン投票の総数が昨年の倍以上に増えているのだ。MLBがどれだけプロモーションに注力しているとしても、1年で突如として投票者数が倍になるとは考えにくい。では一体、何が起きているのだろうか。
ひとつ考えられるのは、不正票が紛れ込んでいる可能性だ。
オンライン投票における1人あたりの投票回数は、35回が上限となっている。正確には「ひとつのメールアドレス」につき35回まで可能だ。そしてここで問題となるのが、投票ページにメールアドレスの認証ステップがないことだ。
投票者はメールアドレスの所有者本人かどうかを確認されることなく、インターネット上に存在するアドレスを入力しさえすれば、そのまま35回まで投票できる。MLBとしては投票数を増やすために、ユーザーにとって面倒なステップは減らしているのだろう。そのため、同一人物が複数のアドレスを使い分けたり、あるいは他人のアドレスを用いて容易に制限回数を超えて投票できることを、すでに複数のメディアが指摘している。実際、2人の野球記者が「(自分では)投票していないのに投票確認のメールを受け取った」ことを明らかにしている。
MLBは今月半ばの時点で、実に6000万票以上を無効票としてキャンセルしたことを発表している。その判断基準は不明だが、これだけ多くの票が無効票となっているのであれば、有効票としてカウントされている中にも一定数の不正票が紛れ込んでいると考えるのが自然だ。今回の「ロイヤルズ・ジャック」には、もしかしたら一部のロイヤルズファンによる不正票が影響を与えているのかもしれない。