伝統のレース、祭りの始まりはゆったりと=ル・マンの風 現地レポートVol.1
人気の理由は大きな祭り
伝統のル・マン24時間レースは大きな祭りでもある。決勝レース1週間前から盛り上がり、街中で公開車検が行われる(写真はアウディのマシン) 【田口浩次】
初開催は1923年。途中36年にストライキで、40〜48年にかけては第二次世界大戦の影響でレースを開催できなかったことがあるものの、今年は83回目の開催を迎える。インディ500がオーバルと呼ばれる楕円形の自動車専用サーキットを走行、モナコGPは街中を交通規制してレースを開催するのに対し、ル・マン24時間レースは競技専用サーキットのブガッティ・サーキットの一部と、一般道を組み合わせた、全長13.629キロのロングコースを走行する。このサーキットは、フランスのル・マン市があるサルト県の名前を取ってサルト・サーキットとも呼ばれている。
このル・マン24時間レースが長く人気を集めている理由は、結末が見えないドラマとも言うべき24時間の長丁場レースであることと、モータースポーツと言うより、ル・マン市を代表するひとつの大きな祭りとして定着しているからだろう。レースはもちろんのこと、その祭りとしての魅力、“ル・マンウイーク”の様子を伝えていきたい。
市内中心部の広場で公開車検
リパブリック広場内には多くのファンや地元民が集まり、車検を受けたマシンやドライバーたちを見学して楽しむ 【田口浩次】
今回、ル・マンに到着したのは決勝レーススタート日の6月13日(土)より1週間も早い6月6日(土)。なぜ、これほど早く到着する必要があるのか。それは7日と8日に、ル・マン市の中心部にあるリパブリック広場が特設会場となり、一般市民も楽しめる公開車検が開催されるからだ。通常のレースは日曜日が決勝レースだとして、金曜日と土曜日にフリー走行と予選が行われ、せいぜい3日間のレースパッケージとなる。しかし、祭りを楽しむル・マンの場合、車検もイベントのひとつとして2日間に分けて行われ、その後フリー走行と予選が火曜日から木曜日の3日間、さらに金曜日はドライバーズパレードに充てられ、レースが土曜日の15時(日本時間22時)スタート、ゴールが日曜日の15時(同)となる。
リパブリック広場には特設のオープンカフェなども並び、リラックスした雰囲気で公開車検を楽しむことができる 【田口浩次】
この公開車検は、タイムスケジュールも非常によく考えられていて、初日は午後2時から6時まで、2日目は午前10時から午後5時まで。人気が高いLMP1チームを両日に振り分け(初日はアウディと日産、2日目はポルシェとトヨタ)、2日目もLMP1チームを午後に組み込むことで、観客が余裕を持って楽しめるよう配慮されている。F1などではタイムスケジュールが非常に厳格に守られているのだが、ル・マンは祭りであり、当然、祭りにはお約束とも言える、時間が予定通りには守られない。この初日も、最初から押しに押して、最後のチームは約2時間遅れで車検を終えた。これほど遅れたらファンもうんざり……と思いきや、誰も時間のことなど気にすることなく、目の前に並ぶマシンやドライバーの登場を楽しんでいた。
ドライバーもリラックスムード
公開車検初日、SNS拡散用公式写真を最も楽しんでいたのは、レベリオン・レーシングの面々。組み体操に挑戦!? 【田口浩次】
まあ、さすがに通常1時間程度の会場滞在時間のはずが、先に車検を受けたチームのトラブルに巻き込まれて、約3時間も滞在することになったアウディチームの面々は、メディア取材なども終わってしまい、時間をつぶすことに苦労していたが……。
この初日、ドライバーたちのリラックスぶりを一番感じさせたのは、プライベーターとしてLMP1クラスに参戦しているレベリオン・レーシングの面々だった。フランスの英雄、アラン・プロストの息子でフォーミュラE参戦中のニコラ・プロスト、元F1ドライバーのニック・ハイドフェルドらが所属している人気チームだ。記念写真撮影では、全員が後ろ向きにサングラスをかけてみたり、撮影時に持つル・マンのSNS拡散用ハッシュタグの模型を壊してしまったり、二人一組で肩車をした状態で撮影したりと、まさに爆笑を呼びまくってのやりたい放題。祭りならではの雰囲気だ。
これほどゆったりと時間が流れているだけに、観客も熱心にすべてのチームを観戦するだけではなく、カフェでお茶を楽しんだり、フランスでも名所と知られている旧市街を散策したりと、その楽しみ方はまさに自由と個を大切にするフランス流と言えよう。
ル・マン市の地元民にとって年に一度の祭りは、このように緩い雰囲気でスタートした。
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