体操NHK杯で見せた田中、加藤の成長 その先の団体戦金メダル獲得のために

折山淑美

内村はNHK杯7連覇を達成

体操NHK杯で表彰台に上り、世界選手権代表に決定した(左から)田中、内村、加藤 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 王者・内村航平(コナミスポーツクラブ)が、鉄棒の16.100点を筆頭に、すべての種目で15点以上の高得点を獲得し、NHK杯7連覇という偉業を達成した。

 東京・国立代々木第一体育館で17日に開催された同大会は、今年10月に英国グラスゴーで開催される世界選手権の代表選考会を兼ねていたが、すでに代表に内定していた内村のほかに、この大会で男子代表の座を手にしたのは、4月の全日本選手権個人総合で2位と3位に付けていた田中佑典(コナミスポーツクラブ)と、加藤凌平(順大)だった。

理想の「美しい体操」に近づく田中

今大会ではていねいな美しさだけでなく、力強さも表現できるようになってきた田中佑典 【末永裕樹】

 大会前の会見では「Dスコア(演技価値点)の組み合わせをしっかり取る演技をして、守りに入らない攻めの演技をしたい」と話していた田中。最初のローテーションとなったゆかでは、着地で小さなミスを連発しEスコア(実施点)が上がらず、全日本選手権より低い15.050点にとどまったが、次のあん馬では安定した演技を通し、全日本の決勝を0.450点上回る14.750点を獲得した。
「あん馬は大会前の練習でいい実試が何回もできていたが、今回は用意していた内容をしっかり通せた。それで勢いに乗れたのが、最後まで粘ってノーミスの演技ができた要因のひとつだと思う」

 こう話す田中は次のつり輪でもていねいな演技でEスコアを9.000点にし、全日本の予選、決勝を0.300点上回る15.100点を獲得。跳馬もEスコア9.200点と納得の内容で乗り切ると、平行棒では兄・和仁(徳洲会体操クラブ)に次ぐ15.550点で全体3位となる高得点を出し、最後の鉄棒でも着地でわずかに乱れながらも、Dスコア7.300点の演技で内村に次ぐ全体2位の15.800点を出したのだ。

 その演技の中でも目立ったのは、つり輪や平行棒の倒立時などでみせた力強さだった。
「自分も美しさはあると思っているし、ていねいな体操はしているが、力強さがないというのがネックになっていた。でも今年に入ってから筋力の方もだんだんついてきたので、力強さも身についたと思う。ようやく自分が理想とする美しい体操に近づいてきたのかなという気がします」

 田中は自身の成長への手応えを淡々とした表情で口にした。

 そんな田中の成長を、コナミスポーツクラブの森泉貴博コーチはこう説明する。
「去年の世界選手権は予選を運良く6位で通過して、個人総合の決勝へ進めて銅メダルを獲得したのが自信になっていた。だから今年の世界選手権の選考は、個人総合で通過しなければ来年は厳しくなると話していたんです。ただ、内村に比べると精神的に弱い面もあるので、度胸をつけるためにと、昨年から今年にかけてW杯を3試合経験させた。今大会もあん馬と跳馬に関してはW杯3戦と全日本でも失敗していたので確実に成功させること。さらに平行棒と鉄棒は絶対に失敗してはいけないと、本人にプレッシャーをかけていました」

 その期待に応えようとした気持ちが、最後まで攻めの姿勢を貫く要因になったのだ。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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