最強クラブ決定戦で見た野球普及の課題 元ロッテ・清水直行、NZでの挑戦(4)

清水直行

指導の担い手は地元のボランティア

ニュージーランドの最強クラブ決定戦は、ソフトボール専用球場を手直しした球場で行われた 【(C)SAMURAI JAPAN】

 学校の授業を終えた子供たちが、バットやグラブを手に集まってきた。ニュージーランド最大の都市・オークランド近郊にある地元の野球クラブ。ここでは夏のこの時期(編集部注:南半球のため季節が日本と逆)、毎週火曜日と木曜日に2回の練習が行われる。
 ニュージーランドの夏は日照時間が驚くほど長い。日没は午後9時を過ぎるくらいだ。午後4時ならまだ太陽が高い。強い日差しに、この地では日焼け止めが欠かせない。

 キャッチボールやノックなど、指導の担い手は地元のボランティアだ。代表チームの活動とは関係しないが、私も時間を見つけてはこのクラブの練習に駆け付けている。内野や外野にノックを打ち、連携プレーの指示も飛ばす。現役を離れても、白球と戯れるのは本当に楽しい。練習時間の2時間はあっという間に過ぎていく。

 学校や仕事に追われ、余暇を楽しむ文化に乏しいに日本に比べ、ニュージーランドの人たちはとてもアクティブだ。
 世界的に有名な大自然がたくさんあることも影響しているのかもしれない。海もきれいだ。私が住むオークランドにも、ミッションベイやムリワイビーチなど、名前のあるビーチがいくつもある。学校が終わり、仕事が終わり、住民たちはそれぞれに時間を有効に使って趣味を楽しむ。海で泳ぐ人もいれば、マリンスポーツを満喫している人もいる。所有する船やヨットで沖へと繰り出し、友人や家族とディナーを楽しむ人たちもいる。

 子供たちはというと、学校の授業が終わる午後3時以降は放課後の自由時間だ。学校によって多少異なることはあっても、だいたいは「放課後の部活動」が多くない。その代わりアフタースクールが用意されている。和訳がむずかしいが、塾のような存在だ。塾といっても勉強だけではないところが日本と違うのだが。では何をするかというと、スポーツやアートなのだ。その中に、野球もある。冒頭は、そんな時間を使って野球を楽しんでいる子供たちの様子なのだ。

 野球の練習が終わると、子供たちはスパイクやシューズを脱いで柔らかい芝生の上でくつろぐ。ゆっくりと流れる時間。ほのぼのとした雰囲気は何ともいえない。こんな環境だからこそ、「もっと強化を」と焦るよりも、「ゆっくりやっていこう」と大きな可能性を感じつつ、現地の雰囲気に溶け込むことから始めている。私も芝生に横たわる。相変わらず日差しは強い。そして、空はまだ透き通るほどに青い。

ニュージーランド球界の大イベント

 4月。ニュージーランドの野球シーズンは、いよいよ佳境に入る。現地では、2月から始まる学校の新学期が終わる時期とも重なる。

 約2週間の長期休暇。この時期、野球界では年に一度のビッグイベントが催される。今年は、4月3日から4日間、4月9日から4日間、4月16日から4日間の日程で行われた「NZ National Championship」だ。

 カテゴリーは、13U(歳以下)、15U、18U、シニア(18歳以上)の4つ。各世代で出場チームが2日間の総当りでリーグ戦を行い、残り2日はプレーオフ形式で優勝を争う。頂点に立ったチームが、ニュージーランドで今年の「最強クラブ」の称号を手にすることができる。

 参加チームは、オークランドや首都・ウェリントン、クライストチャーチから集まってくる。だが、すべてのクラブが各世代をそろえられるわけではない。たとえば、あるチームは選手数の都合がつかず、15Uと18Uのみ出場登録をしている場合もある。

 事情を探ってみると、指導者の不足で練習日を確保できなかったり、18歳を過ぎて他競技へ移っていったりしたケースがあった。野球の普及活動に、もっと多く取り組まなければならないと痛感させられた。2020年東京五輪のころには、13Uからも出場する選手が育っているかもしれない。

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著者プロフィール

1975年11月24日生まれ 京都府出身。報徳学園高、日本大、東芝府中を経て、99年にドラフト2位で千葉ロッテに入団。2002年から5年連続で規定投球回と2桁勝利を継続し、エースとして活躍。05年は31年ぶりの日本一にも貢献した。04年のアテネ五輪、06年の第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に日本代表として出場。10年から横浜(現・横浜DeNA)。プロ12年間で通算105勝、防御率4.16。現役引退後は、ニュージーランド野球連盟ゼネラルマネジャー補佐、同国の代表統括コーチを務める。

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