サポーターに聞く「J3ならではの魅力」 J2・J3漫遊記 J3リーグ特別編

宇都宮徹壱

クラブとサポーターが共に成長するリーグ

松本山雅という強力なライバルがすぐ隣にある長野パルセイロ。「彼らがいてくれたからこそ、僕らもここまで来ることができた」と古川さん 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

──東山さんも、新しい南長野にかなり圧倒されていたようですが、相模原では新スタジアムの構想はあるんでしょうか?

東山 いつかはサッカー専用スタジアムを、という声は常にサポーターからありますが、現状ではギオンを改修するしかないと思っています。ただ相模原の現状を考えると、スタジアムが立派になったからといって、すぐにお客さんが増えるとも思えない。サッカー文化が根付いているとはまだまだ言い難い状況ですから。まず僕らがやるべきことは、今のギオンを満員にすること。それができて初めて「今のままではお客さんが入りきれませんよ」と行政に訴えることもできますから。

古川 長野にとっては、新しいスタジアムができたのは確かにラッキーだったけれど、サポーターで署名活動をやって8万人分の署名を集めたという実績があったからこそ行政も動きやすかったと思っています。それとやっぱり、松本山雅(FC)という存在が隣にいてくれたのは大きかったですね。彼らがいてくれたからこそ、僕らもここまで来ることができた。もちろん、まだまだ彼らの方が先を行っているのは事実ですが。

総統 昨日、松本でイベントがあったときに言ったんだけれど、松本も長野もお互いが相乗効果でもって県内のサッカーを引っ張っていかないと成長していかないと思う。欧州や南米のような、いがみ合うダービー関係ではなくて、お互いがお互いの成長を認め合えるような、世界に例を見ないようなダービーを目指してほしい。とまあ、そんな話をしたら(松本のファンに)「えーっ!」って言われました(笑)。うなずいている人もいましたけれど。

古川 オレも「えーっ!」だな(笑)。

東山 僕は長野と松本のライバル関係がうらやましいと思いますね。「じゃあ、町田はどうなんだ」っていう意見もあるかもしれないけれど、これまでのクラブの歴史の中で町田とぶつかってきたのって、ここ2年くらいでしかないんですよね。むしろ、それまでの相模原のライバルといえば、同じ県のY.S.C.C.(横浜)だったんですよ。

──現在のJ3での明確なライバル関係というと、どこになるんですかね?

東山 あえて言えば、相模原と町田、東北の3県(グルージャ盛岡、ブラウブリッツ秋田、福島ユナイテッドFC)。あと福島と(レノファ)山口は、会津と長州の関係に当てはめようとする動きもあるようですが。

古川 ダービーとか因縁とかって、無理やり作る必要はないと思うんですよね。たまたま僕らは、松本とそういう関係があってラッキーだったと思うけれど。

──最後の質問です。J3ならではの魅力、面白さとは何だと思いますか?

東山 すごく難しい質問(苦笑)。今はまだ模索している段階ですよね。先ほどお話したハイタッチみたいにJ1やJ2ではやっていない、あるいはやれないことをどんどんやっていけることが、一番の魅力じゃないですかね。

古川 J3って、リーグ戦を戦いながらクラブを成長させたり地域に浸透させたりするカテゴリーだと思うんです。つまり「Jクラブ育成リーグ」なのかなって思いますね。逆に言えば、ここのお客さんはクラブと一緒に成長していける喜びがあるかもしれない。昇格するだけではなく、クラブと一緒になって地域に根ざしたり、お客さんを増やしたりしていく。そういう意味では、クラブだけでなくファンやサポーターにとっても育成型のリーグなのであって、独自の魅力があるとすればそこなのかもしれない。

総統 古川さんのおっしゃるとおりだと思います。試合のレベルだけで見ていたら「J3ならではの魅力」と言われても厳しい(笑)。むしろ、それ以外の楽しみを見つけるべきでしょう。そこに「一緒に成長する」という楽しみがなかったら、J3の存在意義はないんじゃないですかね。あとは東山さんが言うように、いろんなことに挑戦すればいいと思う。クラブもJリーグの顔色ばかり気にするんじゃなくて、いろんなアイデアを出してそれに挑戦しようとする雰囲気を大切にしていってほしいですね。

J3を「Jクラブ育成リーグ」と見ることは可能だが

参入基準が下がったJ3は、プロクラブとしての体力を蓄えてからJ2を目指す役割も果たしている 【宇都宮徹壱】

 古川さん、東山さん、そしてロック総統による座談会は1時間以上にわたって行われ、この他にもJ−22についての評価やライセンスの問題などについても議論が繰り広げられたのだが、最後は司会を務めた私の方で引き取ることにしたい。今回の一番の議題である「J3ならではの魅力」について、個人的に最もふに落ちたのが、「Jクラブ育成リーグ」という古川さんの指摘である。実はそのことは私自身も、取材を通して意識はしていた。

 J3ができたことについて最も恩恵を感じているのは、JFL以下のカテゴリーから「Jを目指す」クラブであろう。かつてJFLからJ2へ昇格していた時代は、経営面でも戦力面でも急速な環境変化に対応するために、クラブにはキャパオーバーな負荷がかかることが少なくなかった。それがJ3の創設によって、競技施設やクラブ経営に関する条件が緩和され、新規参入のハードルは以前に比べて格段に下がった。まずはJ3への昇格を目指し、そこでプロクラブとしての体力を蓄えてからJ2を目指すという選択肢が、新たに生まれたのである。

 昨年、当連載で取材した福島ユナイテッドFCの栗原圭介監督も、現在のチームの状況について「どっちかというと、強化というよりも育成に近い感じですね。公式戦を通して、選手を育てている感じ。クラブにきちんとしたビジョンがあれば、それもありだと思います」と語っている。もちろん目先の勝負にはこだわっているはずだが、5年くらいのスパンでJ2に昇格するためのプロセスと割り切ることも大切だ。それは、J3が全国リーグで唯一、今のところ降格のないリーグとなっていることも影響しているのだろう。

 そうして考えるなら、J3を「Jクラブ育成リーグ」と見ることは十分に可能だ。しかしそれがライトなファンにとっても、魅力的なコンテンツとなり得るかと問われれば、いささかの疑問符がつく。J1やJ2のような競技レベルは望むべくもない。施設面もまた同様である。ならば、上のカテゴリーには見られないような付加価値を、90分間のコンテンツ以外のところで作っていくしかない。J3リーグという壮大な実験は、まだしばらく試行錯誤が続きそうだ。

(協力:Jリーグ)

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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