萩野と入江が見せた“一段上”の貫禄 通過点の日本選手権後に見据えるもの

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上野競泳委員長が萩野・入江に苦言

日本選手権で4冠を達成した萩野だが、いずれも自己ベストを上回ることはできず 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 競泳の日本選手権最終日は12日、東京・辰巳国際水泳場で行われ、萩野公介(東洋大)が男子400メートル個人メドレーで優勝した。すでに優勝を決めていた200メートルと400メートルの自由型、200メートル個人メドレーと合わせて4冠を達成。出場した4種目すべてで今夏の世界選手権(ロシア・カザン)の代表に内定した。

 しかし、2013年には5冠を達成している萩野。今回は背泳ぎにエントリーせず、種目を絞って臨んだだけに、自身の持つ日本記録や自己ベストを更新できなかった今回の記録は満足のいくものではないだろう。

 今大会での萩野は、コメントする際に必ずと言っていいほどタイムに関する不満を口にしている。同じく、100メートルと200メートルの背泳ぎを制した入江陵介(イトマン東進)も「しっくりきていない部分がある」と語るなど、最後まで納得のいく泳ぎを見せられなかった。

 大会の総括を語った日本水泳連盟の上野広治競泳委員長も、自己記録を更新した小関也朱篤(ミキハウス)や渡部香生子(JSS立石)らを称賛する一方で、「萩野、入江というトップレベルの選手が、自己ベストを出していないのはちょっと残念」と苦言を呈していた。

悪いなりにも“らしさ”を見せる

今大会を「通過点」と位置づけた入江だが、危なげないレース運びで背泳ぎ2冠を果たした 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 それでも、もはや勝つことが当然のように期待される中で、彼らがきっちりと勝ち切ったことは評価されるべきだろう。特に萩野は400メートル個人メドレーで、「いい勝負がしたい」と前日の100メートルバタフライを棄権してこの種目に照準を合わせてきた瀬戸大也(JSS毛呂山)の挑戦を、見事に退けている。3種目めの平泳ぎを終えた段階ではほぼ2人が横並びだったが、瀬戸が「あ、これはだめだ」と感じたというドルフィンキックで一気に加速。らしさを見せた得意の自由形で引き離した。

 一方の入江は100メートル背泳ぎの決勝後、「ここ(日本選手権)はあくまで選考会。しっかりと夏につながる課題が見つかった」と平然と語っていた。指導する道浦健寿コーチも「ここに合わせると夏にもう一度リセットしなければいけない。6〜7割ぐらいで来た。ここは通過点」と語るように、照準を合わせない中でも、危なげないレースで勝利を収めた。

 つまり、悪くても、上げなくても勝ててしまう。国内最高峰の大会である日本選手権の中でも、彼らはレベルが一段違うのだ。

夏に向けた2人の上積み

平井コーチ(写真奥)は世界選手権に向けてハードな練習を萩野に課す予定だ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 そんな彼らが勝負を懸けて挑むのが世界選手権だ。夏に向けて、2人はどのように過ごしていくのだろうか。

 道浦コーチによれば、入江は昨年末と春先に行った高地トレーニングの成果を検証しつつ、代表活動とのスケジュールを調整しながらコンディションを上げていくという。テクニック面では入江の良さである泳ぎを生かすべく、課題となっているスタートのバサロと、バサロから泳ぎにつなぐ部分を修正し、前半から積極的に入るレース展開に磨きをかけていく予定だ。

 一方の萩野は、平井伯昌コーチいわく普段は「超人的なメニュー」をこなすというが、冬場には肩を痛めていたこともあり、今季はここまで十分な練習を積むことができていなかった。今後は「他の人が一緒に練習ができない」という、萩野に合わせた世界一を目指すためのハードな練習を個別に組むという。ストロークが安定していないバタフライを修正し、得意な自由形で勝負できるように、レース展開も詰めていく。そのためにヨーロッパの大会にもエントリーしており、短期間で個人メドレーを泳ぎ込む方針だ。

 今回の日本選手権で得た収穫や課題を、どのように生かしてくるのか。世界を見据えて戦う彼らの“本気”が見られるのは、もう少し先の話になりそうだ。

(取材・文:豊田真大/スポーツナビ)
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