日本が世界で勝つために必要なこと 岡田武史×近藤聡DTC社長対談 後編

宇都宮徹壱

「われわれはヨーロッパのまねをする必要はない」

南アフリカW杯で日本代表が見せたサッカーは国内では批判されたものの、海外では「面白いサッカーをする」と評価が高かったという 【写真:Action Images/アフロ】

──岡田さんのそうした思いもまた、FC今治でのチャレンジにつながっているんでしょうか?

岡田 それはありますね。FC今治みたいな小さなところだからリスクテイクができて、チャレンジできるんだと思うんです。「日本サッカー協会の方針がこうだから」となると、なかなか「そうではない」って言えないでしょ(笑)。でもFC今治だったら、誰も気にしないですから、いろんなチャレンジが可能なわけです。

 僕らはポゼッションではなく「プログレッション」と言うんだけど、ディフェンスの時間を短くするにはどうすればというと、自分たちがボールを持っていればいい。できるだけ長く、自分たちでボールを持っていればいい。今の潮流とまったく逆だけど、世界に勝つためにどうすればいいかと考えたときに、僕らはそこに行き着きました。それがサッカーにおける、今の僕のモチベーションになっていますね。

──なるほど。今、岡田さんから「世界に勝つためにどうすればいいか」というお話が出ましたが、近藤さんは日本企業が世界と戦う上で必要なことは何だとお考えでしょうか?

近藤 われわれもグローバルな世界で仕事をしているので、海外のビジネスマンと接する機会は多いわけですが、英語というかアングロサクソンというか、どうもコンプレックスみたいなものを感じることがあります。それを普通なものにしていくことが大事だと思うんですよね。バイリンガルになればいいとか、そういう問題でもない。それこそ本田圭佑のようなメンタリティーを持った人間というのが、グローバルな舞台で活躍できる条件になるんじゃないでしょうか。

──岡田さんは、今のお話を受けていかがでしょうか?

岡田 南アフリカのW杯で僕らがやったサッカーは、あちこちで批判されましたけど(苦笑)、実は海外では「日本って面白いサッカーするよね」って言われるんですよね。それからウチにトレーニングメソッド部長で吉武(博文)というのがいるんですけど、彼がU−17W杯(2011年、13年)で日本代表を率いていたときに、他の国の監督が「ヨシタケと話したい。日本のサッカーは面白い」って聞きに来ていたんですよ。つまり、われわれはヨーロッパのまねをする必要はなくて、日本の強みであるパスワークやテクニックを生かしていけば勝てるんじゃないかと。だからこそ僕は、そういうチャレンジを今治でしているんですよ。

「自分たちもクラブの一員なんだ」という意識

それぞれの10年後にも言及。岡田オーナーは「その頃はリタイアしている」と笑った 【宇都宮徹壱】

──いろいろと興味深いお話が続きましたが、ここでまたDTCがトップパートナーになった話に戻りたいと思います。FC今治にDTCの企業ロゴが入ったのは、単なるスポンサーとクラブの関係性ではない、という理解でよろしいでしょうか?

近藤 先ほど岡田さんがおっしゃったように、(トップパートナーになったことで)地方創生にも結びつきますし、ゼロベースから世界で戦えるチームを作り、今とは違った枠組みで日本代表選手を輩出していこうというところに共鳴したのが大きかったです。つまり、岡田さんが今治でやろうとしている夢そのものですよね。

 もっとも、社内では「夢に共鳴するんだったら、DTCのロゴを出さなくてもいいじゃないか」という意見も実はあったんです。でもそこは、同じチームの一員として参加しているという意味では、胸スポンサーになるというのはひとつの象徴だと思っています。逆に今治ではなくて、既存のJクラブさんから「スポンサーにならないか」という申し出をいただいたとして、おそらく実現することはなかったでしょうね。

岡田 近藤さんのおっしゃるとおりで、僕の周りにいる選手も、コーチも、スタッフも、労働条件が確実に悪くなるのに集まってくれてきている。それは一から新しいものが作れることに共感して、ワクワクしているからなんです。DTCさんも含め、「自分が参加して作っているんだ」というクラブにしていきたい。「試合に行って、面白いものを見せてくれたことに対価を払う」ではなくて、「自分たちもクラブの一員なんだ」という意識の人を増やしていきたい。DTCさんは完全に、そういう形で関わっていただいています。

──岡田さんは「勉強をしたいからDTCの顧問を引き受けた」そうですが、近藤さんから経営者の先輩として岡田さんに何かアドバイスはあります?

近藤 3つあります。まず、「社長の立場でないとできないこと」を選別すること。次に「自分はこれをやらなければならない」という“Must(マスト)”を決めること。そして“Do the right thing”、つまり「正しいことをやる」ということ。正しいことをするためには、どんなに困難であっても脇目もふらずチャレンジする。岡田さんはもともとそういうタイプの方だと思いますが、そのための環境づくりは重要だと思っています。

岡田 なるほど、これはメモしておこう(笑)。今はどんなに時間があっても足りないんですよ。メソッド、経営、育成、トップチーム、それからスタジアムのプロジェクトもスタートしているので「どうすりゃいいんだ?」というくらい飛び回っているんです。でも本当に、捨てられるものを捨てていく勇気を持たないといけないですよね。

──最後の質問です。FC今治の10年後について、岡田さんは「J1で優勝争いができて、ACLにチャレンジして、日本代表を輩出する」とおっしゃっていました。では、ご自身の10年後については、どんなイメージをお持ちでしょうか?

岡田 その頃はリタイアしていますね。株式上場して、その利益でカミサンとのんびりヨーロッパをまわるのもいいかな(笑)。

近藤 そんなことを言って、また違うチームで仕事しているんじゃないですか?

岡田 それはカミサンにも言われました。FC今治のオーナーになった時も「今度こそ、のんびりゆっくり暮らせると思っていたのに!」ってね(笑)。

──それが宿命なんでしょうね(笑)。岡田さん、近藤さん、本日はとても興味深いお話をありがとうございました!

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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