「西高東低」の逆転はなぜ起きた――今年のクラシック戦線は異状あり!?

強い牝馬の系譜

桜花賞を狙う有力候補はいずれも関東馬……今年のクラシック戦線は異状あり!?(写真はココロノアイ(左)が勝ったチューリップ賞) 【写真は共同】

 中山競馬場で3月21日に行われたフラワーCと、翌22日の皐月賞トライアル・スプリングSで、今年のクラシックの前哨戦はほぼ終了した、と言っていいでしょう。4月12日に阪神競馬場の桜花賞で火蓋が切って落とされるクラシック戦線、いよいよ気分が高まってきました。

 その本番直前。今年の3歳戦全体を見渡そうと試みた時、ふたつの“時代”にちなんだキーワードが交錯していることに気づかされます。

 ひとつ目は“強い牝馬の時代”。これが継承されるかどうか、です。その“時代”は07年にスタートしました。

 その年、牝馬として64年ぶりにダービーを制する快挙を成し遂げたのがウオッカです。この馬が08、09年と2年連続で年度代表馬に選出され、しかも同期の牝馬ダイワスカーレットは07年の有馬記念で2着し、翌年には優勝。まさに牡馬は「顔色なし」といったところだったわけですが、2世代下に登場したのがブエナビスタで、そこから更に3世代下にジェンティルドンナが現れました。

 ブエナビスタは10年、ジェンティルドンナは12年に年度代表馬に輝き、しかもジェンティルドンナにいたっては、昨年14年も代表馬に選出されました。2度選出されるだけでも歴史的名馬の評価がふさわしいのですが、隔年で受賞したというのはこの馬が初めて。それだけ活躍期間が長かったことの証であり、“強い牝馬の時代”を象徴するトピックだったと言えるでしょう。

 さて、それらを踏まえたうえで今年のクラシック。こちらに目を戻すと、まさに“強い牝馬の時代”の系譜を継ぐのではないか、という期待を抱かせる牝馬が現れました。

 その代表的な馬がルージュバック(父マンハッタンカフェ、母ジンジャーパンチ・大竹厩舎)です。

良血牡馬を子供扱い

 デビューから3戦3勝。そのすべてのパフォーマンスが豊かな将来性を感じさせるのですが、先々を意識して1800mでデビューした後、2000m、1800mと使われて3連勝。2戦目の牡馬相手のレコード勝ちも強烈でしたが、更に評価を高めたのが2月8日のきさらぎ賞でした。このレース、牝馬が制したのは実に51年ぶりという快挙。良血の男馬を相手に難なく好位を取り切ると、道中は全くの楽走。直線悠々と抜け出し、最後はソラを使って遊ぶような素振りを見せながらの2馬身差。ライバル達を子供扱いしたのですが、凄みというよりも、むしろ事も無げな走りに、大人びた、奥の深さが感じられるのです。

 この時に破った相手が皐月賞トライアルの若葉S4着、2勝目に破った相手は京成杯を勝ってスプリングS4着ですから、ルージュバックが皐月賞に駒を進めても、という声が出るのも無理はありません。

 まあとりあえず牡馬のクラシックには登録がなく、今のところ追加登録の噂も聞きませんので、牝馬戦線はこの馬が中心に争われることは間違いありません。

 ところが、その牝馬戦線でルージュバックを取り巻くライバル達と言うのが、これがまた近年稀に見る才媛揃い。まさに「百花繚乱」と呼ぶにふさわしい様相を呈しているのですが、ここにふたつ目のキーワードが出てきます。

“西高東低時代”の逆転現象です。

強い牝馬の共通点

 クイーンCをレースレコードで勝ったキャットコイン(父ステイゴールド、母ストレイキャット・二ノ宮厩舎)も3戦3勝で、2戦目に牡馬を一蹴。桜花賞トライアルのチューリップ賞を勝ったココロノアイ(父ステイゴールド、母ビューティソング・尾関厩舎)は牝馬限定重賞2勝。そしてフラワーCを制したアルビアーノ(父ハーランズホリデイ、母アンティクス・木村厩舎)も3戦無敗。

 この重賞勝ち馬3頭。ルージュバックにとっての当面のライバルになりますが、ルージュバックを含めた4頭に共通するのが、美浦所属馬……つまり関東馬である、ということです。

 そもそも、昨年の阪神ジュベナイルフィリーズを制して2歳女王の座についたショウナンアデラ(父ディープインパクト、母オールウェイズウィリング・二ノ宮厩舎)も美浦所属馬。この馬の骨折による戦線離脱は残念でなりませんが、ともかく、比較するのが悩ましい才媛達が、揃いも揃って美浦に現れたことに、近年にない空気が感じられるのが今年のクラシックの特徴なのです。

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著者プロフィール

中央競馬専門紙・競馬ブック編集部で内勤業務につくかたわら遊軍的に取材現場にも足を運ぶ。週刊競馬ブックを中心に、競馬ブックweb『週刊トレセン通信』、オフィシャルブログ『いろんな話もしよう』にてコラムを執筆中。

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