39歳で外野手に、松井稼頭央の勇気 元個人コーチが語る身体能力以外の才能
長らく守った遊撃手からの転向
今年10月には40歳を迎える松井。日本球界を代表する内野手が外野でどのような姿を見せるか? 【写真は共同】
「センターでは、カズ(松井)が生きるかもしれないですね」
そう予想するのは、松井を最もよく知るひとりの熊澤とおる氏だ。熊澤氏は1991年ドラフト3位で西武に入団し、7年間の現役生活を過ごした後に同球団の2軍サブマネージャーや打撃コーチに転身。松井が02年に打率3割3分2厘、36本塁打、33盗塁のトリプルスリーを達成した際には、練習パートナーとして偉業をサポートした。
自身も外野手だった熊澤氏が、松井のセンターへの適合性について太鼓判を押す。
「センターではボールまでビャーと行って、パッと捕って、ホームにビヤーって投げるようなプレーを見せられます。秋山幸二さんが西武から(福岡)ダイエー(現ソフトバンク)に移籍されたとき、ダイエーの投手陣は『抜かれたと思った当たりを捕ってくれた』とよく言っていましたよね。カズにはあれだけの走力と肩があるから、練習すれば勘はすぐに出るでしょう」
打撃ゲージで目が変わる
「日本ってよく、グラウンドで笑っているとダメな雰囲気があるじゃないですか。普段のカズは関西チックな感じでいるけど、ひと度バッティングケージに入るとプレーに対する目がガラッと変わるんです。『えっ?』て感じましたね。そんな人、超レギュラークラスでも見たことがなかったから」
2歳離れた松井と熊澤氏は、気づけば仲良くなっていた。両者の関係が密になったのは、熊澤氏がユニホームを脱ぐ98年ごろ。野球に対する感覚が、一致していることに気づいたのだ。
「カズ、テレビで試合を見たけど、こうしたほうがいいんじゃない?」
熊澤氏は運動動作やトレーニング法を独学し、松井に助言を送った。1軍で1度も出場したことがない先輩の言葉に、松井は聞き耳を立てた。すると、ヒットが出た。「カズ、こうなんじゃない?」。実践すると、今度はホームランが飛び出した。そうした日々を積み重ねるうちに、信頼関係は強固さを増していた。
目的を持って挑戦できる勇気
「オフのシーズンでも、カズはほかの人がやらないような練習をずっと続けてきました。今の若い選手は、彼がやってきたことをマネできないんじゃないですかね。カズが一番すごいのは、努力できる才能と勇気だと思います」
天から授かった俊敏性とパワーに、松井は意志を込めた。助言や提案、練習サポートという栄養を与えて一緒に果実を膨らませた熊澤氏は、松井の「勇気」をこう定義する。
「自分でやってきたことを段階、段階で見つめ直して、『これまではこういうやり方で成功したけれども、次の5年間はこうしよう』と目的を持って新しいものにチャレンジしていく勇気がある。それが一番大事だと思います」