世界ジュニアに見た陸上界の成果と課題 東京五輪世代の活躍を未来につなぐために
過去最高の成績をマーク
好成績を残した種目を見ると、いずれもシニアが世界と戦えている種目というのが特徴でもある。1万メートル競歩では、松永大介がチーム唯一の金メダルを獲得し、山下優嘉(ともに東洋大)も4位入賞を果たした。これは、20キロで鈴木雄介(富士通)が今季世界リスト1位で、高橋英輝(岩手大)も3位にランキングしている現状が後押ししているからだろう。
ジュニアの世界リスト1位で、今大会の優勝候補として臨んだ松永は、「5月のワールドカップ(ジュニア男子10キロ)では2位だったが、優勝した中国選手が出場しなかったし、自分はロードよりトラックの方が得意だから……。ワールドカップで他の選手の力も確認できていたので、『おそらく負けることはないな』と思っていた」と言う。
大会4日目の午前のレースだったが、「スタートでちょっと前に行こうかと思ったくらいだったけれど、前半から体が動いていて」と言うように、スタートからひとり飛び出して独歩状態に入ると、そのまま逃げ切り、2位に24秒40差をつける39分27秒19の大会新で優勝した。
「鈴木雄介さんでも銅メダルだったので、最低でもそれ以上の成績をと思っていた。今年は海外の試合が多かったので、その中での調整も一から勉強できた。次の目標は、来年2月の日本選手権20キロまでに雄介さんや高橋さんらと対等に戦える力をつけて、(来夏の)世界選手権の代表になること」と、高い意識を持っているのが勝因のひとつでもある。
桐生のメダル獲得が起爆剤に
中でも桐生は、6月に右足裏を痛めた影響で、練習を再開できたのが7月に入ってから。スパイクを履いたのも渡米1週間前と、万全な状態ではなかった。さらに、出場選手中のランキングは2位ながら、今年9秒97を出しているトレイボン・ブロメル(米国)や、10秒1台のジャマイカ勢も2人いる厳しい状況。その中で、準決勝はタイムで拾われる危うい通過をしたものの、決勝では対等に戦って銅メダルを獲得し、チームに勢いをつけた。
桐生の活躍に周囲も刺激を受けた。200メートルでは、小池祐貴(慶応大)が「力を出し切れば勝つのも可能。1位か8位かというレースをした」と、持ちタイム上位の選手に食らいついて4位入賞。しかし、小池はそれでも悔しがっていた。また「来る前は予選を通ればと思っていたくらい」という森雅治(大東文化大)も、ユージーン入りしてから走りのコツをつかんだと語り、決勝まで進出して6位になった。
さらに、ロングスプリントの400メートルでも出場した日本勢が2人とも決勝へ進み、加藤修也(早稲田大)が2位、油井快晴(順天堂大)が7位に入った。
そして、そんな選手の力を結束させたリレーでも結果が出た。4×100メートルリレーと4×400メートルリレーで、ともに米国に次ぐ2位になったのだ。特に前者は、02年以来2位以内を外さない安定感を保っていたジャマイカを破ってのことだった。
世界に向き始めた選手の意識
こう話す山崎一彦監督(日本陸連強化育成部長)は、その中で同種目でのダブル入賞が多かったことも大きな成果だと言う。中でもシニアが苦戦している走り幅跳びでは、城山正太郎(東海大北海道)が3位、佐久間滉大(法政二高)が5位になった。そういう結果が、種目全体のパフォーマンスレベルを上げるきっかけにもなるはずだ、と。
大会を振り返れば、6個のメダルはすべて偶然取れたものではなく、狙って手にしたものだというところにも価値があるだろう。女子はメダルゼロに終わったが、3000メートルで4位になった高松望ムセンビ(大阪薫英女学院高)は「メダルを逃したのが悔しい。私はもう1回、世界ジュニアに出るチャンスがあるので、2年後は5000メートルで絶対にメダルを取りたい」と宣言するほどだ。
山崎監督は「今回はインターハイと日程が近いにもかかわらず、高校生が多いのが特徴的です。高校の先生の中には、『インターハイより世界が大事だ』と送り出してくれる人も増えてきたし、選手自身も世界ジュニアへ出たいと希望する者は多かった。そんな意味では、選手の意識も世界に向き始めていると思う」と話す。