元ケルン育成部長が語るドイツ復活の理由 鍵は『タレント育成プロジェクト』にあり

中野吉之伴

14年前の欧州選手権惨敗でプロジェクトが発足

育成の名門FCケルンでルーカス・ポドルスキらの指導に当たり、ドイツサッカー改革の最前線で奮闘していたドイツ人コーチのパブスト氏にドイツ復活の理由を語ってもらった 【イースリー】

 ワールドカップ(W杯)16大会連続18度目の出場となるドイツは言わずと知れたサッカー大国の1つだ。ここ最近でも、2002年準優勝、06年3位、10年3位と好成績を残している。今大会もグループリーグを首位で突破し、決勝トーナメント1回戦ではアルジェリアの堅守とスピードあふれるカウンター攻撃に苦戦しながらも、最終的にはしっかりと勝利を収めた。しかし毎回コンスタントにしっかりと勝ち上がってくるドイツだが、常に順調な歩みをしてきたわけではない。

 かつては「固い――強い――でも面白くない」とやゆされていたドイツが、「固い――面白くない――でも強くもない」と言われた時代もあった。1990年から00年にかけて、他の列強国が4バックシステム、ゾーンディフェンスといった新機軸に取り組みだす一方、ドイツはあくまでも「自分たちのサッカー」だけをかたくなに信じこんだ。世界王者としての自負が新しいものへの挑戦意欲を削ぎ落とし、自分たちへの誇りはやがておごりとなってしまった。

 よりコレクティブに、よりスピーディーになっていく世界サッカーの流れに完全に乗り遅れたドイツは、00年の欧州選手権でグループリーグ敗退という惨敗を喫して、ようやく現実を受け入れた。技術力・創造力を持った選手を育成するためにフランスやオランダをはじめとする各国の育成システムを学び、ドイツ人にあった長期的な『タレント育成プロジェクト』を作りだし、復権に向けて歩みだした。

 あれから14年――ドイツサッカーは確実に変わった。中盤には確かな技術と豊富な創造力を持つ選手が数多く生まれ、チームとしての駆け引きをしながら相手守備を崩していくコレクティブなチームが増え、「固い――強い――面白い」サッカーが見られるようになった。そんなドイツについて、育成の名門FCケルンでルーカス・ポドルスキらの指導に当たり、ケルン体育大学で講師を務めるなど、改革の最前線で奮闘していたドイツ人コーチのクラウス・パブストに分析してもらい、今大会におけるドイツの戦いぶりへの考察と、『タレント育成プロジェクト』がもたらした影響についてを語ってもらった。

イメージ通りにできるほどサッカーは簡単ではない

 初の決勝トーナメント進出を果たしたアルジェリアに押し込まれ、延長戦の末に辛くも勝利したことでドイツメディアはこぞって「過去最悪の試合の1つ」と批判した。元ドイツ代表キャプテンのミヒャエル・バラックも「あまりの酷さにショックを受けた」とコメントしたほどだった。理想論と完全主義での記事が多く見られる中、パブストは冷静に試合を分析してくれた。

「アルジェリア戦に関しては、問題をうまく解決したと思っている。いろいろと批判されているが、ではあのアルジェリアの守備をどうやって崩せばいいというのか。非常に深い位置で守る守備陣、技術レベルの高い選手によるカウンターも強力だった。ドリブルに強い選手を入れる? 縦に早くパスを入れる? 100%突破できる選手がいるのか? ボールを失う可能性があるときに、縦パスを入れてカウンターを受けても同じようなことが起こる。序盤とCKの後に簡単にカウンターを許したのを除いて、相手の攻撃をしっかりとコントロールできていた。良かったと思う」

 かつては勝てば満足だったファンは、いつの日か美しいサッカーをしながら勝つことを求め出した。華麗なプレーでファンを魅了し、相手の攻撃を無力化し、隙を見せないサッカーで優勝をもぎ取ることを当たり前に要求し、机上の理論通りに試合が進まないと「これでは優勝できない」と騒ぎ出す。しかしすべてが自分たちのイメージ通りにできるほどサッカーは簡単なものではない。ましてやW杯の対戦相手はどこも強い。

 パブストも「ここまでドイツは非常に堅実な戦いができており、前回大会よりも勝つことを優先した戦い方をしている。そしてここまでの試合を見る限り、ドイツより良いサッカーをしているチームはほとんどないと思う。周りがなんと言おうと、ドイツが今大会でもベスト8まで来たのは素晴らしいことだ。イングランドサッカーの関係者は、われわれの状況を非常にうらやましく思っているはずだ」と代表をポジティブに見ていた。

 また賛否両論いろいろと騒がれている選手起用に関しては、「今シーズン、フィリップ・ラームはボランチですごく良いプレーをしてきた。もちろんバイエルン・ミュンヘンと代表チームでは役割が違うが、それでもしっかりと機能している。それに彼はキャプテンだ。ボランチの位置からチームに影響を及ぼしたいとキャプテンが言ってきたら、その選手を右サイドバックに起用するのは監督として非常に難しい。攻撃陣に関しては、個人的には本職FWの選手を入れることで前線にポイントを作った方が良いと思うが、みんな素晴らしい選手だからね。4年前に絶賛された(アンドレス・)イニエスタのように、マリオ・ゲッツェやトーマス・ミュラーは深く守る相手に対して有効な手段になりうるだけの才能がある」と見解を示していた。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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