谷佳知が歩む復活への道=オリックスにもたらす“勝利のマインド”
「勝つ喜び」を伝えるために
8年ぶりに来季から古巣オリックスのユニホームを着ることになった谷が“勝利のマインド”をもたらす 【写真は共同】
巨人時代の7年間で、実に5度のリーグ優勝を経験した男を、勝ちに飢えるオリックスが再び迎える格好になった。谷の持つ“勝利のマインド”こそ、今、オリックスというチームに必要なエネルギーであることは明らかである。そんな球団の思惑と現役続行を希望する谷の想いが合致したというわけだ。
会見で谷は言った。「ジャイアンツでのさまざまな経験をここでみんなに伝えたい。僕から見ても、このチームにはセンスのある選手が多い。あとは“勝つ喜び”を知ることが大切。その部分で、僕にできることがあると思います」と。まさに、勝利のカルチャーをオリックスに植え付けるという意味でも、谷の存在は大きいと言っていい。
優勝を知らなかった苦悩の10年間
やがて、鉄壁の外野陣を形成したイチロー(現、ヤンキース)や田口壮がメジャーに活躍の場を求めたあとのチームの浮沈を、谷ひとりが背負うことになる。元来、さほど饒舌ではない彼は、黙々と自らの役割を果たすことで、チームのけん引を試みた。だが、残念なことに、当時のチームはそんな彼の背中に呼応するだけの力を有していなかった。結局、谷は、プロ入り10年で一度も優勝の喜びを味わうことなく、2006年オフに鴨志田貴司、長田昌浩との交換トレードで、チームを去って行った。
巨人で学んだ勝つための“一体感”
谷は巨人時代、勝つための空気を感じたという 【写真は共同】
「巨人時代に学んだことは少なくないですよ。勝つために、皆が同じ方向を向いている。首脳陣や選手はもちろん、現場の裏方のスタッフ、それに球団職員も全員がそうなんです。やはり、勝つためには、そんな一体感が必要であることを痛感しましたね」
そんな谷の想いは、奇しくも就任2年目の来季に勝負を懸ける森脇浩司監督のそれと一致する。
「僕がこのチームを率いて感じたことは、結束力の不足なんですよ。ここ一番で力を発揮できない原因なんだと気づきましたね。強いチームは一枚岩になれるんですよ。2014年、オリックスが勝つために、僕は選手達にさらなる結束を求めたい」
そう熱弁を振るう指揮官も、かつてはコーチとして、福岡で勝てるチームの文化を作り上げてきたひとりなのだから、その言葉が持つ意味は軽くない。
「巨人でもV、オリでもV」――谷が歩む復活の道
今季は1軍出場13試合で計7安打、打率2割5分に終わった谷が、ファームでは39試合に出場して68打数22安打の打率3割2分4厘をマーク。球界屈指とうたわれた高い打撃技術は、まださび付いてはいないはず。来季、1軍メンバーとして常にチームに帯同できれば2000安打達成は十分に射程圏内だ。
だが、谷は言う。
「やはり記録も達成したい。でも、それにはチームの勝利が前提です。まずは、勝つこと。記録はそのあとですよ」
“For the Team”を強調した男の、「僕の経験をこのチームに伝えたい」という言葉に嘘はない。8年ぶりに里帰りした背番号「10」。今度は、勝ちを知らないチームを、谷佳知という存在感だけではなく、言葉も添えて引っ張ってほしい。なぜなら、優勝を通して得た経験と教訓で、彼の発する声は何よりも重みを持っているのだから……。夫人の表現を借りるなら、「巨人でもV、オリでもV」――。谷佳知が歩むであろう復活への道、それがチーム浮上の航路と一致することを願いたい。
<了>
(大前一樹/ベースボール・タイムズ)
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