クスリは金になる―MLB薬物問題の背景 Aロッドら大物も対象、今何が起きてる?
米スポーツ史上最大スキャンダルの可能性も
A−ロッドら大物も巻き込み全米を揺るがせている薬物問題の背景とは? 【Getty Images】
最近のMLBで最も注目されたニュースは、残念ながらフィールド上で生まれたものではない。6月4日、ESPN.comが「マイアミの老化防止クリニックから禁止薬物を供給されていた件で、MLBが約20選手に50〜100試合の出場停止処分を科す方向」と報道。この20選手の中にはA−RODことアレックス・ロドリゲス(ヤンキース)、2年前にMVPを獲得したライアン・ブラウン(ブリュワーズ)、レンジャーズの主砲の1人であるネルソン・クルーズといった大物が含まれていたため、報道合戦に火がついたのである。
MLBが老化防止クリニック「バイオジェネシス」の調査を進めていることは、1月にマイアミの地方紙が伝えたことですでに公になっていた。さらにここに来て、クリニックの設立者であるトニー・ボッシュ氏がMLBの調査に全面的に協力することで合意。MLBは当該選手の個別聞き取りを進めており、予定通りならボッシュ氏の調査も6月7日に実現しているはず。今後、恐らくは今月中にも、全米を揺るがすような発表が成されることになるかもしれない。
この件では、前記した以外にメルキー・カブレラ(ブルージェイズ)、バートロ・コロン(アスレチックス)、ジョニー・ペラルタ(インディアンス)といった選手たちの名前も挙がっている。これほど多くが一挙に出場停止になれば、アメリカのスポーツ史でも最大のドーピング・スキャンダルとして記憶されて行くのだろう。
MLBは本当に出場停止処分を科すことは可能か
「結論が出ていない問題についての報道の中で、私と他の選手たちの名前を出されました。推移を見守り、適切な機会に発言するつもりです」
現在、股関節の故障からのリハビリを続けるロドリゲスは、6月6日にそんな声明を発表。今後、やはりこのロドリゲスとブラウンという2人の大物の処遇、対応が最大の焦点になっていくに違いない。
2009年に過去の薬物使用を告白しておきながら、ここで再びのスキャンダルが発覚し、ロドリゲスのイメージは悪化の一途。ブラウンの方も、MVP獲得した2011年にステロイドで陽性反応を示しながら、採取された尿の管理に不備があったという微妙な理由で出場停止を逃れた過去がある。
これまでの流れを見る限り、A−ROD、ブラウンが完全にシロとは考え難い。その一方で、鍵となるボッシュ氏ももともと秘密裏に薬物を提供して摘発された人物であり、その証言の信頼性に疑問が残るのは事実である。
選手たちの薬物購入を裏付ける物的証拠が出て来れば大きいが、いずれにしても彼らのPED使用自体を実証するのは簡単ではないはず。そんな状況下で、MLBは本当に出場停止処分を科すことは可能なのだろうか。もしもそれが成されたとして、選手側の徹底抗戦は必至で、選手会やエージェントまで巻き込んだ長く醜い闘争が続くことは容易に想像できる。
違反者の背景にあるステロイド使用の成功例
「ベースボールファンは、事件を最新のスキャンダルとして捉えるのではなく、ステロイド時代終焉へのステップとして歓迎すべきだ。A−ROD、ブラウンらが出場停止になれば、薬物使用を考えている若い選手やマイナーリーガーを恐れさせるに十分だろう」
今回の件では多くの記者が様々な意見を述べているが、その中で「トロントスター」紙のリチャード・グリフィン氏の論述はある程度は納得できる。検査で陽性反応を示したわけではないにも関わらず、MLBがA−ROD、ブラウン級のスターをこれほど執拗に追い詰めていることは、薬物撤廃の本気度を感じさせるに十分。この対応は、確かに今後への抑止力に繋がり得るはずだ。
ただ……それでもやはり今のシステムのままでは、PED使用者をさらに大幅に減らすことは難しいようにも思える。依然として毎年のように違反者が明るみに出る背景に、「ステロイド使用を換金する」成功例が存在するからである。