シンクロ日本代表に新風 17歳三井梨紗子

沢田聡子

世界水泳代表選考会で、17歳の三井梨紗子(左)が好演技。代表入りを確実にした。写真は9月の千葉国体でのもの。右は芳賀 【写真は共同】

 ロンドン五輪に向けて苦しい戦いを続けるシンクロナイズドスイミング日本代表に、新しい力が加わった。17歳の三井梨紗子(東京シンクロクラブ)である。

 第14回世界水泳選手権(2011年7月、中国)のシンクロ日本代表選考会が、12月26日・国立スポーツ科学センターで行われた。来年1月5日に開かれる日本水泳連盟選手選考委員会で正式に決まる代表選手は11人で、選考会で6位になった三井は初の代表入りを確実にした。

1年前の選択

 実は、今年1月に行われた2010年度の代表選考会でも、三井は代表入りの資格を得ていた。しかし本人の強い意向により、今年1年はジュニア代表で経験を積むことを選んだ。三井は言う。
「自分は若くてできることはまだたくさんあるので、ジュニアで(国際大会の)場を踏んでからナショナルに入ろうと思った」
 トップ代表であるナショナルAチームに選ばれることは、もちろん名誉なこと。しかし、他メンバーとの年齢や実績の差を考えれば、個人種目での出場機会はそう多くない。それならばと、ジュニア代表として実戦経験を積む事を選択したのだ。
 その狙い通り、三井は世界ジュニア選手権(8月、米国)ではソロ代表に選ばれ、メダルにあと一歩の4位という成績を残した。さらに、9月に行われたワールドトロフィー代表選考会では、ジュニア世代の選手のなかで頭(ず)抜けた存在感を示し、堂々の1位。12月の本番ではデュエットを泳ぎ、エキシビションではソロも泳いで、目的としていた個人種目の経験を積み上げた。

「(今日は)納得できる演技だと思います。今年(1月)の選考会では9位で(代表入りしたものの)、それを蹴ってまでしてジュニア(代表)にいったので、来年はナショナルAチームについていこうと思います」
 選考会を終えた三井は、静かだが芯の強さを感じさせる口調で語った。

「前を向いたまま突き進む子」

 現在は身長167.9センチと恵まれた体格を持つ三井だが、小学校四年生のときに参加したエリート教育の対象競技者を探すオーディションでは、小柄な体格が問題となり対象に選ばれなかった。しかし、翌年も抜群の運動能力を発揮。一番の結果を出したため、特例としてエリート教育メンバーに選ばれたという経緯がある。

 そんな三井を「前を向いたまま突き進む子だから、面白い選手だと思います」と、金子正子前日本水連シンクロ委員長は評する。
 三井が所属する東京シンクロクラブの代表である金子氏は、三井がエリート教育メンバーとなった当時から成長を見守っている。今月の上旬には、国際大会を終えて帰国した三井に修学旅行への参加を勧めた。普段は欠席することも多い学校生活を楽しむこと、また月末の世界選手権代表選考会を控えて体を休めることを考えての提案だったが、三井は練習への意欲を示し、修学旅行には参加しなかった。

 スラスト(足からの上昇)を特技とする三井には、パワー溢れる型の選手として、北京五輪のデュエットで銅メダルを獲得した原田早穂が重なる。東京シンクロクラブの先輩である原田を、三井自身も目標にしており「素晴らしい選手なので、自分もそれを超えられるくらい頑張りたいと思っています」と話している。

日本代表の新風に

 来年の世界選手権・チーム種目では、日本はアジアに一つ与えられる2012年ロンドン五輪の出場枠を中国と争うことが予想される。そこで敗れると、世界最終予選(2012年4月・ロンドン)で五輪出場権を勝ち取らなくてはならなくなる。今年の国際大会ではワールドカップ(9月)・アジア大会(11月)と中国に連敗した日本が、世界選手権でも苦しい戦いを強いられることは容易に想像される。

「(三井は)一流の選手になりたいという上昇志向を持っている」(金子氏)
 優れた運動能力と自分を高める精神的な強さを併せ持つ三井が、苦境の日本代表に新風を吹き込む存在となるかもしれない。日本代表に対する思いを問うと、「まだ(代表に)入ってないので分からないですけど」と前置きした上で、三井梨紗子は話した。
「日本がトップの外国のチームに追いつけるように私も力になれたら……頑張りたいと思っています」
 静かな、しかし確かな口調だった。

<了>
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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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