【優勝/準優勝監督インタビュー】青山学院大・安藤監督が振り返る神宮大会(前編)
クリーンナップを欠いた中で掴んだ栄冠
それでも青学大を指揮して6年目になる安藤寧則監督には、『なんとかなる』という選手たちへの信頼があった。
「佐々木泰や西川史礁は、責任感から出たがっていましたけど、大丈夫だ。仲間を信じろと。僕は自信をもって他の選手たちを試合に送り出しました」
春・秋のリーグ、大学選手権を制し、神宮大会の4冠を果たした青学大。
しかし、実は神宮大会の戦いでは、昨秋のドラフト1位で指名された、佐々木、西川の4年生2人、そして3年生の主軸・小田を加えたクリーンナップを怪我により欠いていたのだった。
いわば、満身創痍の中でチーム力が試された戦いでもあったのだった。
安藤監督は言う。
「正直、なかなかの試練だなと。でも、弱気になってはいけない、試されているなと。今までうちのスローガンは『全力疾走・バックアップ・声』の3つでしたが、『全員戦力』を、このチームでは更に加えて言っていました。
だから、『今こそ全員戦力を見せつけてこい』と、選手たちには言っていました。選手たちも『誰の名前が呼ばれるんだ?』とお互いに期待しながら準備していたと思います」
そうした選手たちの切磋琢磨の中で今回の4冠は達成された。
もちろん青学大にとっては大願成就になるわけだが、安藤監督は謙虚に驕ることなく、昨年の成果をこう振り返っている。
「4冠を達成したからといって、満足感に浸るとか有頂天になるとか全くなくて、僕も選手たちも本当に何も変わっていません。それには戦国東都と言われる熾烈な入替戦のある東都リーグが、そうさせてくれている部分が大きいと思っています。
僕らが神宮大会を戦っている時には、他チームはすでに新チームが始まっていましたから、もう(4冠は)過去のこと。選手たちも『さぁ、次』っていう意識が強いと思います。
また、選手1人1人が『もっと強くなりたい、もっと上手くなりたい』という思いから、もっとこうしたい、ああしたいなど、尽きることのない向上心をもって取り組んでいるからこそ、今までと変わった様子を感じさせないのだと思います」
青学大のスタイルは、安藤監督の現役時代から自主性を尊重する方針だ。
全体練習同様、選手たちは個人練習にも重きを置き、自らの技術を高めることを目指していくのは昔から変わらない。同大学OBのプロ野球選手に様々なスタイルが多いのはそのためである。
神宮大会決勝で敗れた昨年のチームも力強かった。ドラフト1位でプロ入りした常廣(広島東洋カープ)、下村(阪神タイガース)の二人の投手がいて、佐々木、西川は主力選手として出ていた。
投打のバランスで言えば、「一昨年の方が勝っている」と言う人は多かった。それでも昨年のチームは4冠を達成するほどに力をつけてくるのだから、その成長力は推して知るべしであろう。その背景にはどんなチームづくりがあるのだろうか。
青写真を描きすぎない
「1月はあまりこういうチームにしようとかは考えないです。もちろん、行き当たりばったりではないですけど、こうだと決め付けるというよりは、1人1人の伸びしろを大事に、1人1人の成長を考えています。
投手で言えば、基本は先発完投できる投手ですが、結果として継投になる試合が多いです。でも、先発完投できる投手であってほしいということは常々言っています。
先発完投するためには、長いイニングを投げるための体力だったり、各球種の質や精度にこだわったり、制球力を磨いたりなど、1人1人が色々と探求していく中で、自分の特徴(強み)をもってほしい。だから、僕の中には、最初からこうだと決めつけることはしません」
青写真は早くからは描かない。今年の戦い方は打ち出さず、1月は静かにチームを見守る。キャンプ・オープン戦とチームの状況を見ていく中で、少しずつ色が出てくるのだと言う。
「1月は準備段階ですから、リセットしているというのが一番いい言い方かもしれないです。チームの色がキャンプなどで早くに見えたら見えたでそれでもいいし、ギリギリまで見えなかったら見えなかったでもいいし、あまりこだわってはいないです」
そんなスタイルだから、選手の起用は多種多様だ。
基本的に「練習やオープン戦でやっていないことを公式戦ではやらない」という方針の中で、多種多様な起用法を試していく。シーズン中では怪我も想定しなくてはいけないし、なによりも一番の目的は、選手の可能性を広げて対応力を養うこと。その結果としてチームの対応力も高まり、どの選手たちでもベストメンバーを組んで戦えるということだ。
西川を除いて、ほぼベストメンバーだった秋のリーグ戦ではそうしたラインナップを組めていたが、あくまでもその時のベストが何であるかを考えてのことだ。
だから1人が欠けたとしても、後ろには控えている選手が常にいる。そういう準備をしてきたからこそ、神宮大会では主力の離脱にもあたふたとすることはなかったというわけである。
チーム内に流れる「普段から100%」の空気
うちのチームには、佐々木や西川とのチーム内競争に勝てなくて、スタメンで試合に出ていなかっただけで、いい準備をして100%でプレーができる選手たちが控えてくれています。クリーンナップの3人が100%でプレーができないのであれば、100%でプレーができる他の選手の方が戦力になると、はっきりと言えるチームでした。
もちろん精神的支柱がグラウンドに立つ存在感は違いますけど、臨機応変に100%でプレーができる選手たちを普段通り起用しました」
全体練習は毎回「アピールの場」で、良いパフォーマンスを見せるために個人練習がある。
そこで何をやってきたかが試され、その答えを指揮官がしっかりと観察している。普段から個を尊重しているから控えであってもそんな頼もしい選手が次々と出てくるのである。
チーム内では優先順位がつくが、いざ試合に出してみると、控え選手であっても遜色ないレベルの厚みのある選手層が作り上げられていたというわけである。そうして4冠達成は果たされた。
「日本一は言葉にもするし、絶対にブレない目標です。でも、決して目的ではありません。一番は応援されるチームであり、選手であってほしいです。そのためには、何事にも一生懸命に取り組むことが大事だと思っています。
ちょっと綺麗事になるかもしれませんが、勝ち負けだけでなく一生懸命に取り組む姿は、誰でも応援したくなると思います。僕は後輩(選手)たちの一番の応援者でありたいし、必死に切磋琢磨しながら頑張っている後輩(選手)たちの姿は応援したくなります。
また、野球というスポーツは相手があるスポーツなので、いくら100%のパフォーマンスを発揮しても、負けるときがあります。だからこそ、必死にやって、力を出し切って、結果的に気持ちよく勝ちたいし、負けても悔いを残したくないという思いは、常に選手に話しています」
個を大事に一人一人が確実に成長し続けている。今の青学大はそんなチームだ。
ただ、そんなチームにも低迷期があった。
後編では「履き違えた自由主義」を再建した安藤監督はどのようにしてチームを強くしてきたのかに迫っていく。
(取材/文/写真:氏原英明)
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