【【優勝/準優勝監督インタビュー】Honda・多幡監督が振り返る日本選手権(後編)

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【©真崎貴夫】

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※本記事は前後編の後編

監督が背中で示すチャレンジ精神

社会人屈指の内野手として名を馳せた多幡雄一監督は打撃、ヘッドコーチを経て今年から指揮官の座についた。ただ、監督気質は元々あったようだ。

「選手やコーチの時代から、『俺だったらこうするだろうな』というのは常に考えていました。
もちろん、当時の監督の考え方を理解して、そのために選手、コーチとしてはこうするべきだという方向に動くのですが、常に自分が采配をするなら、という視点はありました。」

その中での1年目はスポニチ大会の優勝あり、都市対抗予選敗退ありと激動の1年になった。本拠地の移転などたくさんのことを経験したが、多幡監督はその中で自分の信念としていたものがあるという。

「チャレンジをするということです。チームスローガンを『夢への挑戦』としましたが、この1年は全てにおいてのチャレンジを目指してきました。
もちろん、それは選手たちに求めるだけではなくて、自分自身が采配において、チャレンジする背中を見せようという想いで戦っていました。」

多幡雄一監督 【©真崎貴夫】

前任の開田監督は隙のない手堅いチーム作りを目指した。2020年には都市対抗で頂点にも立ったが、多幡監督は更なる進化を求めて挑戦することを決めた。失敗を恐れずに勝負に向かっていく。そうすることで、チームの更なる刷新を目指すというわけである。

とはいえ、1年目。一筋縄ではいかない部分もあった。都市対抗での敗退もそうした監督としての難しさを痛感した。
采配には答えがない。必ずこの手を打てば勝つとわかっていれば、誰でも起用に迷うことはないが、失敗するリスクを直に感じながら采配し、監督としての信念を貫き通す難しさを感じたという。


「これで結果が出ますという情報がない中で、監督は決断を下さないといけない。その怖さはやっぱり感じました。

この采配であれば必ず勝てるというのがあれば、迷わずそうします。ですが、実際はそこに必ず負ける怖さが存在する。その怖い中でも、大胆にチャレンジするんだという姿勢を僕が先頭に立って見せれば、選手も思い切ってチャレンジする。
だから僕が背中を見せるように、大胆な采配をどんどんするということを忘れないようにしていました。

また、個々の成長と積極的にチャレンジすることを正しく評価し、適材適所を見極めて正しいタイミングで起用することこそが、チームを一つにまとめる大きな原動力になると感じました。」


思い切って起用した選手が活躍する。そうすることで、その選手自身が乗っていき、一人の戦力としてチームに勢いが生まれる。無難な起用をしていると、そのタイミングを逃してしまい、結果として、チーム力は生まれないということだろう。

5月には2年半、怪我で離脱していた投手をいきなり先発に抜擢した。その選手、片山は日本選手権では2回戦と決勝戦に先発を果たす。チームの中心で活躍できるようになった。

準々決勝の東芝戦では代打起用の山本兼三が起死回生の満塁弾を放ち勝利を呼び込んだ。準決勝戦では代打に抜擢した上ノ山倫太朗が安打を放ち得点に絡む活躍を見せた。


「上ノ山は去年まで投手でしたが、今年のキャンプのときにピッチャーを辞めますと言ってきました。『(野手を)やるのはいいけど、その覚悟はあるのか?他の野手の誰よりも練習して、みんなを納得させろ』と発破をかけ、外野手に転向させました。1年間、本当に誰よりも練習した選手でした。

監督として勝つための選択を常にしていきながら、時にはリスクを負ったチャレンジングな采配を行う。そうして起用された選手が活躍しチームに勢いをもたらす。その連続でチームが乗っていき、最終的にチームが勝つ。勝つことでチームがさらにまとまっていくようなのが理想的なのかなと思います。」

昨年まで投手だった上ノ山が代打で結果を出した 【©真崎貴夫】

チャレンジを目指した1年。それは、ある意味では多幡監督の野球を浸透させることを目指したものだった。結果が示す通り、それは如実に成果が出ている。

勝ち続けるために

多幡監督は「常勝チーム」をHondaのあるべき姿としている。それは安定的に全国大会のベスト4以上に進むという意味だ。何年かに1回だけということではなく、毎年のように常にベスト4に上がってくるチーム。
日本一を目指しながら必ず上位に上がってくるチームを目指す挑戦は2年目以降、更なる進化を遂げていくことだろう。

もちろん課題もある。都市対抗予選では連戦となった5、6試合に連敗して本戦出場を逃した。日本選手権の決勝も連戦となった5戦目に敗れている。
強い疲労と厳しいプレッシャーとの戦いの中において、いかに結果を残していくかは、これからの大きなテーマになっていくはずだ。

最後に多幡監督に今後のビジョンを聞いた。


「心身のタフさが、今後の課題となります。自分たちが信念をもって、取り組んできたことを大一番でやり切れるか。チームの最終目標である日本一に向かって、継続力と対応力を伸ばしていきたい。

チームの活動方針の中でいつもチームに言っていることですけど、人に感動してもらえるようなチームになりたい。いや、ならなくてはいけないと。そのためには、まず自分自身が感動するプレーをしなければいけない。

これは選手だけでなく、監督である僕自身も同様で、自分が感動するような采配をするということです。そうして、あらゆる人に感動してもらい、名実ともに日本一に相応しいチームになります。」

「感動させるチーム」を目指していく 【©真崎貴夫】

都市対抗予選で敗れ、なんとなくでは勝てないことを悟った。そこから原点に帰って「なんとなくではいけない」と徹底したチーム戦術を掲げて、日本選手権で準優勝まで這い上がってきたのが多幡監督の1年目だった。

選手時代は名選手だった指揮官が姿を変えてリーダーとしてチームを引っ張っている。ここからどこまで昇るのか来季以降も期待したい。


(取材/文:氏原英明)
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