【【優勝/準優勝監督インタビュー】Honda・多幡監督が振り返る日本選手権(前編)
【©真崎貴夫】
本拠地移転で強いられた苦戦
就任1年目のHondaの指揮官、多幡雄一監督は社会人日本選手権での準優勝を終えてそう振り返った。
3月のスポニチ大会で優勝を果たすも、所属連盟を変更して迎えた都市対抗は予選で敗退。全てのリベンジを果たす機会となった日本選手権で結果を残し、意地を見せた形でシーズンを終えた。激動の1年。そう言っても過言ではない。
「対戦する相手も違えば、戦う場所も違いました。激動の1年といったのはそういったところにも当てはまりますが、対応力が試されたシーズンだったと思います。そこで負けたことで、もう一度必死に戦うとか、何となく勝てるだろうと戦っていてはいけないのだということを学びました」
多幡雄一監督 【©真崎貴夫】
それによって所属する連盟も変わった。埼玉から東京への変更は一見すれば都市対抗の舞台などで戦っている相手と対戦するだけに見えたが、その難しさは想像以上だった。
球場やそれぞれの予選が持つ雰囲気は独特で、また、予選で戦う東京のチームはこれまでとは異なる苦戦を強いられた。
「圧倒されたと感じるような試合はありませんでしたが、これまでとは一味も二味も違うような相手でした。そのギャップを埋めることが一番苦戦したと言いますか。
負けゲームは全部1点差となりました。予選の戦い方や移動、球場など、想定はしていたものの、難しかったところかなと思っています」。
敗れた3試合は1点差による敗退だった。
もっとも、その環境要因だけを多幡監督は敗因に置いていない。やはり得点力不足が根本なものと捉えた。
それまでもバッティングにはコーチ時代から明確に取り組んでいたものがあったが、「なんとなく」ではいけないと感じ3つのテーマを軸に夏から猛練習に取り組んだ。
都市対抗予選の敗退から這い上がった 【©真崎貴夫】
得点力向上のために掲げた3つのテーマ
ありきたりなようだが、そのアプローチは徹底的だった。
多幡監督が話す。
「出塁率を上げるために、バットコントロールの向上というのをまず考えました。力感をしっかりコントロールしようということで、100%の力でフルスイングっていうのももちろんやりたいことなのですが、それをやってしまうと、バットのコントロールができない。それがミスショットに繋がりやすいと考えて8割の力で振るということを意識させました」
一つはフリーバッティングで8割の力でセンター返しをするという古典的なものだが、それ以外ではティー打撃で、どのコースに投げられても同じところに返すという練習をやった。
あるいは、トスバッティングを活用して、普通はワンバウンドで返すところをライナーで返すというのを10球連続成功というノルマを掲げてやった。
バットコントロールを習得する意味を多幡監督はこう語る。
「出塁率をあげる上で大事なのはフォアボールを取ること。その中でやっぱり打つべきボールをどう選別するかということがあると思います。
つまり、ボール球をどれだけ振らないようにできるか。やはり練習からボール球をしっかり見ることができない選手は、試合でも当然ボール球に手を出してしまうので、練習から厳しくしました。自分が思ったところにバットを出す、そのボールにどうアジャストさせるかという能力を鍛えなくてはいけないという課題がありました」
力感のコントロール。そうしていくうち、出塁率の向上につながった。
出塁率が良くなると得点能力は上がり、またそれによってこれまで控えだった選手の中にも結果を出す選手が生まれ良い意味での競争意識も生まれた。
次に長打率については総合的に評価するということだった。
例えば、出塁率が低くても長打が打ててOPSが高い数値であれば、それは評価対象とした。
「得点と相関関係が一番強いOPSを僕はずっと追いかけているのですが、出塁率が悪くても、例えば長打率でカバーしてOPSを上げて得点に貢献するという。そういった特徴は選手によってはありますので、出塁率だけを見ないようにはしていました」
ただ長打率は出塁率を向上させる過程の中で同時に上昇していった。
とりわけ、力感のコントロールの効果は意外なところで生きたという。
力感のコントロールはコンタクト率を上げる一方で、強いスイングをしないような印象だが、それが意外に違ったのだ。
多幡監督が証言する。
「当たり前ですが、バットの芯に当たると打球は飛びます。実際、8割というのは結構なスイングになります。しかし実際、いつもは10割で振ろうとしてタイミングを崩され、5割ぐらいのスイングになってしまっていました。それがなくなっただけでも大きかったのかなと思います。
フルスイングの力は2割落ちるのですが、8割でも飛ぶという感覚を身に付けて欲しかったということです。」
力感のコントロールが打撃力向上に繋がった 【©真崎貴夫】
試合では様々なケースがあるが、特にイニングの先頭打者の重要性は投打のどちらの面においても、試合において話題に上がるところである。Hondaはとにかくそこに意識を徹底したのだ。
それも試合だけで意識するのではなく、練習での実践形式から。それは最初の意識向上になったという。
「試合になるとみんなが先頭を出さなくてはという意識をしてしまって逆にプレッシャーになりすぎていました。普段から先頭を出そうと強く言ってきたので、チーム内での当たり前とすることの位置づけが変わりました」
先頭打者を出すことができれば、当然、攻め方のバリエーションは増える。様々な攻撃の形を得たことで、都市対抗では露呈した得点力不足は解消した。
先頭打者を抑える意識の徹底
「バッターと同じで先頭打者に意識を持つということなのですが、特に得点をとったあとの先頭打者、そして、そのクリーンアップが2回り目に差し掛かる時のそこにつながる打者への意識を持つようにしました。
どういうことかというと、バッターは2回り目にはアジャストしてくる確率が高い中で、クリーンアップの前のバッターが出塁してしまうと、クリーンアップにチャンスで回るということになり、イコールそれは失点に繋がりやすいということで、そこに意識を持たせました」
これはHonda独特の戦術的な狙いと言えるだろう。打者は回を追うごとに投手にアジャストしていく。だから継投に打って出るわけだが、それはおおよそ3回り目だ。
2回り目から継投に入ることは少なく策を打ちにくいエアーポケットのようなイニングになる。そこに意識を持つ。
これは戦い方を熟知したチームづくりと言えるだろう。
そうした戦いが、この秋は功を奏した。
日本選手権の1回戦では阪神から1位指名を受けた伊原のいるNTT西日本だったが、先制の場面は先頭打者の四球から好機を掴んで2得点。3点目も四球が絡んでいる。
投手陣は2人の完封リレーで勝利。好投手の伊原攻略は指揮官を含めてポイントの一つだったが、競り勝つことができた。
2回戦のJR西日本戦も四死球をうまく絡め、準々決勝の東芝戦は先攻されるも、7回に一気に畳み掛けての勝利だった。準決勝も少ないチャンスを得点に繋げて完封勝利した。
「決勝は惜しくも敗れて準優勝でしたが、この夏の猛練習の中から、這い上がってきた選手も何人も使えました。やってきたことが少し実になってきたので、チームとして成長を実感できました」
そうして準優勝を果たし激動の1年は来年への足がかりを作った。敗北から叩き上げてのこの結果は次につながるだろう。
多幡監督は指揮官としても自信をつかんだに違いない。後編では多幡監督の哲学に迫る。
(取材/文:氏原英明)
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