2023年女子サッカーW杯の楽しみ方。社会の変化を体現する女子サッカーの現在地と、その魅力とは?
【photo by Noriko Hayakusa】
世界で今、女子サッカーが限りなく熱い!
チャンピオンズリーグを制したイングランドは今最も勢いのあるチーム。昨年の対戦では完敗だったが、その中にあっても時折スキルフルなプレーで好機を生み出した長谷川唯 【photo by Noriko Hayakusa】
その要因の一つとして挙げられるのが国内リーグプロ化への着手、またはその充実だ。例えばスペイン。10数年前のスペイン国内リーグは当時なでしこリーグの覇者であるINAC神戸レオネッサと対戦しても全く歯が立たない状況だったが、プロ化へ向けてリーグ自体が国からの支援を受け、また世界的人気クラブである男子チームのビッグマネーも女子チームに投入され、瞬く間にチャンピオンズリーグで上位に名を連ねるチームへと変貌を遂げた。
代表として戦い抜くためにはより高いレベルでの研鑽を求めて今最もホットなリーグに位置づけられるスーパーリーグ(イングランド)のウェストハム・ユナイテッドに移籍しスタメンを勝ち取っている清水梨紗 【photo by Noriko Hayakusa】
W杯で期待が高まる、日本女子サッカーの飛躍
WEリーグの初代チャンピオンはINAC神戸レオネッサ。山下杏也加が日本女子サッカー史上初めてGKとして最優秀選手に輝いた。これも日本女子サッカーの変化の一面。今後も“女子サッカー”の概念を覆す選手たちがどんどん出てきてほしい 【photo by Noriko Hayakusa】
日本も世界の潮流に取り残されないため、そして女子サッカー発展のために、2020年にプロ化に踏み切った。Women Empewerment League(WEリーグ)である。先進国の中でもジェンダー意識が低いと指摘を受ける日本の現状下であえて“女性活躍”を理念に掲げての覚悟の船出だった。とはいえ、社会問題でもあるジェンダー平等を日本スポーツ界で浸透させていくことは簡単ではない。選手のみならず、WEリーグに関わるすべてにおいて意識改革を行いながらその歩を進めているところだ。しかし、コロナ禍も重なり、2シーズン目の平均観客動員数は1401名と、目標に掲げた5000人を大きく下回り、世界のトップ選手が興味を持つリーグとなるにはまだ時間がかかりそうだ。それには、まず勝利する姿がなければ人々の耳目を集めることは出来ない。
2011年大会では、小さななでしこジャパンの選手たちが、パワフルな海外選手に倒されても諦めずに挑んでいく献身的なプレーが強烈なインパクトを放った。何度も生み出された劇的瞬間が感動を呼んだが、その盛り上がりは“大フィーバー”止まり。日本に女子サッカーを根付かせるまでには至らなかった 【photo by Noriko Hayakusa】
男子にはない日本女子サッカーの魅力、見どころ
練習場での一場面。ファン・サポーターと選手との心の距離が近いのも魅力の一つ 【photo by Noriko Hayakusa】
男子の試合では一瞬で事が起き、卓越したテクニックで一気に勝敗が決するスピード感と臨場感が見る人を惹きつける。女子の場合はスピードがない分、ボールを持たない選手の動きや、選手同士の連動など、チームの戦術を時差なく自らの視点として見つけることが出来る楽しさがある。オンオフの表情が大きく変わるギャップも魅力の一つ。どの魅力を見いだすかは見る者次第なのだ。
W杯での注目選手は? なでしこジャパンのキーマン
守備のみならず、精神的柱となっている熊谷紗希。世界ランク1位アメリカのエースであるアレックス・モーガン(右)とは2011年大会決勝でも対戦している。今夏のW杯でも勝ち上がれば再びマッチアップする場面を見ることが出来るかもしれない 【photo by Noriko Hayakusa】
しかし、このチームが戦う集団になるためには殻を破る若い力が不可欠だ。あえて一人の名を出すなら、藤野あおばを挙げたい。
ここからのなでしこジャパンの中枢を担うことになるであろう藤野あおば。若手だからこそ、先輩選手に寄りかかりながら自分の良さをぶつけることができる。遠慮も戸惑いも捨てて、全力を出し切ることができれば、彼女のプレーにスタジアム中が湧き上がるはずだ 【photo by Noriko Hayakusa】
中堅選手は自分たちが牽引する責任を背負わなければならない。若手は懸命に力を出し切らなければならない。自分が引く限界の先へ手を伸ばさなければ掴むことが出来ないものがある。世界と対峙しながら自らの殻を打ち破る選手が多く出てくればくるほど、再び見えてくる景色がきっとあるはずだ。
世界と戦うということはフィジカルに差のある相手と対峙するということ。なでしこジャパンがそこをどう攻略していくのか、ピッチ上での創意工夫されたプレーに注目してもらいたい。そして選手たちにはW杯という舞台を全力で楽しんでいる姿を見る人すべてに届けてほしいと思う。また、W杯では各国キャプテンが腕に巻くアームバンドは社会的大義を強調する8つのデザインがある。彼女たちが大舞台でどんなメッセージを腕に巻くのか、そこに出場国が抱える社会課題を感じ取ることが出来るかもしれない。
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PROFILE 早草紀子
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサポーターズマガジンでサッカーを撮り始め、1994年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。1996年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルフォトグラファーとなり、女子サッカー報道の先駆者として執筆など幅広く活動する。2005年からはJ2リーグ大宮アルディージャのオフィシャルフォトグラファーも務めている。日本スポーツプレス協会会員。国際スポーツプレス協会会員。
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text & photo by Noriko Hayakusa
※本記事はパラサポWEBに2023年7月に掲載されたものです。
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