「自由視点映像でバレーボールを拡張せよ。」 日本バレーボール協会とAMATELUSが見出した、新たなスポーツ観戦の可能性。

SPORTS TECH TOKYO
チーム・協会

【公益財団法人日本バレーボール協会】

スポーツテックをテーマとしたアクセラレーションプログラム「SPORTS TECH TOKYO」では、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」を開催している。今回の記事では昨年度の「INNOVATION LEAGUE」で事業共創を行った公益財団法人日本バレーボール協会(以下、JVA)垣谷氏と、自由視点映像に関する特許技術を保有するAMATELUS 株式会社 下城氏をお招きし、5G時代に向けた革新的な映像視聴体験の提供の背景や手応え、戦略的業務提携締結を結んだ理由や「INNOVATION LEAGUE」への評価、期待について深く掘り下げる。
PROFILE
垣谷 直宏(かきたに なおひろ)
公益財団法人日本バレーボール協会 部長(マーケティング戦略推進部/広報部)。
東京海上火災保険に入社後、プライベートエクイティ投資等に従事。ファーストリテイリングではM&Aのほか、海外に拠点を移し複数国での事業立上げを担当。その後、政府系投資会社にて日本企業の海外進出に携わり、上場小売企業との合弁会社で取締役を務める。外資食品小売を経て現職。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院及び香港科技大学修士課程修了(MBA)。

下城 伸也(しもじょう しんや)
AMATELUS株式会社 代表取締役社長。
高校生時代に打ち込んだソフトテニスで全国大会優勝後、法政大学在学時に友人3名でCMS開発販売のIT企業を設立し起業。年商22億、社員220名まで拡大させたのちITの更なる未来に可能性を見出しつつ「人類に何が残せるか」というテーマに取り組みたくなり世界一周旅行を敢行。その後2017年にAMATELUS株式会社を設立し、NewXR領域である自由視点映像/マルチアングル映像の社会実装に注力する。

3ヶ月で実証実験を実現できた背景

はじめに、「INNOVATION LEAGUE」参画へのきっかけを教えていただけますか?

垣谷
やはり新型コロナウイルスの流行が大きなきっかけです。会場に足を運んでいただく興行がビジネスモデルの中心となっていましたので、大会やイベントが安定して開催できなくなった結果、興行以外のアプローチを増やしていく必要性を強く感じました。その課題意識と同時並行で、バレーボールが持つ価値の再定義について議論を重ねているタイミングでもありました。その中でご縁もあり、「INNOVATION LEAGUE アクセラレーション」と出会った形です。

下城
私たちAMATELUSは、自由視点映像の特許技術を持っています。2019年に特許を取得したのですが、特許取得前は教育業界に対してサービスを展開していました。特許取得後は、エンターテイメント業界に積極的にサービスを展開し、2020年以降はスポーツ業界をターゲットに設定していました。その矢先に新型コロナウイルスが流行しはじめたのですが、試合会場での観戦が難しくなり、試合の見せ方をテクノロジーの力を使ってアップデートしたいということで、スポーツ業界のお客様から非常に多くのお問い合わせをいただきました。

そのような経緯でスポーツに関するプロジェクトが増えた頃、関係者の方から「INNOVATION LEAGUE」のお話をいただきました。その際に、JVAさんなどの具体的な協業先もご紹介いただき、実証実験や事業連携の可能性を見出すことができたため参画することにしました。プログラムの期間が非常に短いので、具体的に案件化出来るかどうか心配がありましたが、予想以上のスピードで話が進んだ印象です。

【公益財団法人日本バレーボール協会】

アクセラレーションで取り組んだことについてお聞かせいただけますでしょうか?

垣谷
私たちからは3つのテーマを設定し、ご案内をさせていただきました。1つ目が、オンラインを活用した新しい観戦体験。2つ目がデジタルを活用したライトファン層へのアプローチやコミュニケーション施策。3つ目がファンコミュニティ構築によるエンゲージメント向上。テーマに基づき、アクセラレーションのパートナー企業候補を募っていただき、数社と実際にお話をすることができました。サービス内容や実績だけでなく、実際に担当者の方とお話しをして人柄や相性も確認しながらパートナー選びを進めさせていただきました。

【公益財団法人日本バレーボール協会】

協業に際して、工夫したことや苦労したことについて教えていただけますか?

垣谷
これはAMATELUSさんにも、賛同いただけると思うのですが主に二つあります。一つは技術について、もう一つは協業の体制についてです。

まず技術についてですが、実際に取り組んでみないと分からないことがやはり多々ありました。最初にAMATELUSさんが提供されている映像のサービスについてお聞きした際、バレーボールの魅力である空中戦を360度で捉えて映像化できることに大きな期待を持ちました。しかし、いざ取り組んでみるとスピードの速いボールを正確に捉える技術の面や、試合会場の仕様によって撮影環境が左右されるなどオペレーション面で課題が頻発しました。

次に協業の体制についてです。AMATELUSさんとの取り組みに関しては下城さんの情熱とコミットメントのおかげで非常にテンポよく調整することができたのですが、一方、JVA内では新しい技術やサービスの導入を検討する際に様々な観点から十分に議論しながら進める必要がありました。

下城
弊社としては協業体制の部分で不都合を感じた点は特にありませんでした。それもJVAさんがスピーディーに対応してくださったことが全てで、とても感謝しています。正直アクセラレーションに参加した当時は、その期間の短さから実証実験までは期待していませんでしたが、「INNOVATION LEAGUE」の運営チームの支援もあり非常にスムーズにプロジェクトが進んだことは良い意味で驚きでした。

技術的な話については、やや専門性が高い話になってしまいますが、特に画質とフレームレートの調整を行いました。一度目の撮影時にこの二つの課題を発見することができ、JVAさんのご尽力で二度目の撮影の機会を早急にいただけたので、この課題は早期に解決することができました。

JVA内ではどのようなステップで実証実験を進めたのでしょうか?

垣谷
この取り組みを始めたのが夏頃だったのですが、JVAの管轄する国際試合のシーズン終了間際で、技術を活用する機会の不足が課題でした。そこでシーズン開催中のVリーグのチーム、NECレッドロケッツにトライアルとして協力を要請して実証実験を進めていきました。

JVA内では、中長期的な視点で技術の導入について議論を行いました。この技術は短期的に見ると、試合をマルチアングルで見られるだけですが、中長期的には活用の幅をより広げられるポテンシャルがあると考えました。具体的には、まずはバレーボール競技者へのサービス提供です。マルチアングルで映像を提供することによって、より高度な試合分析やフォームチェックなどが可能になります。もう一つはファン向けの新しいコンテンツ提供です。JVAとして3月にファンサイトの「バレともタウン」を立ち上げたのですが、会員の方向けにマルチアングルの映像を使ったコンテンツを提供することも視野に入れています。このように活用の幅を中長期的に拡張していくことを前提に議論を進めたことで、JVA内でうまくコンセンサスを取ることができました。

3月9日(水)にオープンしたバレーボール日本代表オフィシャルファンサイト「バレともタウン」では、バーチャルな街空間が広がっているサイト内で、日本代表選手たちのインタビュー動画やオフショット写真など、ここでしか見られないコンテンツ、サイン入りグッズのプレゼントなど、さまざまな特典が楽しめる。https://volleytomo-town.jp

【バレーボール日本代表オフィシャルファンサイト「バレともタウン」】

アクセラレーションに参加して良かったことや課題について教えていただけますか?

垣谷
良かった点は、ネットワーキングを通じてスポーツ業界内外とご縁ができただけでなく、プロジェクトを実際に具現化して成果に繋げることができた点です。JVAは保守的な組織に見られがちですが、「INNOVATION LEAGUE」に参加しアウトプットを出すことによって、新しいことにチャレンジする姿勢を組織内外に示すことができた点もポジティブだったと捉えています。インキュベーターとのコミュニケーションも良好で、AMATELUSさんと我々の間も適切に取り仕切っていただけました。スピーディーかつ熱心に取り組んでいただき、インキュベーターの力があったからこその成果だと思っています。新型コロナウイルスの影響がなければもっとオフラインでのネットワーキングが捗ったのだろうと思うと、その点は少し残念でしたね。

マルチアングル映像を通じてバレーボールを拡張したい

プログラム終了後、両社はどのような取組みを進めているのでしょうか?

垣谷
プログラム期間中は女子チームを対象に実証実験を行っていましたが、プログラム終了後は男子チームを対象に技術活用のチャレンジを行いました。女子と男子では競技スピードの違いから課題が噴出しましたが、それも段階を踏んでクリアにしていきました。その後は、一般の方に映像コンテンツを販売すべくクオリティの向上に努め、実証実験からアウトプットまで丁寧に段階を踏みながら進めているところです。その過程でAMATELUSさんと中長期でタッグを組んでチャレンジすることにより価値を見出し、昨年7月より戦略的業務提携を結ばせていただきました。「INNOVATION LEAGUE」参画当時は正直、ここまで大きな絵は描いていませんでしたが、JVA内でもこの技術活用にポジティブな雰囲気が醸成されていて新しいフェーズに突入した感覚です。

映像サービスに対するファンの反応はいかがでしょうか?

垣谷
東京2020オリンピックのバレーボール代表チームが頑張っているタイミングで、サービスを正式にローンチする前のモニター募集を行ってみました。はじめは100名限定で募集をかけましたが、競技者と非競技者を合わせて倍率が10倍近くまで跳ね上がり、想定を超える期待や関心を感じることができました。結果的に、この一回目のモニター募集から複数回の改善を経て、世界初となる「マルチアングルかつ自由視点切り替えの映像」の有料配信サービスをローンチしています。トライアルとしてローンチしたこともあり、まだまだこれから伸ばしていく事業と位置付けていますが、実際に利用いただいている方々からはとても好評です。一般的な試合映像とは異なるアングルで試合を見ることができ、特定の選手だけを追いかけることもできるので、現状はバレーボールをより自由に、深い視点で見たい方にご好評いただいています。

下城
我々としては実証実験期間中に解決できない技術的な問題があったため、アクセラレーションの期間が終了した後も取り組みを続けさせていただきたいと考えていました。一方でプログラム終了後のアクションになるので実現は難しいのだろうと半ば諦めていたのですが、弊社の要望を受け入れていただき、より発展的な取組みにチャレンジできたことに正直驚きました。その後は技術的な課題の解決に奔走し、有料配信サービスのローンチ。JVAさんとの取り組みを通じてスポーツシーンへの技術活用に対して新しい課題が多く出てきている状況なので、弊社としてはその一つ一つに向き合い、改善を続けている最中です。有料配信サービスローンチ後のファンの方々の反応を見ているとポジティブな意見がとても多く、観戦体験の拡張の一つの手段としてこの取り組みに可能性を感じています。

またスポーツ業界に対してサービスを提供することを一つの目標として据えていたので、社内外で非常にポジティブな声が多いです。またJVAさんとの連携に関するプレスリリースやサンプル映像を見たスポーツ業界の方から、問い合わせを多くいただいている状況です。

【公益財団法人日本バレーボール協会】

映像技術を通じた、新たなコミュニケーション実現に向けて

垣谷
AMATELUSさんとは戦略的業務提携を締結させていただきましたが、形式的な連携に終始せず、中長期的なパートナーシップにしていきたいと考えています。現在は有料配信サービスをソリッドなものにしていくために、二人三脚で仮説検証と改善を繰り返しているところです。加えて、バレーボールの指導の場面における技術活用の可能性についても模索しています。またファンへのアプローチとしては、有料配信の他にファンサイト「バレともタウン」向けのコンテンツ充実を進めています。例えば、オンラインで代表選手とファンサイト会員を繋ぎ、映像を見ながら具体的な改善点やアドバイスを伝えることができるオンラインレッスンサービスなど、実現できると面白いですよね。

下城
AMATELUSとしては新しいテクノロジーを開発した際に、まずJVAさんにお試しいただける関係値を持たせていただいている点が非常にありがたいです。既存サービスの改善だけでなく、JVAさんが設定する目的に対して開発を行い、観戦体験の拡張に取り組んでいきたいと考えています。目先の目標については、先ほども垣谷さんが仰っていたオンラインレッスン等の遠隔コミュニケーションができる機能の実装とサービス化を進めています。

今後、「INNOVATION LEAGUE」にはどんなことを期待したいですか?

垣谷
スポーツ業界外やスタートアップと繋がる機会が限られていた我々にとって、「INNOVATION LEAGUE」はとても貴重なネットワークの機会でした。今後「INNOVATION LEAGUE」が継続していく際は、ぜひ年度を跨いだ交流が広がると良いですよね。SPORTS TECH TOKYOさんがハブとなりスポーツ産業内外がシームレスに繋がることで、新しいアイデアや事業がどんどん生まれてくるのではないかと想像が膨らみます。

下城
私たちのようなスタートアップが権威性の高いスポーツ団体さんと協業し、実績を作る機会は非常に稀です。そういった点で、このように業界の垣根を越えてスムーズに協業ができるこのプログラムにはとても価値があると思います。点と点に留まらず、このプログラムを線や面に広げていくことができれば、スポーツ業界にとってもスタートアップにとってもより良い場になっていくのではないでしょうか。


執筆協力:五勝出拳一
『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションとしたNPO法人izm 代表理事。スポーツおよびアスリートの価値向上を目的に、コンテンツ・マーケティング支援および教育・キャリア支援の事業を展開している。2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版。

執筆協力:清野修平
新卒でJリーグクラブに入社し、広報担当として広報業務のほか、SNSやサイト運営など一部デジタルマーケティング分野を担当。現在はD2Cブランドでマーケティングディレクターを担いながら、個人でもマーケティング支援を手掛けている。
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著者プロフィール

SPORTS TECH TOKYO

スポーツテックをテーマにした世界規模のアクセラレーション・プログラム。2019年に実施した第1回には世界33カ国からスタートアップ約300社が応募。スタートアップ以外にも国内企業、スポーツチーム・競技団体、スポーツビジネス関連組織、メディアなど約200の個人・団体が参画している。事業開発のためのオープンイノベーション・プラットフォームでもある。現在、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」も開催している。

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