「スポーツで社会課題や地域課題の解決を。」 スポーツ庁参事官坂本弘美氏が語るスポーツの可能性。

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【INNOVATION LEAGUE】

スポーツ界をリードする「INNOVATION LEAGUE アクセラレーション」のメンターを訪ね、過去・現在・未来に迫るとともに、スポーツビジネス最先端の可能性と課題を紐解く特別インタビュー企画。

第7弾は、スポーツ庁参事官(民間スポーツ担当)付 参事官補佐である坂本弘美氏をお招きし、これまでのキャリアやスポーツ界の今後、INNOVATION LEAGUEの手応えと展望について話を聞いた。

【INNOVATION LEAGUE】

PROFILE
坂本弘美(さかもと・ひろみ)
スポーツ庁参事官(民間スポーツ担当)付 参事官補佐
東京大学大学院を卒業後、NTTコミュニケーションズ(株)にシステムエンジニアとして就職。その後、2016年3月に経済産業省に入省、製造産業局にて製造業のIoT推進政策に携わる。2018年10月から同省 商務・サービスグループにて、主に中小・小規模事業者や自治体へのキャッシュレス推進政策に携わる。2020年7月より現職、スポーツの成長産業化に取り組む。

システムエンジニアからスポーツ庁へ。

まず初めに、坂本さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。

今は省庁で働いていますが、新卒のタイミングでは民間企業であるNTTコミュニケーションズにシステムエンジニアとして就職しています。その後、2016年3月に経済産業省に転職し、最初は製造産業局で製造業のIoT推進政策といったものづくりに携わっていました。2018年10月からは商小・小規模事業者や自治体へのキャッシュレス推進政策に関わり、その後スポーツ庁に出向という形で現在に至ります。

NTTコミュニケーションズから経済経産省に移り、現在のスポーツ庁へと活動の場を移した経緯をお聞かせください。

前職で1年間海外研修に行く機会があり、そこで直面した海外での現場経験がきっかけとなっています。当時は、サービス品質の高さを売りに海外進出をしていましたが、海外で現地のエンジニアと一緒に働いていた時に日本品質に更なる可能性を感じ、その日本品質というものを、より大きな枠組みで注目されるものにしていきたいという想いから、業種や企業の枠を超えてルール作りができる場所を求めて、経済産業省に2016年の3月に入省しました。その後、2020年の7月にスポーツ庁に着任し、スポーツと本格的に接点を持ち始めまたことが経緯となります。スポーツ庁に着任してからはスポーツの産業としての潜在的可能性を強く感じています。よく、大変でしょうとも言われますが、“スポーツは楽しい““もっと早く関わっていればよかった”と答えています。

【INNOVATION LEAGUE】

スポーツ庁に着任されてからの約1年半はいかがでしたか。

2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されていれば、2021年はその後のスポーツ界をどう盛り上げていくか、スポーツを競技、普及、経済面等でどのように持続可能にしていくかが一番の取り組むべき課題だったと思います。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、1年延期となり、スポーツの成長産業化に取り組むと同時に、新型コロナウイルス感染症対策に係るイベント開催制限、収容率や人数上限などのルール作りの業務にも携わっています。

観客を入れられないことは、スポーツ界においては選手にとっても、経済的にも大きな影響を与えます。そのような状況下で、安心安全なスポーツイベントの開催のために、感染症対策においてできうる限りのことに取り組んできました。東京オリンピック・パラリンピックが閉幕した今、これからはスポーツに対する関心を維持させたまま、どれだけスポーツ振興をすることができるかが肝になってくると思います。そのような意味でも、INNOVATION LEAGUEの存在は、とても意味のあるものだと捉えています。

SOIP(スポーツオープンイノベーションプラットフォーム)の構想は、スポーツが他産業と連携・融合して新しいビジネスモデルを創出し、スポーツ市場規模の裾を広げていくことを目的としています。スポーツ庁はSOIPの推進事業の一つとして、INNOVATION LEAGUEアクセラレーション・ネットワーキング・コンテストという3つに取り組んでおり、現在は1年2年と実績を積み重ねている段階です。引き続き、試行錯誤して改善をしながら着実に取り組んでいき、5年後10年後も続いていくようなものにしていきたいと思っています。

【SOIP(スポーツオープンイノベーションプラットフォーム)と市場の拡大】

INNOVATION LEAGUEが、スポーツビジネスのハブになる

INNOVATION LEAGUEの取り組みをスポーツビジネスの現場に還元していくためには、どんな取り組みが必要でしょうか?

リソース不足などのスポーツ界の課題を解決するためにも、また、スポーツを持続可能にしていくためにも、スポーツを産業として捉えるとともに、新しい収益源を作っていく必要があるのではと考えています。INNOVATION LEAGUEはその布石となるような取り組みにしていかなければいけません。

昨年のINNOVATION LEAGUE アクセラレーションでは、採択をさせていただいた企業とスポーツ団体がプログラム内で新規事業に取り組み、業務提携に繋がるような実例も出ています。事業の終了が縁の切れ目ということではなく、事業終了後も関係が続き、企業とスポーツ団体の持続的・発展的な関係構築に貢献できた部分に手応えを感じました。このような形でINNOVATION LEAGUEが主体となってアクセラレーションやコンテスト等を推進し、ハブとしての機能を強めていきたいと考えています。

本年度のINNOVATION LEAGUEで達成したいことはなんでしょうか?

本年度のINNOVATION LEAGUEの目標は、アクセラレーションでは昨年度以上に事業連携の質と量を増やしていくこと。コンテストについては全国各地から優良事例を拾い上げ、良い取り組みをしっかり広めていくということです。

東京オリンピック・パラリンピックが閉幕したことで世間からのスポーツに対する注目が下がっているとの声もあり、スポーツに対する機運を醸成していくためにも、このINNOVATION LEAGUEは積極的に推進していきたいと考えています。

本年度、アクセラレーションにパートナーとして参画する日本フェンシング協会やジャパンサイクルリーグについてはどのような印象をお持ちでしょうか。

ジャパンサイクルリーグはリーグとして新しく始まったばかりということもあり、これからの取り組み次第でどんな可能性も切り開けると認識しています。今回のアクセラレーションでも4企業を採択いただいており、私たちも一緒に伴走支援をしながら、自由度高くチャレンジしていただきたいと思います。

日本フェンシング協会は太田雄貴前会長、武井壮現会長を筆頭に、剣先のビジュアライズなどスポーツのエンタメ化に真っ先に取り組まれた団体です。先日六本木ヒルズアリーナで行われた日本選手権でも新しい演出にチャレンジされていて、フェンシング協会のアイデアや取り組みは、他の競技のロールモデルになっていく可能性を秘めていると感じています。

【INNOVATION LEAGUE 2020の様子】

コンテストを通じて表彰企業の認知拡大に貢献したい

INNOVATION LEAGUEでコンテストを実施する狙いや意義についてお聞かせください。

全国各地で素晴らしい取り組みが行われているものの、スポーツ庁に届いていない声や取組があるので、コンテストを通じて情報をしっかり集め、きちんと良い取組にスポットライトを当てていきたいです。このコンテストがスポーツ界内外からの一定のブランドとして評価され、挑戦したい方々の人的交流のきっかけになったり、多くの人がイノベーションの事例や手法を学んだり、実践していただけるような循環を生んでいきたいと考えています。

初年度となる昨年のコンテストでは、どんな手応えがありましたか?

昨年は「スポーツを止めるな」さんや「player!」さん、「エボライドオルフェ」さんなど、コロナ禍においてスポーツを推進していくこと自体が健康増進や社会貢献につながるための取り組みや、「見るスポーツ」としてエンターテイメント性を増幅させて人々を楽しませるような事業を表彰させていただきました。「する・みる・ささえる」それぞれの側面から多種多様な方の応募をいただき、実績があり、かつスポーツ界の中でも先端をいく方々を初年度に表彰させていただくことができました。このコンテストが着実に信頼とブランドを積み重ねていくためにも、非常に実りある初年度となったと感じています。

表彰された方々へのリターンにはどんな内容がありますか?

INNOVATION LEAGUEのコンテストは広報やネットワーキングの面で表彰企業を後押しすることが可能です。先日ある国際会議で、昨年度のコンテストで表彰させていただいた皆様の事業内容をご紹介したところ、出席者の皆さんからとてもポジティブな反応がありました。今後はより一層、スポーツ庁がハブになることで、国際進出や地域連携の部分を強くサポートできればと考えています。

【INNOVATION LEAGUE 2020の様子】

社会においてスポーツは今後どんな役割を担っていくでしょうか。

現在スポーツ庁では「第3期スポーツ基本計画」を策定中です。スポーツが持つ価値を通じて、社会貢献や地域貢献することが今後より一層もとめられるのではと考えています。スポーツを行うことは健康増進や医療負担の削減が期待できるだけでなく、地域交流やコミュニケーションを促すこともできます。スポーツの役割は社会的価値や環境問題への貢献、SDGsなど、今後ますます多様化し、地域において存在感を増してくると思います。マクロな視点でスポーツと社会を俯瞰し、スポーツをどう活用すれば社会貢献・地域貢献に繋がるのかを常に意識しながら政策を進めていきたいと思っています。最後になりますが、2022年の3月頃には、INNOVATION LEAGUEの成果発表の場であるデモデイを開催予定です。ぜひお越しいただき、スポーツが産業として持つ可能性、いわゆる熱量に触れていただければと思います。


執筆協力:五勝出拳一
『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションとしたNPO法人izm 代表理事。スポーツおよびアスリートの価値向上を目的に、コンテンツ・マーケティング支援および教育・キャリア支援の事業を展開している。2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版。

執筆協力:大金拳一郎
フリーランスのフォトグラファーとしてスポーツを中心に撮影。競技を問わず様々なシーンを追いかけている。その傍ら執筆活動も行なっており、スポーツの魅力と美しさを伝えるために活動をしている。
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著者プロフィール

スポーツテックをテーマにした世界規模のアクセラレーション・プログラム。2019年に実施した第1回には世界33カ国からスタートアップ約300社が応募。スタートアップ以外にも国内企業、スポーツチーム・競技団体、スポーツビジネス関連組織、メディアなど約200の個人・団体が参画している。事業開発のためのオープンイノベーション・プラットフォームでもある。現在、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」も開催している。

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