ロッテ唐川 ポーカーフェイスの内に秘めた熱き心。優勝のためミスターゼロは投げる

千葉ロッテマリーンズ
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【今シーズン防御率0.00の唐川侑己投手】

  落ち込む必要はないけど、悔しがれよ。高卒1年目、いきなり一軍のローテーション投手として活躍した唐川侑己投手が当時、先輩から言われた言葉である。ルーキーイヤー08年のシーズンは14試合に登板して5勝4敗。4月26日のソフトバンク戦(当時 福岡D)ではプロ初登板、初勝利。これが平成生まれのプロ野球選手初の勝利投手と18歳の青年のプロ野球人生は順風満帆にスタートした。しかし、プロ野球は甘くはない。18歳の若者は度重なる試練が待っていた。7月12日の楽天戦(仙台)を最後に白星から遠ざかり、結果的にこれがルーキーイヤー、最後の勝ちとなった。

 様々な課題と試練が18歳の若者を襲い、本来、彼が持つ天才的な投球のキレを徐々に奪っていった。勝てない日々。声をかけてくれたのは当時、チームのエースだった清水直行(現 琉球ブルーオーシャンズ監督)だった。

 「負けて落ち込む必要はないと思う。でも、成長するためには悔しがる必要はある。人は悔しさから成長する。だから、ちゃんと悔しがれよ」

 もちろん、悔しくなかったわけではない。ただ、周囲から見れば18歳の青年が敗戦後に見せる姿は淡々としたものに映っていた。それを心配したエースはタイミングを見計らって誰もいないロッカーで、あえて声をかけたのだ。

 「自分でも、もちろん勝てなくて悔しい思いはありました。ただ、そう言われた時にハッとなにか気づかされた感じがしました」

 悔しさが反省を呼び、反省からなにかを見つけ出し新たな鍛錬を行う。人間はそうやって、成長する。唐川は、生きるうえでの大事な事を先輩に教えてもらった。一年目のシーズンオフは地元・千葉出身の若きヒーローということで、トークショーなどイベントの参加が相次いだがシーズン中盤から勝てなくなった悔しさを忘れず、自分を見失うことなく、しっかりと練習をする時間を見つけて、その日行える最善の努力を積み重ねた。そんな中で、オフに一度だけ悔しさをあえて忘れるオフ日を作った。中学時代の仲のいい友達10人と伊豆に温泉旅行に出かけた。練習に取材、イベント参加。多忙な時間の中での唯一の旅行だった。仲間たちは野球部のメンバーではない。地元の気心知れた友達。野球観戦に訪れる事もほとんどない。大学生もいれば、フリーターもいる。すでに職についている友もいた。なにもかもを忘れた楽しい時間だった。はしゃぎ疲れるくらい遊んだ。そんな時、一人の友達がポツリとつぶやいた。

 「なあ、侑己。オレたちにとって唐川侑己はいつまでも唐川侑己だからな。千葉ロッテマリーンズの唐川侑己じゃないからな」
 
 ふとした言葉で当たり前のような事が、すごく嬉しかった。プロに入ってから、どうしても構えてしまう自分がいた。いつも見られている事を意識し、プロ野球選手として接する人とプロ野球選手として接していた。しかし、幼なじみ達はそうではない。子供の時からの変わらぬ友達として自分を見てくれる。なんとも言えない幸せを感じた。
 
 「自分には戻れる所があることが嬉しかった。いつでも素の自分に戻れるところ。なにげない言葉なのだけど、ボクには本当に嬉しかった」と当時、唐川が嬉しそうに話をしてくれたのはつい最近のように感じる。
 
 月日は流れた。そんな唐川もプロ13年目になった。悩み多き18歳の若者から中堅へ。今年はセットアッパーとしてチームの勝利に貢献している。防御率0.00。ポーカーフェイスにはさらに磨きがかかっている。だが心は誰よりも熱く燃えている。降板後はベンチで試合を見続ける。次に投げる投手に目線を合わせ、胸を叩くジェスチャーをしてパワーを送る。「一緒に戦っているんだよという気持ち」と唐川。優勝への想いは人一番強い。マウンドでの冷静な印象とは一転、今や若手の多い投手陣を引っ張り支える存在。そして若き頃に先輩たちから励まされ、アドバイスを受けたように声をかける。様々な経験、悔しい想いを糧にして背番号「19」が悲願のリーグ優勝のキーマンとなっている。

文 千葉ロッテマリーンズ広報室 梶原紀章
 
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