上野香織×澤田由佳 NECレッドロケッツ司令塔対談 「助けてくれる存在。助けたい存在。それがミドルとセッターの信頼関係」【Vリーグ/女子バレー】

NECレッドロケッツ川崎
チーム・協会

【NECレッドロケッツ】

コート上では常に冷静沈着であり、試合の流れを見極める。そんな存在が上昇チームには存在する。レッドロケッツでは、それがミドルブロッカーの上野香織であり、セッターの澤田由佳である。
共にコート上では静かな闘志を燃やしながら、チームの頭脳として君臨する両選手に、今シーズンのレッドロケッツについて聞いてみた。

ミスを恐れず「何度も使う」

――ミドルとセッター、お互いの印象は?

上野 入って来た当初は全然しゃべらない子だな、と思っていたんですが(笑)、一緒にやっていくうちに意外とおしゃべりなところもわかってきました。でもちょっと表に出そうとするとすぐ隠れちゃう。やる時はやるけれど、隠れる時は隠れる。そういう使い分けもうまくできるタイプです(笑)。

ミドルブロッカーの上野香織選手 【NECレッドロケッツ】

澤田 私はブンさんが文京(文京学院大学女子高校)で春高に出ているのを見ていたので、NECに来た時も「あの時の文京の方だ!」というのが第一印象でした。実は、最初は怖かったんですが(笑)、喋ってみたらとても優しい方で安心しました。

上野 いつも怖いと言われるからね。もう慣れています(笑)。でもミドルとセッターは特にコミュニケーションを取り合わないといけないポジションなので、必然的に話をする回数も増えたし、ユカからいろいろ聞いてきてくれたので、すごくやりやすかったよ。

澤田 今のトスはもっとこうしたほうがいいですか? とか、1本1本聞くように意識していました。

セッターの澤田由佳選手 【NECレッドロケッツ】

――澤田選手から見る、上野選手のミドルとしての強み、上野選手から見る、澤田選手のセッターとしての強みは?

澤田 ブンさんがコートにいてくれるだけで、私は精神的に安心します。ブロックアウトもちゃんと取ってくれるし、トスがちょっとずれてもブンさんがカバーして点数を取ってくれる。パスの返球がずれて、少し離れたところからでもブンさんは打つ幅が広いのでトスを上げやすいし、奥のコースに打ち分けてくれるのですごく助かっています。

上野 泣いちゃう(笑)。ありがとうございます(笑)。ミドルからすれば、セッターがいろいろなゲームプランを考えているがあるのはよくわかっているつもりだけれど、やっぱりなかなか使ってもらえないと苦しい。でもユカはラリー中や、大事な時にも託してくれるので一緒に入っていても助けてもらうことが多い分、私も助けてあげたい。安心するセッターです。

澤田 ありがとうございます!


――お2人の中で会心の一本、これが決まると最高! というのはどんな状況、どんなプレーですか?

上野 たとえばラリー中でも、ミドルの私がミスをしてしまった後、「次にミスが続いたらどうしよう」と使うのを躊躇するタイプのセッターもいると思うんです。
もちろん決められなかった自分が悪いけれど、大げさに言うなら、その1本で今まで練習して積み重ねて来たことも途切れてしまうのか、と結構気持ちも下がります。だからたとえ決まらなくても、ミスをしてしまった後でも積極的に使ってくれるのはすごく嬉しいし、ありがたい。絶対決めたい、と気合が入ります。

会心の一本!後のコートネーム「ブン」こと上野選手 【NECレッドロケッツ】

澤田 私の中でもそこは意識しています。ミスをしてしまうとアタッカーが責任を感じるのかもしれませんが、絶対にアタッカーだけのミスではないし、自分がもう少しこうしていればミスにつながらなかった、と思うこともたくさんあります。自分が修正しながらまた同じ攻撃を使うことで、アタッカーも気持ちが下がらず上がっていけばいいと思うし、自分もやりやすくなる。真ん中の攻撃を使うのは自分の持ち味もあるので、ミスをしても次に切り替えて積極的に使おう、と常に意識しています。

上野 ミドルは使いどころが限られると思うけれど、前衛の3ローテしかない中で1本ミスをした。そのせいで使ってもらえないとなかなかミスから切り替えられないし、「スパイクも打てないのに何でここに立っているんだろう」と思ってしまうこともあるんだよね。だから積極的に使ってもらえるとすごく助かります。

澤田 スタートから入っていた選手はもちろんですが、交代して、途中から入った選手も積極的に使おう、盛り立てようというのもすごく考えます。でもどんな状況でもブンさんがいるとむしろ私のほうが助けられていますよ。たとえばパスの返球がずれて、どうしてもサイド、サイドになっていて、内心では「ここで1本ミドルを使いたい」と思う時にブンさんがいつもトスを呼んでくれるからすごくありがたい。私もここで使いたかった、と同じ気持ちになれたようで嬉しいです。

上野選手が「隠れる時は隠れる」と語る澤田選手(笑) 【NECレッドロケッツ】

上野 いえいえ、こちらこそ(笑)。1本も打たずにサーブを打つ時とか、肩が固まってジャンプサーブが打てない時もあるので(笑)、トスを上げてもらえるとありがたいし、それだけ使ってもらっている以上は「決めなきゃいけない」と思うし、決められない自分にイライラする(笑)。これからも頑張ります。

上野選手の攻撃は鉄壁。澤田選手はブロック名人。

――絶対にこのトスが上がってきたら点数が取れる! と自信のある攻撃は?

上野 難しいですね(笑)。でも一番好きなのはフロントクイック(A、B)かライトからの攻撃かな。
昨シーズンは前衛が2枚(セッターが前衛)時に入ることが多かったので、フロントライトからの攻撃は大切だと思ったし、そこでワンレッグができればいいけれど、あまり得意ではないので、ちゃんと開いて打つほうがしっかり打てると思って、助走に開いてしっかり打つことを意識しました。相手ブロッカーも比較的逆サイド(レフト)を厚めにマークすることが多いので、ブロック枚数が少ない分、結構打ちやすい。ユカにうまく使ってもらいました。

澤田 私からすれば、いつも決めてくれるイメージです。ブンさんは打てる場所も多いですよね。
上野 1年目はバックアタックも打っていたから(笑)。調子がいい時は打てば打つだけ決まるような気持ちになれるんだよね。

澤田 セッターとしてはその日のアタッカーの調子を見るために、試合前の公式練習で、今日は飛んでいるな、とか、スイングが速いな、とチェックするようにしています。
調子がよさそうだな、と思ったらできるだけ序盤にミドルを使うようにして、実際の感覚を確かめる。ブンさんは常に「持ってきていいよ」と言ってくれ下さることが多いし、私も「前半から持って行きます」とか、あらかじめ伝えるようにしていましたね。

上野 試合中も「今ここにブロックがついているから、こうしよう」とかよく話すよね。


――ブロックについて。お2人が前衛で並ぶ時もあると思いますが、その時の駆け引きは?

上野 ユカはブロックがめちゃくちゃうまいんです! 高さがないから、と相手はユカのところを「ヨシ」と思って狙って打つかもしれないけど、ブロックがうまいから確実にワンタッチをしてくれる。心強いです。

澤田 いやいやいや、ちっちゃくて見えないだけですよ(笑)

上野 相手からしたらダメージが大きいと思うよ。手の出し方も上手だし、最後まで相手を見て手を引いたり駆け引きもする。むしろ私より上手なんじゃないかな(笑)

澤田 そんなことないです!(笑)。私からすれば、ブンさんのジャンプサーブで得点が続くとチームが盛り上がるし、1人1人のアタッカーの気持ちも上がるので、攻撃のリズムがつくりやすいです。

生観戦で「チーム力」を感じてほしい

――昨シーズンを振り返って。JTが優勝、岡山が2位という結果も踏まえ、レッドロケッツが足りなかったところがあるとしたらどんなところでしたか?

上野 シーガルズはすごいな、と思いました。相手に何をされてもブレない。チームとしての方向性や戦い方は大きく変わっていない中、2位まで行く力はすごい。そういう面では自分たちはまだその強さがなかったと思います。

澤田 私も同じです。シーガルズは自分たちの特徴を全員がわかったうえでスタイルも変わらないし、レシーブも落とさない。しかも決定率も高かったですね。


――では「レッドロケッツはどんなチームですか?」と言われたら、どんなチーム、どんなスタイルだと思いますか?

上野 8年間在籍して、ずっと言ってきたのは「チーム力の強さ」です。大エース、スーパースターがいない中つないで粘って、目に見えない力、チーム力だけはどこにも負けないと思います。

澤田 私も同じことを言おうとしました(笑)。でも本当に、1人1人がバレーに対して熱い思いを持って練習も全力でやる。当たり前かもしれないですが、このチームが勝つためにどうするか、というのを1人1人が考えているチームだと思います。

昨シーズンは対戦した3戦全てで惜しくも苦杯を喫した。(vs,岡山シーガルズ) 【NECレッドロケッツ】

上野 ただ仲がいいとかそういうことではなく、ちゃんとライバル意識もあるというか。私も同じミドルの選手には負けたくない、というのは一番にあります。
でも最近はだいぶチーム内でも年齢が上のほうになってきたので、チーム全体も見なきゃいけない、と思うし、下級生の子たちにも気づいたことがあれば言う。でも、いざという時にはやりやすい環境、伸び伸びと思い切って試合ができる雰囲気を私たちがつくらなきゃいけないのかなと思って意識するようになったかな。まだまだ全然、できていないんだけど。

澤田 ブンさんは声をかけてくれたり、チームを引き締めて下さるのですごい人です。

上野 すごくない人です(笑)。でもユカと私、年齢は2つしか変わらないんだよね。

澤田 いやいや、大きく違いますよ。安定感が違います(笑)。


――チーム力、という面で言えばレッドロケッツはホームゲームもまさにチーム力の象徴でもあります。お2人はどんな印象ですか?

上野 人数、応援の熱さ、どちらもすごいな、と思うしありがたいです。これまでもたくさんの方に応援しに会場へ来ていただきましたが、これほど(NECレッドロケッツほど)の熱はなかったな、と思いますね。演出もどんどん派手になって、盛り上がり方が違うな、という印象です。

澤田 私は昨シーズンが初めてだったので、人の多さにも驚いたし、雰囲気も圧倒されて試合が始まるまでは「うわー」と緊張して(笑)。試合中はあまり感情を出さないようにコントロールしているので、表には出さないですが、盛り上げていただいてありがたいです。

上野 1本決まった時の後押しがすごいよね。だから自然に自分は上がるし、その応援にも押されて、相手がすごくがっかりしているのを見ると気持ちがいい(笑)。
ホーム&アウェイでいろいろなところへ行く中、会場によって大きな差を感じることはないけれど、それでも「少ないな」と思うことも正直あったので、たくさんの方が来てくれて、盛り上げていただけることはとてもありがたいです。今年は観客数の制限などあるかもしれませんが、ライ(柳田光綺)は人がいればいるほど決まる。ウルトラスーパーサイヤ人じゃないけれど(笑)、ホームゲームとか、決勝とか、大事な試合こそ燃える人なので、今年も大勢の方に見ていただきながら試合がしたいね。
――集客力アップ、盛り上げるために、選手ができることはどんなことだと思いますか?

上野 ユカも私もお互いTwitterを始めました。こういう時代なので、SNSでちょっとでも興味を持ってもらえたらいいな、と。いろいろな人に「こうやったらいいよ」と言われて、お勉強しています。リツイートしたり。

澤田 難しいですよね…(笑)。でも頑張ります。

「Twitterはじめました。」-上野選手 【NECレッドロケッツ】

「同じくTwitterはじめました。」-澤田選手 【NECレッドロケッツ】

――たとえば「足を運ぶ」という意味で言えば、お2人がバレーボール以外に興味があるもの、お金を払ってチケットを買って見に行きたい! と思うものはありますか?

澤田 私は嵐が好きなんです。でもコンサートもチケットが取れないので諦めています。

上野 私はキスマイが好きで…。これ、あんまり言っていないから恥ずかしいんですけど(笑)。実はライブにも行ったりしています。

澤田 ライブへ行って、自分に向けて何かアクションをしてくれたと思うと嬉しくないですか?

上野 わかる(笑)。そこはなかなかバレーボールと重ねて考えることはできないけれど(笑)、でも生観戦ならではの楽しみでもあるよね。

「今だからできること」を大切に

――黒鷲旗や天皇杯が中止になりました。練習もなかなかできず、不安になることはありませんでしたか?

上野 少なからずはありました。私の場合はリーグが終わった後にケガをして、なかなかバレーができない時間が続いたところにプラスして、自粛期間が重なったので「本当にまたバレーボールができるようになるのかな」と思っていました。無観客で行われた男子のVリーグの決勝戦を見ても、こんなに静かなのか、と思ったし。今しかできないことをしよう、と英語を勉強したりしましたが、正直に言えば、不安はありました。

澤田 無観客試合の決勝戦は私もテレビで見ていて、こういう雰囲気で決勝なのか、とびっくりしました。改めてお客さんが来てくれる中でバレーボールができるありがたさも感じましたし、パナソニックのセッター、深津(英臣)さんがすごく声を出していて、それもすごく印象的でした。

レッドロケッツは大会中止を受け、活動自粛前にチーム内で実施した紅白戦をYouTubeチャンネルで配信した 【NECレッドロケッツ】

――インターハイや全中、大学生のリーグ戦なども中止を余儀なくされています。今試合ができず苦しんでいる学生選手の方々に伝えられることがあるとしたらどんなことだと思いますか?

上野 私はインターハイには一度も出ていないんです。でも春高には三度出られて、最後はベスト8に入れて、「よかったね」という終わり方ができました。
節目の大会に出られたことは確かに大きな記録や記憶として残りますが、一番は、高校の3年間、バレーをしてきて学んだことがすごく大きなものだったと思うんです。だから今試合がなくなって、出られない苦しさ、悔しさもあると思いますが、自分が今好きでバレーボールをしていることはなくなったわけではないから、目標がなくなって難しいとは思いますが、バレーボールをしていることに意味を持ってほしいです。

澤田 さすがブンさん、いいことを言いますね(笑)。私もそうでしたが、バレーができない時期があったからこそ、改めて自分はバレーボールが大好きだと感じました。
高校生や大学生もきっとそう感じていると思うので、だからこそこの状況で今しかできないことを地道に積み重ねて、いつか「あんなこともあったけれど、あの時やっておいてよかった」と思えることに挑戦してほしいし、そのことに意味がある。将来にもつながると思います。


――では最後に、新たなシーズンへ向けて。このような現状だからこそ、こんな自分を見せる、こんなチームになるべく挑戦する、など、決意表明をお願いします。

澤田 今はテンポの速い攻撃に挑戦しているので、自分の手離れのタイミングも少し速くするように挑戦しています。今年は、見ていて楽しいバレーをお見せします!

上野 私は課題であるブロックの構えから見直して練習しているので、もっとブロック本数を増やせるように、強みにしてリーグ戦へ臨みます。チームとしても去年はすごく悔しい、散々の結果と言えばそう言われても仕方ない結果になってしまったので、去年と比べ物にならないぐらい頑張りたい。チーム全体に、ぜひ注目して下さい!

最後はお決まりの「Nポーズ」で締めた司令塔の二人にご注目あれ。 【NECレッドロケッツ】

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著者プロフィール

V.LEAGUE DIVISION1 WOMEN(V1女子) に加盟する女子バレーボールチーム。日本リーグで優勝1回、Vリーグでは優勝7回、天皇杯・皇后杯1回、黒鷲旗でも2回の優勝実績がある。2021年、これまでの歴史を継承しながら、更なる進化を遂げるためチームのリブランディングを実施し、ホームタウンを神奈川県川崎エリア、東京エリアとした。チームのエンブレムであるロケット胴体部の三層のラインは、ロケットに搭乗しているチーム、サポーター、コミュニティを表現。チームに関わるすべての皆さまに愛され、必要とされる欠かせない存在になることを目指す。

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