「ピンチをチャンスに。新たなチャレンジを」NECレッドロケッツ 中村GM×中西TD対談 【Vリーグ/女子バレー】

NECレッドロケッツ川崎
チーム・協会

【NECレッドロケッツ】

新型コロナウイルス感染拡大による社会の変化は、プロスポーツをはじめ、スポーツ界全体に大きな影響を及ぼしている。そんな中で、バレーボールの事業化を銘打ち、新リーグとしてスタートしたV.LEAGUEは今シーズンで3シーズン目に突入する。

競技内の枠を超えて、バレーボール界全体で如何に『ファン獲得』をしていくかは今後も重要なテーマとなる。非常事態とも言える中で始まる今季、レッドロケッツはどんな進化を遂げていくのか。チームの舵取りを担う、中村GM、中西TDに話を聞いた。

「女子だから」の固定概念を外したい

――根本的な質問ですが、GMとチームディレクター、それぞれの役割を教えて下さい

中村 まずGMという立場は全体を統括するという意味合いがあります。その中で昨今、ホームゲームや地域活動などが多様化し、さらに様々なことへチャレンジするためにも「チームディレクター」という新たな形で中西さんに加わってもらい、幅広い活動に着手してもらうこととなりました。昨シーズンまではコーチとして現場を見て来た経験や、中西さんが持っている知見。中西さんとはブルーロケッツの選手時代から絶えず交流がありましたが、様々な経験を重ね成長した姿を見てきましたので、その経験値も活かしより幅広いチーム活動につながることを大きく期待しています。

全体を統括するGMはリーグ機構の会議出席などをはじめ、チームの活動を総合的に管理する。 【NECレッドロケッツ】

中西 中村さんから仰っていただいた通りチームディレクターという立場にはいろいろな側面があると思いますが、まずはビジネス面でもっと活動を広げていかなければならないということと、もう1つは現場目線を持ち続けること。昨シーズンまでコーチをしていた経験も活かして現場の目線は忘れずに、チーム内に向けては監督との調整役として、ある時はGMと現場の調整役として、外に目を向ければスポンサーや地域の方々に向けた活動やスカウト活動がメインになると捉えています。私は2005年に選手としてブルーロケッツに入り2009年まで現役、その後8年間の営業職に就き現場でのコーチも経験させていただいたので、そのすべての経験をフルに活かしいていきたいと考えています。選手の頃にはなかなか気づけませんでしたが、立場が変わり中村さんが当時から会社との架け橋になり、対外的な面での調整などいろいろな面で支えて下さっていたことを実感しています。改めて、感謝を形にすべくサポートができるよう頑張ります。

チーム内外の架け橋となるTDは、スポンサー関連からスカウト活動まで幅広い役割を担う 【NECレッドロケッツ】

――コロナウイルスの感染拡大に伴い、Vリーグも無観客試合(男子決勝)や中止(男子V2、V3リーグ、チャレンジマッチ等)を余儀なくされるなど、非常事態とも言える状況下で迎えた今季、レッドロケッツの方向性をどのように考えているのでしょうか?

中西 こういう時期だからこそ、スポーツ、バレーボール、レッドロケッツの価値、見方が変わると思うので、個人的にはチャンスでもあると感じています。直接見ていただく機会がない分、広報活動にもかなり力を入れているのですが、デジタルマーケティングの推進として、SNSを活用しどんどん積極的にチームの情報を発信していき、これまでファンの方からは見えなかったところを見ていただくことも、チームの価値を高める活動だと捉えています。

中村 正直、女子バレー界はまだ閉鎖的で、選手を守る意識が強くあると感じています。実際、私がレッドロケッツに来てからも、「女子だから」という固定概念を外したいと思い、様々な行動変化を試みました。もちろん現場は抵抗があったと思います。たとえば、女子チームは常に団体で行動するのが当たり前、という発想が強くありましたが、バレー教室を1つとってもチーム全員で行くのでは1か所し教室が開催できませんが、グループ化して分かれれば何か所も行くことが可能となります。バレーボール選手でありますが、その前に1人の社会人でもあるため、人間味を広げる、世間を知る意味でも新たなチャレンジが必要であるとの想いから徐々に活動の幅も広げていきました。今回のコロナウイルスが蔓延するこの状況はピンチではありますが、ピンチをチャンスに変える、まさにそういう時が来た、とも考えることができます。なかなか思い切った改革はできずにいましたが、中西さんも加わり、大きく変えるなら今だ、ということで情報発信の意味でも、これまでの枠を超え、「そこまではちょっと」と尻込みするのではなく、失敗してもいいからどんどん前へ出て行こう、と切り替えて考えるようにしました。

【NECレッドロケッツ】

より積極的な発信でチームの価値を高めたい

――たとえば具体的にはどのような活動、行動でしょうか?

中村 以前ならば練習風景を撮ってSNSで流すということ自体、普通は考えられなかったはずです。ではそれでもなぜ練習風景を撮影し、露出するのか。それがファンを惹きつけるものになり、もしかしたら小中学生が見て「Vリーグの選手、NECはこういうことをやっているのか」と憧れの存在と感じてもらえるかもしれない。そういった1つ1つの積み重ねで、バレーボールというスポーツをより親しみあるものに感じてもらえれば、と強く願っています。

中西 私が女子の世界に初めて入った時、印象として女子はオフェンスよりもディフェンスに力を入れるイメージが強くありました。でも今シーズン、金子監督はオフェンス面を徹底して力を入れて行くと宣言していますし、それはバレーボールに限らず“攻める”“チャレンジする”というのはチームとしても共通することだと思います。

チームの公式SNSでは、リアルな練習風景を掲載している<6/18更新の公式Twitter> 【NECレッドロケッツ】

――発信力、という点ではそれぞれ強み、苦手なことなど違いがあると思いますが、チームとしてはどのように促していくのでしょうか?

中村 人の発信力は人それぞれ、大きな力を持っていると思います。たとえばこれまでの生活の中で人と話すことや接点が少なく、人と話すことが苦手と思っているのかもしれませんが、機会を提供することでそれもクリアになるかもしれない。選手の発信力というのは本当に大きな力がありますので、選手自ら発信機会をつくることで自身の価値観も高められますし、チーム全体の価値にもつながる。個々の人間力もチーム力も高められる、相乗効果が生まれるのではないでしょうか。

中西 昨シーズンは選手の中でも「ミーティングの質、コミュニケーションの質を上げよう」という意識がかなり高く実践もできていたと思います。ならば今度はそれを外に向けて行く。所属する部署に対してもそうですし、地域のパートナーさん、いろいろな人たちと会話をしていくことで言葉として伝えられる力をつける。なおかつプレーで見せられる力をつけることが、成長にもつながっていくと思っています。

公式HPのメンバー一覧には選手個々のSNSアカウントを掲載し、より選手自らの発信機会を広める取り組みに。 【NECレッドロケッツ】

中村 たとえば古賀選手は、日本代表など今まで人前で話す機会は多くあっても、どちらかといえば人前に出ることを得意とするタイプではありませんでしたが、今はチームの中でも年齢、経験が上になってきたことで、これまで以上に自覚も芽生え、率先した言動が目立つようになり頼もしくなってきています。今後も彼女が持っているプレーの魅力、人としての魅力を今まで以上に向上させ、さらに成長してもらいたいですね。今年は大きな成果を発揮してくれることを期待しています。

中西 非常にまじめな選手が多く、取材などは言葉を選んで考えすぎてしまうケースもありますが、機会が増えればそれだけ成長につながります。機会を増やすことも含め、次につながるサポートをバックアップしていきたいですね。

SNSのライブ配信を行う澤田選手(左)と古賀選手(右)<5/6更新の公式Instagram> 【NECレッドロケッツ】

「攻めのバレー」と「攻めのスタッフ」。レッドロケッツはONE TEAM!

――集客面について。今シーズンはこれまでの観戦方式とは変わる部分もあるかもしれませんが、長期的な視野でより集客を増やすためにどんな方法を考えていますか?

中村 これまでもNECのホームゲームは多くの方々のご支援をいただき、ある程度の成功はしてきたと思っていますが、我々はそこで満足するのではなく、今まで一度も見に来ていただけなかった方々にも会場へお越しいただき、空席を埋め会場を満席としたい。「NECのチケットは取りにくい」と思われるぐらいの集客につながるのが理想です。もちろん実現のためには課題が多々ありますが、これまで以上に「どうしたら満員にできるか」と選手も色々なことを考えてくれています。多くの方に足を運んでいただくきっかけをつくるために我々スタッフもいろいろな活動もしていきますが、お客さまは選手を見に来る、バレーボールという競技を見に来ます。そのためには選手の情報発信力も大きく左右してくるはずです。今後の状況次第で無観客になるのか、制限されるのか、様々なシチュエーションが考えられますが、将来的には選手と観客が一体となった会場となることを目指していきたい。選手はこれまでのように、試合をして帰ります、というだけでなく、見に来てくれる方々との交流の場を持てるような企画もしていきたいですし、その形は無限大にあるはずです。もちろん最初はできる範囲からですが、今までの常識を覆すようなことにチャレンジして、NEC、レッドロケッツの価値を高めて、他のチームが「NECってすごい」と真似してくれるような組織づくりに取り組みたいです。

【NECレッドロケッツ】

中西 コロナウイルスの感染を懸念し、この状況で試合会場へ足を運びづらいのは小さな子供がいる家族連れ、お子さんをお持ちの女性層ではないでしょうか。今すぐには難しいですが、我々はそこにこそファン層を増やしたいと思っていますし、来ていただいてバレーボールを見るだけでなく、必ず何かを持って帰ってもらう。その方法をより具体的にすることがレッドロケッツ、バレー界の発展にもつながっていくと思います。

中村 ファンの掘り起こしというのはすごく大切なことで、昨シーズンは初めて家族シートを設けました。1年目だったので定着とは至らず、まだ知らない方も多くいらっしゃると思いますが、NECはそういう取り組みをしているんだ、と多くの方に認知していただけるように積極的に展開していきたいですね。今でこそ、川崎フロンターレは人気、実力を備えたチームですが、それは長い年月をかけ、地道な活動を続けた結果でもあります。我々もまだまだ知られていないことが多くあると思いますので、まずは多くの方々に知っていただき、応援していただけるチャンスを広げたい。地道な努力を重ねることによって1日1日、1人ずつファンを増やすことが、大きな成果にもつながると思っています。

中西 そのためにもいろいろな方とコラボレーションをして、イノベーションを起こしていくことが僕の役割でもあると思います。チームと地域、ファンの方々をつなぐハブでもあると思っているので、頑張ります。

【NECレッドロケッツ】

――先ほど「ピンチはチャンス」と仰っていました。具体的に、この状況をプラスに変えるべく、どんなことに取り組んでいきたいですか?

中村 時代や環境に合わせてできることはたくさんあるはずです。バレーボールでも、相手が様々な戦略を練って攻めて来る中、自分たちが何も対応せずやられるがままだったら、これは負けですよね。こういう世界においても新たなチャレンジ、気づきを克服することによって価値が見えてくる。監督が「攻めのバレー」をしていくならば、我々もチームを支える立場として同様に「攻めのスタッフ」としてチームと一緒に戦っていく姿、スタッフと現場が一丸となった「ONE TEAM」としての姿をお見せしたいです。

中西 攻めるというのはスピードも求められます。フロント側の人数が増えたことで単純にスピードも高められると思っていますので、スピード感も意識しながら取り組んでいきたいですね。

NEC事業場内に設置されている『Red Rockets共創自動販売機』は売上の一部が活動費に充てられる。 【NECレッドロケッツ】

中原地区をはじめ、地域の街頭にはタペストリーを掲載し、認知度の向上を目指している。 【NECレッドロケッツ】

バレー界発展に向けた「変化」と使命感

――愛されるクラブになるために、中村さん、中西さんの立場から選手に求めるのはどんなことでしょうか?

中村 選手もこの自粛期間は本来の活動ができず、体力は落ちたかもしれませんが、考える力は大きくついたと思っています。バレーボールができる環境のありがたさを実感し、自分たちのやるべきことが今まで以上に再確認できたと思いますので、それを実現するためにプレーも成長してほしいですが、1人の人間としてさらに自分自身の磨きをかけてほしいですね。選手たちは「強くなりたい」「うまくなりたい」という気持ちを常に持ち続けています。これからはそこにプラスして視野の幅をもう少し広げていければさらに成長があるはずです。バレーボールはボールだけでなく、人と人の心をつなぐスポーツです。この数か月で彼女たちが認識し、大きく成長した部分をいかんなく発揮してほしいです。

中西 自分自身を成長させるためには、意識を高めることが第一ではありますが、まずは自分が所属するNECレッドロケッツというチームを成長させる、そのチームがより一層自分を成長させるための場となる、という意識を持って、新しいことにどんどんチャレンジしてほしいですね。これまで中村さんがつくられた育成型のチームという形を大事にしながら、未来ある有望な選手一人ひとりに合ったコンサルティング型・プランニング型のスカウト活動を展開していくことも、これからの私の仕事であると思っています。

中村 たとえばプロである野球やサッカーのように競技力向上を第一に掲げるならば、それぞれ戦力を補い、しのぎを削ったほうが技術力は向上するかもしれません。ただし、我々は競技力だけでなくNECグループという仲間を大切にしなければいけない使命もありますし、地域に根付く、バレーボールの人口拡大やバレー人気を支えるということも我々の責務であり使命です。どうしてもバレーボール界はまだ閉鎖的でもあり、今のままでバレーボールの発展につながるかといえば、正しい方法ではないかもしれません。山あり谷あり、色々と障害はあると思いますが、フレキシブルな考えを持ってチャレンジしていくことがレッドロケッツ、バレー界の発展につながるのではないでしょうか。

「バレーボール発展のために何ができるか」。選手自身が自ら考え、意見を出し合う 【NECレッドロケッツ】

――では最後に、改めて「新たなチャレンジ」を掲げる今シーズンに向け、決意表明をお願いします

中西 今シーズンはこれまでのように会場で見ていただく、選手と接する機会を設けるなどリアル活動には制限がかかってくることが考えられ、「見る」ということにも変化が生じるはずです。だからこそデジタルの活動を社内外問わずいろいろな業態、企業、個人、多くの方に発信し、レッドロケッツの活動に賛同していただける方がいらっしゃればいろいろなところでコラボレーションして、いろいろな価値を上げて行くための取り組みを積極的に進めて行きます。

中村 監督も3年目を迎えました。これまでの2年間は遠慮もあったと思いますが、金子監督の考えも浸透し、本当の意味での金子監督体制でのスタートだと思っています。金子監督のバレーボールにかける大きな情熱をもって、今年のチームは本当にやると思います。コートに立つのは6人かもしれませんが1人1人に持ち味があり、いろいろな楽しみがあります。後悔はさせませんので、雰囲気も含め、NECレッドロケッツの魅力を味わっていただきたいと強く思っていますので、1人でも多くの方に応援していただきたい。どのような形での観戦方法になるかはわかりませんが、ご来場いただけるようになった際には、会場を後にした時「よかった」と思える何かがあるチームです。我々も大きく前進する年と位置付け、今までにないレッドロケッツ、これまでのいいものに新たなものが加わったレッドロケッツを見ていただきたい。どうぞ、期待して下さい。

【NECレッドロケッツ】

SNSで話題沸騰、再生回数も20万回超えを連発した #ネット際 #ベンチ目線 動画は今季も大注目のコンテンツ。

昨季、Vリーグチーム初の試みとして 「#ネット際」「#ベンチ目線」のスローハイライト動画は選手達とコート内で共に戦っているような感覚を味わえ、再生回数は20万回越えを連発。関係者間でも話題となった大注目のコンテンツは今季も必見だ。
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著者プロフィール

V.LEAGUE DIVISION1 WOMEN(V1女子) に加盟する女子バレーボールチーム。日本リーグで優勝1回、Vリーグでは優勝7回、天皇杯・皇后杯1回、黒鷲旗でも2回の優勝実績がある。2021年、これまでの歴史を継承しながら、更なる進化を遂げるためチームのリブランディングを実施し、ホームタウンを神奈川県川崎エリア、東京エリアとした。チームのエンブレムであるロケット胴体部の三層のラインは、ロケットに搭乗しているチーム、サポーター、コミュニティを表現。チームに関わるすべての皆さまに愛され、必要とされる欠かせない存在になることを目指す。

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