佐藤澪×小島満菜美 NECレッドロケッツ・リベロ対談 「点が取れなくても、ミスをした人を救える唯一の存在がリベロ」【Vリーグ/女子バレー】

NECレッドロケッツ
チーム・協会

【NECレッドロケッツ】

スパイクが床に落ちるまでの時間は僅かである。その間に反応してレシーブを拾わなくてはいけない。その反応能力を最も問われるのがリベロである。
それはほんの瞬間的な一面であり、本質はその前後にある。唯一スパイクを打つことのできないポジションが極める、守備の醍醐味について、レッドロケッツの両守護神に聞いてみた。

ボールに触っていない人の動きを見ればバレーボールの面白さがわかる

――お互いリベロとして、どんな風に見ていますか?

佐藤 マナミ(小島)は2歳下なので、大学の時からプレーを見る機会も合宿などで一緒にプレーする機会も多くありました。その時から積極的に話すし、動き回る。一生懸命さは今も変わらないと思います。

小島 大学で初めて会った時は、私がうるさいタイプなので余計に(笑)、落ち着いている人だな、と思いました。淡々とプレーするタイプですよね。背は小さいけれどディグ(※注1)の反応がよくて、どんな体制でもきれいに返す。才能があるな、私には真似できないけどあんな風にできたらいいな、と憧れていました。


(※注1)ディグ=スパイクレシーブ

佐藤澪選手 【NECレッドロケッツ】

――コートの中でかける声、たとえばリベロの方々はどのような声をかけていますか?

佐藤 たとえばレセプション(※注2)の時だったら、笛を吹く寸前ではなく点数が動いた時にポジションに戻りながら自分が守る範囲を伝えます。そうすることで自分も確認するし、相手にも確認させる。ネットにかかったサーブを取るのはミドルブロッカーなので、そこを忘れさせないようにしたり、セッターもパニック状態の時もあると思うので声をかけるようにしています。

小島 私は対戦相手に対してプレッシャーをかけることもあります。この人はクロスが得意だ、とわかっていれば「クロス多いよ!」とか、セッターが前衛の時は「ツーあるよ!」と声をかけます。同じミドル、セッターでもタイプが違うので、その人に合わせて声をかけるように意識していますね。

佐藤 マナミはコートの中で黙る時がない。自分を犠牲にできる人だよね。

小島 いやいや、チイ(佐藤)さんは職人ですから(笑)。


(※注2)レセプション=サーブレシーブ

小島満菜美選手 【NECレッドロケッツ】

――リベロの醍醐味。派手なフライングレシーブに歓声が起こることが多いですが、リベロ目線でファインプレー、会心のプレーと思うのはどんなプレーですか?

小島 私はミドルがあえて抜かせたボールを、自分がきちんと当たり前にコースへ入って上げる。そこからいいテンポで攻撃ができた時は「よっしゃ!」と思うし、リベロは点数が決められないので、空いているところや、「次フェイント行けるよ」と伝えて、実際にフェイントが決まるとめちゃくちゃ嬉しいです。

佐藤 わかる! 私は相手が決まらない時に打つボールを読めた時。そこにいて、動かず取れた時は地味だけど、相手を苦しめている感じがするからすごく嬉しい。

小島 ジワジワ攻める感じですよね(笑)

佐藤 そう、ジワジワやっつける(笑)。苦しい時だけでなく、いい状況の時もアタッカーは思い切り打ち込みたいだろうけど、だからこそ苦し紛れに上げるのではなく、楽に上げて攻撃につながった時は嬉しいし、だからこそあんまり喜ばないで、地味に喜ぶ(笑)。

ソーシャルディスタンスを保ってインタビューに応じる2人 【NECレッドロケッツ】

小島 相手だったらめちゃくちゃ嫌ですよ(笑)。リベロ目線としては、ボールに触っていない人の動きを見てほしいですね。
どうしてもボールの動きに目が行きがちだと思いますが、それだけじゃなくて、スパイクを打つ時もブロックに対して他の選手がどうフォローに入っているかとか、レセプションをする選手の周りでどんなアプローチをしているか。ボールに触っていない人の動きを見てもらえると、バレーボールも面白いと思います。

佐藤 ここに来るだろうとあらかじめ予想していても、ブロックに当たって違う方向へ行ったボールに対する咄嗟の反応がすごく上手な人もいるよね。そこまで見ている人はなかなかいないかもしれませんが、とても大事なプレーなので注目してほしいですね。

小島 たとえばサーブを打たれる時も私はめちゃくちゃ駆け引きをするタイプなんです。
どこを狙われているかわかったら、トスを上げて、サーブを打つ選手がボールを見た瞬間に動いて隣の選手に代わって取りに行く。
そういう動きを入れるだけで相手は「次も動いてくるかもしれない」と思うので、今度はわざと動かなかったり、駆け引きする。うまくいかない時もあるんですけど(笑)

“すごい”と見えないリベロこそ“すごい”

――他チームのリベロに目を向けて、意識する人、上手だと思う選手は?

佐藤 山岸(あかね=埼玉上尾)選手です。
ポジショニングもいいし、経験があるし、ボールを落とさない。ブロッカーがちょっと間違っていても自分のポジショニングで上げ切っているイメージがあります。球質もめちゃくちゃいいですね。

小島 私もそう思います。すごく見えないリベロほどすごいですよね。プレー面以外の面も加えるなら(小幡)真子(JT)さんはリーダーシップがすごい。
ユニバーシアードの合宿で一緒になったことがあるのですが、コミュニケーションの取り方も上手で、うまくみんなをやる気にさせる声掛けをしていたので見習いたいです。


――ではリベロの目線で、この選手のサーブは嫌、という選手はいますか?

佐藤 (長岡)望悠(久光スプリングス)さんのジャンプサーブです。左利きなので普通とは回転が逆なのですごく取りづらいです。

佐藤選手のコートネームは「チイ」 【NECレッドロケッツ】

小島 私は鍋谷(友理枝=デンソー)さんです。向いた方向とはわざと逆へ打ったり、なおかつスピードを落とさず、前後にも打ち分ける。
駆け引きが上手なので、レシーバーとして駆け引きがしづらいです。たとえばジャンプフローターも見ている方からすれば「何であれがポイントになるんだろう」と思うかもしれませんが、想像以上に手元で落ちるし揺れる。回転がかかったボールと比べると、無回転のフローターサーブは芯をとらえるのがとても難しいです。

佐藤 確かに。(木村)沙織さんのフローターは嫌だった。力を入れたり、わざと落としたり。全部変えて来る。めちゃくちゃ取りづらかった。


――お2人ともジュニアやユニバ、シニア代表など世界との対戦を経験しています。日本と世界、どんな違いがあると感じていますか?

小島 ハングリーさが違います。バレーボールをしていかないと食べていけないプロ選手ばかりなので、どんな時も「絶対に勝つ」という気持ちが強い。日本人のように協調性を持つというよりも、私が決める!というタイプの選手が多いので、1本に対しての思いがより強い気がします。

佐藤 リベロでも背が高い人が多くて、170cm以上も当たり前。サーブの打点が高いし、身長や手の長さも違う。ボールへのパワーの伝え方は本当にすごくて、中国の朱婷選手のスパイクボールは1本レシーブしただけでアザができた(笑)。
でも繊細さは日本人のほうが長けているよね。誰かが1本目でミスをしたとしても、2本目のカバーする形や返す場所、細かいところだけど日本人選手のほうが丁寧な印象があるかな。

小島 海外の選手はあまりパスの質や、つなぐ球質に対する概念はなさそうですよね。そこに上げてくれれば打つからいいよ、じゃないですが、犠牲の精神はあまりないのかな。とにかくどんな状況でも私が打ちます、と点数を取ることに貪欲な印象が強いです。

小島選手のコートネームは「マナミ」 【NECレッドロケッツ】

佐藤 しかも最後は必ず打って決めるよね。スパイク自体も重いし、そもそもの打点が高いし取りづらいし、ボールが変化するから、飛ばされる。
でも日本人でもエバ(江畑幸子=PFU)さんのように、海外選手と同じような回転をかけてくる人がいて、そうなるとブロッカーもちゃんと手を出さないと抑えられないし、後ろのレシーブも上げづらい。日本代表で一緒だった時もとにかくうまいので、練習の時から「嫌だなぁ」と思いながら受けていました(笑)

小島 わかります。私はデンソーの中元(南=デンソー)選手はパワーもすごいし、毎回嫌だなぁ、と思っています(笑)

声で周りを上げる。リベロのマネジメント

――試合の中で劣勢や攻勢、序盤や終盤などいろんなシチュエーションがある中、リベロとしてのメンタリティはどんな風に心がけていますか? ミスをしてしまった時など、どのように切り替えているのでしょうか?

佐藤 特に20点以降でレセプションのミスは命取りになるので、ネットに近すぎず、高さと距離を確認してここへ持って行こう、というのはいつも以上に心がけます。

小島 もしミスをしてしまったとしても、過ぎてしまったものは仕方ないし、そこで自分がベストと思って選択した結果なので、それは自信を持って、この失敗はしょうがない。次に活かすしかないと切り替えます。でも、試合後は結構引きずっています(笑)

佐藤 わーやっちゃった、とは思うよね(笑)。でも試合中は続いているから、すぐ切り替えて忘れて、同じことをしないように、と心がける。
でもミスをしたボール、状況はずっと覚えているよね。後ろに来ると思って後ろで守っていたら前に打たれて取れなかったり、崩されたり。その試合じゃなく、前の試合だったとしてもその場面は頭の中に焼き付いているので同じミスを繰り返さないように、というのはいつも考えますね。

小島 チームとして引きずらない関係ができていればいいですよね。たとえばプレーを選択する時も「こっちに(ボールが来ると思って)懸けるね」とチームで共通認識していたうえでミスが出たなら、仕方ない、と周りも思えますよね。でも私が単独で判断していたら「何やってるの?」となるし、それはよくない。駆け引きをする時も、それは考えます。

ミスをしても冷静さを保つことを意識しているという佐藤選手 【NECレッドロケッツ】

――ミスをしてしまった人、調子の上がらない選手に対してはどうアプローチしますか?

佐藤 とにかく声をかけまくります。ミスをしたら「すぐ切り替えて」と、怒るんじゃなく、前向きに引き上げる。
顔や態度に出てしまう選手もいますが、まず自分が絶対にそれはやらない。リベロが顔や態度に出すと周りから信頼されないと思うし、リベロというポジションは唯一ミスをした人たちのことを救える存在なんじゃないかと思っているので、試合の時は一番後ろからみんなを見て、調子が悪そうな人にはボディタッチをしたり、積極的に話しかけるようにしています。

小島 私は人によって変えます。ミイ(山内美咲)とは付き合いが長いし、基本的には何も言わないで、追い込まれているな、と思う時は「落ち着け」とだけ言います。大学の後輩の野嶋(華澄)には「何やってんの?」とか、少し厳しめの言葉をかけたほうが効果的ですね(笑)。
中にはあまり言われたくないタイプの選手もいるので、そういう時はセッターに言います。「いい場面で打たせて、乗らせてあげようよ」とか「本数を集めて打たせたほうがいいから、後半勝負するために、今のうちにもっと打たせてあげて」とか、セッターに伝えて、セッターのトスとして状態を上げてもらう。そういう意識はしています。

佐藤 マネジメントだね。すごいなぁ。

自らもダイナミックなプレーを披露しながら周囲への気配りも常に神経を使う 【NECレッドロケッツ】

――2人とも大卒選手。大卒ならではの難しさ、大学へ行ったからこその利点はどんなところで感じていますか?

佐藤 大学は4年間あって1年生から4年生まで歳も離れているので、上下関係もしっかり学べる。その中で、勝つためにやるべきことが明確になりましたし、厳しい環境だったので、今、勝負の世界で踏ん張る力になっていると思います。

小島 下級生の大変さも上級生の大変さも経験できているのは強みですよね。たとえば年下の子たちに対しては、練習前や合宿前にいろいろな準備をしなければならないけれど、ただ年下だから、と適当にやるのではなく、「こういうところを妥協するとプレーにも出るんだよ」と伝えることができる。
年上の人たちに向けても、自分が大学でキャプテンをして、引っ張る大変さは少しだけわかっているつもりだし、周りがこうしてくれると助かったな、と思うことは積極的に動いて、サポートする。それはちょっとよかったのかな、と思います。

コラボもSNSもできることは積極的に!

――外出自粛期間などボールに触れない期間、練習に制限がある期間、お2人はどんなことを考えていましたか?

小島 まず天皇杯や黒鷲旗ができるのかな、というところから始まって、モチベーション的には上げづらい時期もありました。
新チームになってからも全体練習はできず、不安もあったし、目標設定がしづらい時もありました。でもこの状況を味わったからこそ、バレーがあるのが当たり前だった生活が、当たり前じゃないんだ、と改めて思えた。バレーに限らず、すべて当たり前じゃないんだ、といろいろなところで感じることがありました。

SNSで公開した自粛期間中の「おうち時間」で小島選手はフルーツサンド作りに挑戦 【NECレッドロケッツ】

佐藤 命が一番大事だと思うので、大会がなくなるのは賢明な選択だったと思いますが、引退する選手にとっては残念な終わり方だったと思います。
今も誰がかかってもおかしくない状況が続いているので、最大限の注意をしますし、試合がない中でバレーボール選手としてお給料をもらっていいのかな、と思うこともあります。でもだからこそ、バレーボールをしなくてもできることを探そうと思って取り組んできましたし、いいイメージを持つことで補えるものもあると思います。世界の状況によって変わることがあるかもしれませんが、10月の開幕に向けて今できることを精一杯やって頑張るしかないと思っています。

「おうち時間」で佐藤選手は自宅トレーニングを公開 【NECレッドロケッツ】

――人が集まることに制限があったり、思い通りにいかない状況ではありますが、そんな中、アスリートができることは何だと思いますか?

佐藤 チームでもSNSで情報を発信していて、練習風景なども載せているのですが、練習前のちょっとした表情を見て、面白いと思ってもらえればいいな、と思いますね。

とどろきアリーナでのHG前にグッズをPRする佐藤選手(2019/11/22更新の公式Facebook) 【NECレッドロケッツ】

小島 今までも応援して下さった方は既存のSNSをフォローして、情報を集めて下さっていると思いますが、新規獲得のためには若い人に向けても発信できるコンテンツを考えたいですね。
たとえば話題になりそうな動画を撮ったり、試合のチケットをプレゼントしたり、賛否両論あっても、そのおかげで存在を知った、ということにもつながるだろうし、最初はそこからでもいいんじゃないかと思うんです。たとえばホームゲームでも今流行っている漫画とコラボして新しいファンを増やしたり、とどろきで同じ日にサッカーとバスケとバレーをやって、どれかのチケットがあったら割引で行けるとか、いろいろ挑戦してみたら面白い。チイさん、もしも他競技が見られると言われたら行きますか?

佐藤 自発的に「行こう」と思わなくても、たとえば他競技を見に行って、その選手が「これからバレーを見に行きます」と言ったら、そのままサッカーやバスケを見たお客さんも流れてくるかもしれないよね。

小島 コラボしましょう! 名前を知ってもらうという意味でもアリだと思います!
――会場によってはまだ人が少ない試合もあります。選手の立場で、実際どんな風に見て、感じていますか?

佐藤 体育館が大きすぎて、これだけ大きいと人は入らないよな、と思うこともあります。それならば小さい会場で人がたくさん入っているように見えるほうがいいですね。プレーする側としても客席が近かったり、圧迫感があるほうが盛り上がると思います。

小島 一体感が生まれますよね。そのまま試合後すぐにコートでファンサービスがあれば、ファンの方ももっと身近に感じて接しやすいかもしれないし、また来たい、と思ってくれるかもしれない。そこはもう少しオープンに、ラフであってもいいのかな、と思います。

ムードメーカーの小島選手が先頭に立ってユニークな演出をする(2019/8/31ファンフェス) 【NECレッドロケッツ】

佐藤 代表戦で経験したけれど、やっぱりお客さんがいるほうがテンションも高まるし、パフォーマンスも変わる。たくさんのお客さんの前で試合が見せられたらいいね。


――最後に、今シーズンのレッドロケッツ、ご自身のプレー、見る方に向けた決意表明をお願いします!

小島 個人的には「誰?本当にマナミ?」と思わせるぐらい成長するので、待っていて下さい。今年こそ優勝するので、一緒に最高の舞台に行きましょう!

佐藤 どんな時もスタッフ、選手、チーム力を欠かすことなく団結してやり続ける姿を見せ続けます。熱い思いをたとえ画面越しでも伝えたいと思います。頑張ります。

最後はお決まりのNECレッドロケッツ「N」ポーズで対談を締めくくったチームを救う両守護神に注目だ。 【NECレッドロケッツ】

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著者プロフィール

V.LEAGUE DIVISION1 WOMEN(V1女子) に加盟する女子バレーボールチーム。日本リーグで優勝1回、Vリーグでは優勝7回、天皇杯・皇后杯1回、黒鷲旗でも2回の優勝実績がある。2021年、これまでの歴史を継承しながら、更なる進化を遂げるためチームのリブランディングを実施し、ホームタウンを神奈川県川崎エリア、東京エリアとした。チームのエンブレムであるロケット胴体部の三層のラインは、ロケットに搭乗しているチーム、サポーター、コミュニティを表現。チームに関わるすべての皆さまに愛され、必要とされる欠かせない存在になることを目指す。

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