難関の中量級の頂を見据え、信じる道を行く渡来美響 李健太との注目の無敗対決で答えを示せるか

船橋真二郎

渡来美響(三迫)。難関の中量級の頂を真っ直ぐ見据える 【写真:船橋真二郎】

 国内中量級注目の一戦が3月1日に迫ってきた。13階級で日本王者と最強挑戦者が激突する恒例の「チャンピオン・カーニバル」の中でも、屈指のカードと前評判が高いのが東京・後楽園ホールで行われる体重63.5キロリミットの日本スーパーライト級タイトルマッチだ。

 王者の李健太(り・ごんて、帝拳/28歳、8勝2KO1分無敗)は大阪朝鮮高級学校時代に高校6冠、62連勝というアマチュア日本記録を打ち立て、日本大学では名門の8年ぶりとなる関東大学リーグ戦優勝から4連覇に貢献。112戦102勝の戦歴を手土産にプロ転向し、無敗のままベルトを巻いた。

 そんな王者に対し、同級1位で6戦全勝4KOの渡来美響(わたらい・みきょう、三迫/26歳)が挑む。武相高校、東洋大学時代は無冠も、92戦77勝のアマチュアキャリアは「あくまでプロで世界チャンピオンになるため」と意に介さない。

「無敗同士で盛り上がるとは思いますけど、僕の中では今までの延長線上にある試合。ここで獲れなければ、世界のベルトなんて獲れるわけがないので。やることをやって、勝つだけです」

 この階級では昨年9月、平岡アンディ(大橋)が世界挑戦権を獲得。1992年9月9日に平仲明信がWBA王座を失って以来、4人目の王者に王手をかけている。

 平岡とは記念すべき第1回U-15ボクシング全国大会の小学生の部・優秀選手賞に選出された者同士。渡来が次の候補のひとりとして名乗りを上げるか。世界的に層が厚く、日本人には難関と言われる中量級の頂を真っ直ぐに見据え、信じる道を行く。

渡来美響の独特のボクシング

昨年10月の最強挑戦者決定戦に圧勝し、チャンピオン・カーニバルで王者・李健太との無敗対決に臨む 【写真:船橋真二郎】

 この一戦の注目度をグンと引き上げたのは渡来だろう。

 やはり注目を集めた昨年10月の最強挑戦者決定戦に4回TKO勝ち。今やウェルター級の世界4団体すべてで上位ランクにつける佐々木尽(八王子中屋)とダウン応酬の末、引き分けたこともあった関根幸太朗(ワタナベ)との無敗同士の一戦に圧勝し、違いを見せつけた。

 9勝中8KOのパワーを寄せつけなかった。ラウンドが進むにつれて、かわしては打ちのリズムに相手を取り込んでいった。最後は左フックを空振りさせ、バランスを崩したところにワンツーを痛打。躍りかかるように強打をまとめ打ち、ダメージの深い関根をレフェリーが救った。

 派手なストップ勝ちにも「ディフェンスの重要性を再確認した」と冷静に振り返る。もともと絶対の自信を持つディフェンスは渡来のボクシングの根幹をなすものだが、「ずっと意識してきたことが身に着いてきて、ある程度、試合で実用できた」と語る。

「向こうは、当たると思って打ってるかもしれないけど、ギリギリ当たらない。それでうまく空回りしてくれて、今までの試合の中でも楽に勝ったほうかな、と思います」

 当たりそうで当たらない――まさにトランクスに入れてきた“GHOST”(幽霊)の信条通り、関根のメンタルをディフェンスでかき乱したからこそのフィニッシュだった。

「やったことのないタイプの選手でした」。花咲徳栄高校、拓殖大学でアマキャリアもある関根の試合後の感想が向かい合った者しか味わえない渡来のボクシングの独特さを表しているのではないか。

 前足の位置取りで圧力をかけながら、アップライトに立てた上体を駆使して、絶妙な間合いを築き、「相手を前に出させないプレッシャー」をかけるのだという。卓越したディフェンスを誇る現・WBC世界ライト級王者のシャクール・スティーブンソン(米)からヒントを得た。

 その「目に見える間合い」以上に重要なのが発する雰囲気という。試行錯誤しながら「自分の意識的なこととか、言葉では表現できない」ポイントをいくつか発見したことで「ようやく習得できてきた」と解説する。

 始まりは2023年4月。世界トップクラスの力を肌で確かめるため、アメリカ東海岸のニューアークに足を運び、ジムの先輩の吉野修一郎がシャクールに6回TKOで完敗したWBC世界ライト級挑戦者決定戦を現地で観戦したことだった。

 目指す中量級トップとの想定以上の距離に「絶望感」さえ覚えた渡来は、その隔たりを超えるべくラスベガスのメイウェザージムで2度の合宿。中学2年生からロールモデルにしてきたフロイド・メイウェザー(米)の父・シニアと幼なじみで、“メイウェザーの真髄”を知るドン・ハウス・トレーナーに師事し、自分のボクシングを深化させてきた。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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