町田は昨季の「弱点」をどう克服していくのか? 沖縄キャンプの試行錯誤と現状

大島和人

町田は黒田体制で3季目を迎える 【(C)FCMZ】

 サッカーのチームに完璧はない。しかも試合の中で時々刻々とお互いに「隙」が生まれては消える。勝負は往々にして自分たちの強みをどう出し、相手の弱点をどう突くかという瞬時の判断共有で決まる。

 FC町田ゼルビアはJ1最少の31失点でシーズンを乗り切った堅守のチームだ。初昇格ながら3位と好成績も収め、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)エリートの出場資格もほぼ手中にしている。しかしチームは夏場以降に失速して、優勝を逃した。終盤戦は相手の対策に苦しみ、自分たちの強みを出せない試合が続いた。

 今季の町田は黒田剛監督が3シーズン目の指揮を執り、主力もほぼ全員が残留している。一方で沖縄キャンプ期間中の練習試合を観察すると、新しい取り組みが見て取れた。露呈した弱点を消そう、埋めようという狙いだろう。

「シャッフル」「我慢」の1月

 一昨季、昨季の町田はプレシーズンの練習試合で圧倒的な強さを見せ、そのままの勢いでシーズンに入った。ただし2025シーズンは端的に言うと仕上がりが遅い。この1月に町田が組んだ練習試合はここまで4試合。相手は大学、JFL、J3、J1と様々で、内容と結果がそこまで悪かったわけではないものの、町田らしい「攻守に迷いなく出ていく迫力」が乏しかった。

 1月21日にヴィッセル神戸、沖縄SVと2試合を終えた黒田監督はこう口にしていた。

「去年、一昨年と夏場に少し足踏みをしてしまった反省を踏まえて、今年は『うまくいかないときに誰が何をできるか』にこだわりたい。敢えてうまくいかないシチュエーションを多く作りながら、その中で誰がリーダー性を持っていい方向に持っていけるかという見極めも並行して行っています」

 もう「黒田監督がプロで通用するのか」「町田がJ1で通用するのか」を疑問視する人はいない。そんな中で、今季はシーズン開幕まで少し遠回りをすることが許されている。

「去年、一昨年は私の不安もありました。割と固めたい、少しでも達成感を持って入りたいという狙いがありました。今年はACLも見据えた中で、誰が出ても同じようなパフォーマンスをして、戦術理解も持てるようにしなければいけない。そのためには(メンバーを)シャッフルをしないといけませんが、そういう作業はリーグが始まってからだと難しい。我々スタッフの中でも『1月は我慢しよう』と話をしています」(黒田監督)

「うまくいかないシチュエーション」の狙い

昌子源はキャプテンとして昨季の快進撃を支えた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 2025年シーズンのキャプテンは帰京後の「総選挙」で決めるとのことだが、前キャプテンの昌子源は間違いなくチームを引っ張るリーダーだ。キャンプに限らない町田の課題は昌子以外にチームを引っ張れる存在の台頭と、コミュニケーションの活発化だ。

 黒田監督はこう強調する。

「中2日で海外に行ったとき、源がいなかったらチームをまとめる者がいないなどと言ったら、ACLを戦う資格さえなくなる。誰が出ても一つまとまれる、各ポジションにリーダーがいることが望ましいし、ベストは11人のリーダーがピッチ上にいることです」

 昨季のJ1王者・ヴィッセル神戸は山口蛍がキャプテンを任されていた一方で大迫勇也、酒井高徳、武藤嘉紀と同レベルのリーダーが揃っていた。町田は神戸、サンフレッチェ広島に比べると若いチームで、27〜28歳に主力が固まっている。彼らもこれからチームを引っ張る存在となっていかねばならない。

 昨夏に加入した中山雄太はこう口にする。

「優勝するチームはリード、お互いの要求でチーム力を上げている部分がある。町田も選手の能動的な言動がもっと増えればいいと思います。去年は優勝を逃して、自分も途中から入ってきてその足りなさを感じていました。自分が一番いいプレーをして、そういうプレーの中での発言力を持たせていきたい」

 オランダ、イングランドとヨーロッパで6シーズンを過ごした彼はこうも言う。

「何か分からないことを抱えたままプレーするイコール、勝つ気がないと感じ取れてしまいます。分からなかったら聞くしかないし、うまくなりたいなら盗めばいい。そこがあるべきコミュニケーション、行動だと思います、町田はまだそこが足りません」

 町田は監督やキャプテンが一方通行で引っ張るだけでなく、「お互いが引っ張り合うカルチャーづくり」に取り組んでいる。その一例が「うまくいかないシチュエーション」の設定だ。

 チーム戦術の部分でも2023年、24年との違いが見て取れる。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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