独自の言葉で振り返る、大谷翔平の2024年

タイトルに無頓着な大谷翔平も頬を緩めた「50-50」 A.ロッド、ケン・グリフィーJr.も“異次元”強調

丹羽政善

「指名打者だから、では説明がつかない領域」

マリナーズ時代のケン・グリフィーJr.とイチロー 【Photo by Otto Greule Jr/Getty Images】

 少し前のことになるが、昨年のワールドシリーズで、5度の本塁打王となったロドリゲスと、30歳を超えてからは多くのケガによってフル出場が困難となったにも関わらず、通算630本塁打を記録したグリフィーJr.に、大谷の記録について話を聞く機会があった。

 ともに、大谷のパフォーマンスを異次元と捉え、1998年に42本塁打、46盗塁をマークしたロドリゲスは、「スピードとパワーの両立は本当に困難だ」と実体験をもとに話し始めた。

「パワーをつけようと体を大きくすれば、スピードが失われる。そのパターンが圧倒的に多いけど、どうバランスをとるか、常にジレンマがある。でも、翔平はそれを高いレベルで両立させてみせた」

 彼自身、パワーに舵を切り、禁止薬物を使用するという愚まで犯した。両立どころか、どちらかをキープしようとするだけでもプレッシャーとなり、それが選手の判断を狂わせる。

 グリフィーJr.はまず、「外野を守っていないことが、『50-50』を可能にしたんじゃないかな。やはり、外野を守ることは、足への負担が大きい」と指摘した。

 彼自身、50本塁打以上を2度記録。1996年から2000年まで、5シーズンの年平均は49.8本。しかし、盗塁は99年の24盗塁が最高。スピードはリーグでも屈指だったが、センターを守り、さらに彼がマリナーズでプレーしていた時代の本拠地キングドームは人工芝だった。内野手だったロドリゲスとは視点が異なるが、とはいえ、大谷の「50-50」を否定しているわけではない。

「50本、50盗塁なんて、どちらか一方を達成することも難しい。指名打者だから、という見方はあるかもしれないが、それだけでは説明のつかない領域だ」

 100年を超えるMLB史を紐解いても、“スーパースター”に分類される二人。その二人をもってしても、「50-50」は越えられなかった。大谷も胸を張りたくなるわけである。

次の「50-50」候補者は?

2024年のMVP投票でア・リーグ2位となったボビー・ウィットJr.(ロイヤルズ)。打率.332、211安打、109打点、31盗塁、OPS.977をマークした 【Photo by William Purnell/Icon Sportswire via Getty Images】

 もっとも、投手として復帰する今季(2025年)は、昨年のように盗塁を試みるかどうか未知数。やはり、投手をやりながらでは、体力的な負荷が大きい。昨年は投手としての準備がない分、相手投手の研究など、盗塁の準備に時間を割くこともできた。物理的な時間も限られる。となると今後、大谷が二刀流を続けている限り、「50-50」を再び達成することは、可能ではあるものの、リスク・負担が今年の比ではなくなり、チームからストップがかかりうる。

 ではいつか、大谷に肩を並べる選手が現れるのか。現役なら、昨季32本塁打、31盗塁をマークしたボビー・ウィットJr.(ロイヤルズ)にそのポテンシャルがありそうだが、ショートという守備の負担も加味すると「40-40」が限界か。

 もちろん、遠い将来、大谷のようなモンスターが現れることは否定できない。しかし、それでも「50-50」の壁は決して低くない。跳ね返されたそのとき、再び大谷の偉業に光が当たり、評価されるのかもしれない。

※連載「独自の言葉で振り返る、大谷翔平の2024年」は、今回をもちまして終了となります。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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