RBライプツィヒの巨大施設に潜入! 最先端技術も活用…「RB大宮」の未来がここにあり!?

舩木渉

RBライプツィヒのトレーニング施設は市街地から車で5分ほどの場所にある 【写真:舩木渉】

ホームスタジアムに散りばめられた工夫

 Jリーグに大きな変革の波が押し寄せてきた。今年9月末、レッドブル社による大宮アルディージャの買収が成立したのである。

 2025シーズンからJ2に昇格する大宮は、世界中にネットワークを広げるレッドブルグループの一員に。クラブ名も「RB大宮アルディージャ」と改称し、Jリーグでは初めて完全海外資本のクラブに生まれ変わる。

 一体これからどうなっていくのか。大宮の将来に大きな期待が膨らむ一方、先行きを不安視する人々も多いだろう。だが、幸いにもレッドブルグループにはロールモデルとなるクラブがいくつもある。

 そのうちの1つがRBライプツィヒだ。当時ドイツ5部リーグに所属していたSSVマルクランシュタットをレッドブル社が買収したのは2009年のこと。それから約15年でRBライプツィヒはドイツ屈指の強豪へと急成長を遂げ、UEFAチャンピオンズリーグの常連クラブとして国際的なプレゼンスも高めている。

 Jリーグのシーズンが終了した後の12月中旬、筆者はRBライプツィヒの内部を取材するチャンスに恵まれた。ホームスタジアムであるレッドブル・アリーナや巨大なクラブ施設を見学して一番に感じたのは、レッドブルがサッカーにかける凄まじい熱意だった。

 ライプツィヒの街には、RBライプツィヒの存在をよく思わない人もまだいるという。街のサッカー用品店の店員に話を聞くと、「俺はRBのことが好きだけど、街の人の意見は好きか嫌いかでハッキリ分かれていると思う。嫌いな人はロコモティフェやヒェミーを応援しているよ」と教えてくれた。

 ただ、1.FCロコモティフェ・ライプツィヒやBSGヒェミー・ライプツィヒのファン・サポーターは今や少数派だ。両クラブとも4部リーグを戦っており、RBライプツィヒは彼らをごぼう抜きしてブンデスリーガの強豪になった。レッドブル・アリーナでのホームゲームは常にエネルギッシュでアグレッシブなサッカーに熱狂するファン・サポーターに満たされている。

 スタジアムでは地元のファン・サポーターに寄り添った工夫が随所に見られた。レッドブル・アリーナはドイツで完全キャッシュレスの仕組みを導入した最初のクラブの1つで、メインのオフィシャルグッズショップは来場者の約6割が通過するゲートのすぐ横に設けられているなど、観客ができるだけストレスなく試合を楽しめるような配慮が行き届いている。しかも、グッズの売り上げだけで年間600万ユーロ(約10億円)にのぼるというから驚きだ。

 そして、最も驚かされたのはホスピタリティの手厚さだった。レッドブル・アリーナのメインスタンドには何層にもわたってVIP用のラウンジが設けられており、利用する権利を持っていれば試合前後に無料で食事を楽しむことができる(もちろんレッドブルは飲み放題だ)。スポンサーのランクによっては内装をカスタマイズできる個室も用意されるなど、ラウンジが社交の場としても機能しており、試合後には選手たちもラウンジに上がって家族などと食事を摂ってから帰路につくという。また、約1000人を収容できるフロア(下の写真)ではイベント開催などが可能で、試合開催日以外にもスタジアムで収益をあげるための仕組みが出来上がっている。

レッドブル・アリーナのメインスタンド側には各階層に充実したVIPラウンジが設けられている 【写真:舩木渉】

 来場者の満足度を上げるためのホスピタリティに関わるスタッフの数は警備員よりも多いのではないかと感じるほど。RBライプツィヒの試合運営には何千人ものスタッフが関わっており、若者たちもイキイキとした表情で働いている。クラブの収益を街に還元するだけでなくホームゲーム開催やイベントのために膨大な数の雇用を生み出すなど、RBライプツィヒは街にとってなくてはならない経済インフラになっているようだった。

かつてはコンテナをロッカーに使っていたが……

クラブハウス内ではアカデミー所属選手もユスフ・ポウルセンのようなトップ選手と同じ設備を利用する 【写真:舩木渉】

 一方、同じタイミングで視察に訪れていた大宮の原博実フットボール本部長(2025年1月より新社長に就任予定)が感銘を受けたのは、クラブハウスにおける「育成のための施設へのこだわり」だった。

「トップチームが使う空間とアカデミーの選手たちが使う施設は分かれていますけど、お互いに様子が見えるようになっていました。寮の部屋の作り方にもこだわりがある。そうやってアカデミーの選手たちがトップチームにできるだけ近い施設を支えるのは理想的だと感じました。ただ生活すればいいのではなく、お互いが刺激を受けながら成長できるクラブハウスの作りは本当に素晴らしいな、と」

 レッドブル・アリーナのすぐ近くに建てられたトレーニング施設は、まさしくRBライプツィヒの急成長を象徴している。その施設内でインタビューに応じてくれたトップチームの最古参選手、ユスフ・ポウルセンはこう証言する。

「そもそも僕がこのクラブに加入した当時、このようなクラブハウスはまだなくて、更衣室はコンテナでした。現在U-19チームが使っているグラウンドのあたりにあったと思います。みなさんがご覧になったスタンドもなかったです。ここに移ったのは、確か2年後のことだったと思います。

 最高のレベルに達するためには常にプロフェッショナルであるべきですが、かつてはそうあるための環境が不足していました。でも、このクラブハウス完成以降はピッチ外の多くのことが劇的に変わりましたし、プロ意識高くトレーニングを積める環境ができたおかげで、チーム内に最高のレベルを目指すための非常に素晴らしい雰囲気が出来上がったと思います。アカデミーの選手たちは僕たちトップチームと同じ施設を使い、僕たちと同じトレーニングを積める。若い選手にとっては日常からプロサッカー選手としての習慣を身につけられる場所になっていると思います」

 ポウルセンがRBライプツィヒに加入したのは2013年のこと。当時クラブはドイツ3部リーグを戦っていた。すでにグラウンドは現在と同じ場所にあったが、クラブハウスが完成したのは2015年で、2015-16シーズンにブンデスリーガ2部で2位となったRBライプツィヒは悲願の1部初昇格を果たした。

広大な敷地にはクラブハウスの他にスタンド付きのミニスタジアムなどが整備されている 【写真:舩木渉】

 その後も拡大を続ける施設一体には、アカデミーや女子チームの公式戦を開催できる約1000人収容のスタンドがついたミニスタジアムをはじめとした天然芝ピッチが5.5面、人工芝ピッチが3.5面分あり、さらに現在新たな天然芝ピッチを造成中だ。トップチームの他に男子アカデミーの各世代と女子チームが使用するクラブハウスの延べ床面積は1万7000平方メートルにのぼる(女子チームはまもなく新たに建設中の専用クラブハウスへ移動予定)。

 クラブハウス内には各チームのロッカールームの他、カフェテリアやアカデミー選手のための寮、屋内トラック、スタッフのオフィスなどが併設されている。中でもトレーニングジムは特徴的で、アカデミー用とトップチーム用が向き合うように作られており、ガラス越しにお互いの様子を見ることができるようになっている。他の一部設備も共用で、若い選手がトップチームの存在を間近に感じながら研鑽を積めるような環境になっているのだ。

アカデミー選手が使用するジムからの風景。対岸にはガラス越しにトップチームが使用するジムが見える 【写真:舩木渉】

 アカデミー所属の選手たちがトップチームの選手と顔を合わせる機会も多く、ポウルセンは「トップレベルに到達するためにどれだけの努力や献身が必要かについては折を見て伝えていますし、それは僕が彼らに対して果たすべき役割だと思っています」と明かす。若手の成長を促すオープンなコミュニケーションが生まれる空間は意識的に作られたものだ。

「アカデミーに所属する若者たちの中には非常に才能豊かな選手もいますが、大半はプロサッカー選手になれない可能性が高い。ユース年代では国内のトップ20に名を連ねるような選手だったとしても、プロになれるとは限りません。だからこそ若者たちには毎日一生懸命にハードワークしなければならないことや、何かに到達したとしても努力の日々が終わらないことを理解させるのが最も重要だと思っています。

 若い選手は何かを達成してしまうと『もうこれだけできたから何もしなくていいや』と現状維持モードに入ってしまい、努力や献身の重要性を忘れがちです。でも、僕は『もう何もする必要はない』などと考えたことはありません。もしタイトルを獲得したとしても、その瞬間から次のシーズンが始まっていて、再び最初からやり直さなければならないことを忘れてはならないのです。それこそがアカデミーに所属する選手やトップチームに新たに加わる若い選手たちに伝えるべき、最も重要なことだと思います」

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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