伏見工業の赤黒ジャージーが、懐かしくも新しい「京都工学院」として再び花園に!【第104回全国高校ラグビー大会・注目校紹介】

斉藤健仁

OB会とも協力し、強化・サポート体制を構築

 伏見工業から日体大を経て教員となり、中学校の教諭をしていた大島監督に白羽の矢が立ったのは2019年。2016年に伏見工業は洛陽工業と統合して京都工学院という校名になり、2017年に校舎を立命館中学・高校の跡地に移転。2018年には全学年が揃った。

 人工芝のグラウンド、ラックが15台もある大きなウェイトトレーニング場など施設面では私立の強豪校と比べてもまったく遜色ないものになった。ただ、大島監督は「当時は学校が新しくなり、校名だけでなくコーチ陣も変わったばかりで、いろいろと重なって大変でしたね」と正直に吐露する。その後、大島監督は京都市やOB会のサポートを受けながら、ラグビー面はもちろんのこと、強化体制、環境整備を一歩ずつ進めていった。

広々とした自慢のトレーニング施設には、ラックが15台も揃う 【写真/斉藤健仁】

 4年前には、OB会の協力も得て、監督の2学年下に当たる細川明彦コーチ(早稲田大学OB)を招聘した。細川コーチは伏見工業時代、SH田中史朗さん(元日本代表/NECグリーンロケッツ東葛)とハーフ団を組んでいて、現在は主に戦術やBKをコーチングしている。

 さらにOB会とともに3年前から「FOXプロジェクト」も立ち上げた。狐は伏見工業時代から続くエンブレムであり、「FOX」はOBチームの名だ。OBの三宅敬さん(元日本代表/埼玉パナソニックワイルドナイツ)を中心に、現役引退したばかりの内田啓介さん(元日本代表/埼玉パナソニックワイルドナイツ)、SO松田力也選手(日本代表/トヨタヴェルブリッツ)といったOBたちに指導を受ける体制も整えた。

 ほかにも京都で小学校の教諭を務めている安岡忠和コーチ(元福岡サニックスブルース)にスポットでスクラムを指導してもらい、工業科の教諭として赴任してきた吉永怜史先生(日本文理大ラグビー部出身)もコーチングスタッフに招き入れた。S&Cトレーナーはもちろんのこと、京都市内のドクター、最寄り駅の整形外科に勤めるトレーナー2人などもチームをサポートしてくれている。

 大島監督の下には、中学教諭時代のつながりで、京都の有望な選手が集まるようにもなっていた。現在も106名の部員のうち大半は京都市出身だという。ハード面、ソフト面が整備されたこともあり、2022年には春の選抜大会に出場。今年、打倒・京都成章を成し遂げるまで復活したというわけだ。

受け継ぐ「信は力なり」と赤黒ジャージーで、ノーシードから目指す栄冠

 ところで、選手たちに「スクール☆ウォーズは見たことがあるか?」と聞いてみると、「少しは見たことがありますが、ガッツリは見ていません……」という答えが返ってきた。ただ、広川キャプテンは「京都成章に勝って、あらためて伝統がある学校で、想像以上に応援されていることがわかりました」と驚いた様子を見せた。

 伏見工業時代に山口監督が掲げた「信は力なり」というスローガンは、京都工学院になっても不変である。副キャプテンのCTB木村航(3年)は「出られへん仲間の分まで、出ている選手が一生懸命頑張る。そして出られへん仲間も出ている選手に向かって精一杯応援するのが『信は力なり』だと思います」。自分たちがやってきたことはもちろん、一緒に戦ってきた仲間を信じることが勝利につながるということはチームの信念となっている。またチームには「シンチカタックル」という言葉も定着している。大島監督は、かつて伏見工業が花園で優勝したときの映像をよく生徒に見せている。「仲間のために、体を張ったタックルのことをそう呼んでいます」とSO杉山が言うように、ディフェンス、タックルもチームの伝統であり、大きな拠りどころとなっている。

練習で鍛えてきた接点・タックル。スローガンからとった「シンチカタックル」はチームの伝統 【写真/斉藤健仁】

 あらためて花園の目標、そしてどんなプレーをしたいか聞くと、広川キャプテンは「京都工学院らしいアタッキングラグビーをして、優勝して京都に帰ってきたい。個人的にはランニングが得意なのでランでチームに貢献したい」。副キャプテンの木村は「気持ちを前面に出したプレーが得意なので、ディフェンスで勝利に貢献したい」、もう1人の副キャプテン・HO羽田匠之介(3年)は「HOはセットプレーのキーポジションなので、BKを支えることができるようにFWから安定して勝っていきたい」と意気込んだ。

 またOBである元日本代表の名選手になぞらえて「平尾誠二2世」との呼び声が高い2年生のSO杉山は「一戦一戦大切にして頑張っていきたい。個人としてはSOなので、ゲームコントロールしてチームの勝利に貢献したい」と前を向いた。

伝統校を率いる写真左から木村航(副キャプテン)・広川陽翔(キャプテン)・羽田匠之介(副キャプテン)。 【写真/斉藤健仁】

 惜しくもノーシードとなった京都工学院は、12月27日の1回戦で花園初勝利を目指す聖光学院(福島)と対戦する。勝利すれば、30日に東海王者で選抜大会ベスト8の中部大春日丘にチャレンジする。指揮官として初の花園となる大島監督は「もちろん優勝が目標。行けるところまで勝ち進みたい。京都工学院は花園に出て喜んでもらえる学校じゃない。花園で赤黒ジャージーで勝つことでみなさんに喜んでもらえるし、それが赤黒の復活だと思っています。また山口先生に教えてもらったボールを動かすラグビーも見せたいですね」と自身に言い聞かせるように話した。

 京都工学院はノーシード校ながら台風の目となるだけのポテンシャルを十分に持ったチームである。校名は変わったものの、赤黒ジャージーが花園で旋風を巻き起こし、かつての輝きを取り戻すことができるか。

U-17日本代表の2年生トリオ。写真左からPR春名倖志郎・SO杉山祐太朗・CTB林宙 【写真/斉藤健仁】

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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